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『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』
馬鹿な格言だと思う。ナンセンスだ。
人は皆平等だと思うかい?
答はNOだ。
それが正しいなら格差社会、ましてや戦争等起きやしない。
人は生まれた時に全てが決まる。
世の中は99%の凡人と、1%の特別で成り立っているのだ。
その1%が俺である事は言うまでもない。
凡愚共が羨望の眼差しを向ける、正に神に選ばれたこのルックス。
ルックス良いだけが取り柄の馬鹿は多い。勿論それらは99%の凡人側だ。
俺は神のルックスだけじゃない。頭脳、身体能力、全てが完璧に揃った神の申し子。選ばれし1%の中でも特別な存在なんだよ。
今はまだ雑誌モデルに甘んじているが、ゆくゆくは日本の映画スター、最終的にはハリウッドスターに成るべくして成るのが、神が俺に敷いたレールだ。
よく覚えとけよ99%共。近い内に俺は、“世界の二階堂玲人(にかいどうれいと)”と崇められる事になるだろう。
その特別なはずの俺が……
――何故こんな事になっている?
***
「何処だよここは……?」
茹だる様な蒸し暑さに目を覚ましたら、其処は見知らぬ場所、というより暗くて良く分からない。
そもそも何でこんな所に居るんだ?
不意に身体に感じる違和感。
「何だよこれっ!?」
俺の両手両足が動かない、と言うより縛られてる?
押せども退けども抗えないそれは、拷問で捕らわれた時に漫画でよくある鎖の鉄錠で、四方から繋がれていた。
おまけに何故か素っ裸……だと?
この俺が一糸纏わぬ姿で捕らわれているとは、なんという屈辱の極み。
「糞ったれがぁっ!!」
無意味に叫んでみた処で、反響して木霊するだけだった。
落ち着け俺。少し冷静になって考えてみよう。
何故こんな状態なのか?
一体誰がこんな事を?
「…………」
思い出せない……。目が覚める前の記憶が飛んでいる。
――その時だった。
「誰だっ!!」
何やら鉄格子が開くような音が聴こえたのは。
それに続く足音。誰かが近付いてくる。
そして電球が点けられたのか、此処の全貌が露となった。
此所はどうやら地下室の様だ。
殺風景なコンクリートのみの四方八方が、かえって無機質な不気味さを醸し出していた。
「お目覚めのようねジョン」
俺の目の前にやってきたのは官能的な格好の、俺の数多の女性遍歴にも記されていない、見知らぬ女だった。
歳は三十路を越えてるだろう。若作りしてるが、俺の経験から培った着眼は誤魔化せない。
しかもこの格好……。所謂女王様スタイルか?
黒髪を結い上げ、歳の割りには張りの有る豊満な胸元を強調した黒いレーザーが、蠱惑的な色気を演出している。
はっきり言ってスタイル抜群だ。絵になる、とは言っても俺程じゃないが。
それにしてもジョン……だと?
「おいふざけてんのか? 何だよジョンって?」
この二階堂玲人に向かって……。
いや待て、突っ込み処はそこじゃない!
「あら? アメリカでは身元不明人をジョンと呼ぶのよ。アナタにピッタリの良い名前でしょう?」
女は当然とでも言わんばかりの主張。
その前に、この状況は何だ?
「アナタは私の犬として飼うんだから。犬には犬らしい名前を付けなきゃね」
話が見えない。何なんだこの女は?
「ねぇ……二階堂玲人君?」
「――っ!?」
コイツ……俺の事を知っている?
まあ雑誌モデルしてるし、将来的にはハリウッドスターになるのだから、今知っていた処で、別段おかしくは無い。
それ程俺は周りの目を惹くのだ。
「ふざけんな! 今すぐこれを外せよ!!」
そんな俺を犬として飼うだと? それは言語道断以外の何物でも無い。
そんな事は神が許さないんだよ。
俺は力の限り、女を罵倒した。
枷が外れたら今すぐにでも、その若作りした綺麗な顔をぐしゃぐしゃにしてやりたい。
「あらあら反抗的ねぇ。手荒な真似はしたくなかったけど、ジョンには躾が必要のようね」
そう言って女は、手に持った革製らしき鞭を両手でパンと引っ張る。
手荒な真似はしたくないだと?
どう見ても、はなっからヤル気満々にしか見えない。
鞭の鋒を地面に垂らしながら、女は愉快そうに笑っていた。
「オイまさか……? 止めろぉっ!!」
自分でも無意味な事を言ってると思う。
この女が何をしようとしてるのか、分かってはいても叫ばずにはいられない。
「知っているかしら? ペットの躾には痛みを覚えさせるのが一番なのよ」
そんな事知りたくもない。
俺は人間だ。その中でも特別な二階堂玲人だぞ。
「良い声で哭きなさい」
女は鞭を振りかざし、遠慮なく俺の身体に這わせる。
「うぐぁっ!!」
瞬間、身体に走る激痛。
「まだまだよ!」
何度も何度も。想像以上に痛い。
「もっと良い声で哭いてちょうだい!」
女の表情が生き生きとしてきた。
こいつ……サディストか?
「やっ……もう止めてくれぇっ!!」
恥ずかしながら懇願していた。
いくら神の肉体を誇る俺でも、生身で受け身も出来ない状態では、鞭の痛みに耐えきれるものではない。
「返事はワンよジョン」
ふざけた事ぬかしやがって!
駄目だ! こいつは嫌がる俺の動向を楽しんでいる。
我慢だ。悲鳴はサディストを付け上がらせるだけ。
ポーカーフェイスだ。反応無ければ、すぐに飽きるはずだ。
「オホホホホ」
“ビシッビシッ”
……
“ビシビシビシッ”
…………
“ビシビシビシビシビシビシビシッ”
………………!
駄目だ! 飽きる処か、ますます激しくなっていきやがる!!
こいつに常識は通用しない。
「止めてくれぇぇっ!!」
痛い痛い痛い痛い痛い!!
激しさを増していく鞭の痛みに、気がどうにかなりそうだ。
「ホホホ、ようやく立場が理解出来たかしら?」
出来る訳がねえだろ!!
こいつは俺が『理解出来ました』と言っても、これを緩める事は無いだろう。
そう、目がイっちまってやがる。
「ひぎぃっ!!」
「ジョンは良い声で哭くわねぇ……。こっちまで感じてきちゃうわぁ」
痛みを与える事に悦楽を見出だしているようだ。
「ああぁ……素敵よジョン」
御満悦な表情で鞭を振るう度に、そのはち切れんばかりの豊満な胸は揺れ動き、ずれ落ちてトップレスが御対面しそうな勢いだ。
興奮と湿度からか女の肌身は汗ばみ、ほんのりと湯気が立ち上っている。
これがSMプレイ大好きのマゾヒストなら、泣いて喜ぶシチュエーションだが、俺にそんな趣味は無く不愉快なだけだ。
目の前にいるのは、俺にとっては只の醜い雌でしかない。
「……まだ私の事を思い出さないのかしらね?」
女は手を緩める事無く、意味深に呟いていた。
俺はこいつの事を知っている?
いや知らないはずだ、記憶に無い。
それより痛みで考えが覚束無い。
「さ く や の こ と」
昨夜の事だと?
邪魔する痛みを振り払って、必死に昨日の記憶を探り出してみる。
昨日は確か――