テーブルに並んでいる料理は統一性を持たせるというより、皆が好きそうなご馳走を……という感じで、メインは手巻き寿司だけれど、ローストビーフや見た目が綺麗な前菜、サラダなど多岐にわたっている。
「それでは、私は次に参りますね」
キッチンの片付けを終えた町田さんはさっそうと立ち去り、あとは美味しいお酒で乾杯しての宴会となった。
「それにしても、こんなに立派なマンションに住まれていたなんて……」
母がまた言い、ほうっと溜め息をつく。
すっかり態度を改めた亮平は、自分より格上の尊さんの住まいに圧倒され、彼を尊敬の眼差しで見ていた。
夢見心地になっている美奈歩は、もう私への対抗心は持っていないみたいだ。
恵はそんな私たち家族を、「良かったね~」という目で見ている。
亮平は尊さんのワインセラーに興味を持ち、彼のお勧めチーズとのマリアージュ等を教えてもらっている。
男性陣に継父も混じってワイワイしている間、女性陣はリビングでまったりと寛いでいた。
「素敵な人に巡り会えて良かったわね」
心底安心したらしい母に言われ、私は「うん」と頷く。
「水を差すようだけれど、怜香さん? あちらのお母様はどうなっているのかしら?」
少し声を潜めて尋ねられ、私は答えられる範囲で言う。
「捜査中の事は教えてもらえていないの。ただ尊さんが知っている事や揃えた証拠、実行犯の人の証言もあるから、そう軽い処分にはならないと思う。それに裁判は何か月も待ってやるものだし、向こうも弁護士がいるから、簡単には〝結果〟は出ないんじゃないかな」
「そうね。その結論が出る頃には、世間の人たちの興味も逸れているでしょうね」
「うん」
私たちはのんびりと結婚の準備をすると決めたし、時間が掛かればそのぶん世間から忘れられ、丁度いい。
「ねぇ、速水さん優しい?」
美奈歩が尋ねてきて、私はにっこり笑った。
「うん、凄く優しいよ。理想の彼氏」
素直に返事をしてから、自慢になっていないか不安になる。
「そっか、良かったね」
でも美奈歩はもう以前のような険を出さず、素直に私たちを祝福してくれた。
(良かった……)
ホッとした時、恵がトントンと私の肩を叩いてきた。
「ん?」
彼女を振り向くと、恵は「かんぱーい」とビールの入ったグラスを私のグラスに合わせてきた。
「えっ? あはは、乾杯!」
何も言わなくても、恵は今までの事を知っているから、美奈歩と私の空気感を見て理解してくれたんだろう。それで、「おめでとう、良かったね」と祝福してくれている。
――ありがとう。
インフルになってから怒濤の勢いで今日に至ったけれど、私はとうとう好きな人と結婚を前提に同棲する事になった。
家族にも認められたお付き合いで、とても大好きな相手。
あとは何にも邪魔されず、幸せな結婚ができたらいいけれど……。
「係長にチョコ買わないとなぁ……」
ボソッと言うと、恵が「ええー?」と声を上げる。
「休みに理解を示してくれたし、きっと課長が何か言っていたと思うけど、復帰したあと何も言われなかったし、尊さんが宥めてくれたのもあるだろうけど、係長も一応味方になってくれたわけで……」
「まぁ、課長はブツブツ言ってたね。でもフォローしてたのは部長だから、あんまり気にしなくていいんじゃない? 係長は部下の前でだけいい事言って、あとは割とだんまりだし。これでチョコあげたら調子に乗るって。あいつ、ただでさえ朱里を気にしてるから、図に乗らせたら駄目だよ」
厳しめの感想を言われ、私は「そっか……」と考える。
その時、私たちの会話を聞いていたのか、尊さんがこちらを見て言った。
「じゃあ、俺からチョコ渡しておこっか」
「へっ?」
まさか尊さんが係長にチョコを渡すと思わなかったので、私は声をひっくり返らせる。
「上村さんから報告を受けた体で、『寛大な処置をありがとう。女性社員にチョコの強要はいただけないから、ご褒美として俺から高級チョコを進呈』って感じで」
「採用!」
尊さんの提案を聞いた瞬間、恵がパンッと手を鳴らしてからビシッと彼を指さす。
「部長ぐらい美形の男性からチョコを渡されたら、係長もまんざらじゃないでしょ」
「おい、やめろ」
けれど続いた恵の言葉に、尊さんはげんなりして突っ込み返した。
私はそんな二人のやり取りを見て笑いつつ、自分用に桃のリキュールと高級オレンジジュースでファジーネーブルを作る。
引越祝いの最後は、尊さんごひいきの高級パティスリーのケーキが振る舞われ、皆で「うまいうまい」と言ってご馳走になったあと、片付けをしてお開きとなった。
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コメント
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トッキーには部長からチョコ🍫😎👍️💕 うん❗️それが良い‼️😁www
チョコ問題も部長から🍫で解決かなー?(笑)トッキーには義理でもあげちゃいかん!ナ ̵̲"め †="め┓(*´゚ω`)┏
上村家といい感じになってるし、恵ちゃんは親戚みたいだし、直近の問題はトッキーのチョコ🍫くらいだね😆