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「……なぁ蓮。最近の若者というのは、スマホの画面をタップするだけで大金持ちになれると思っておるのか?」コマが社務所の畳の上で、怪訝そうにスマホの画面を見つめていた。画面には【誰でも簡単!初月から月収100万を稼ぐ秘密のサクセスサロン】という、いかにも胡散臭い広告が表示されている。
「そんなわけねぇだろ。楽して稼げるのは、他人に『楽して稼げる方法』を売ってる奴だけだ」
蓮は冷房の効いた部屋でアイスを食べながら、いつものように冷ややかに言い放つ。
そこへ、一人の大学生――陸(りく)が、魂の抜けたような顔で境内に足を踏み入れてきた。彼の背後には、異様な怪異が這い回っている。それは、ネット上の誇大広告や「限定セミナー」への執着が生んだ怪異――『情報商材の金縛り』だ。
陸の首や手足には、キラキラしたゴールドの「偽物の鎖」が何重にも巻き付いており、その鎖の表面には
【不労所得】【勝ち組】【自由な人生】
といった意識の高い文字が、ノイズのように明滅している。鎖は陸の体から気力を吸い上げ、彼の財布から直接、目に見えないエネルギーを吸い取っていた。
『これに入れば人生逆転』『投資しない奴は一生負け組』
「助けてください……っ。ネットで見つけたサロンに入ってから、最初は『これで見返せる』ってワクワクしたのに、次から次へと高額な『上位コース』を勧められて、もう借金が……。でも、今やめたらこれまでの投資が無駄になるって言われて、スマホを見るのが怖いんです……!」
陸が頭を抱えて泣き崩れる。怪異の鎖はさらに太くなり、彼を完全にがんじがらめにしようとした。
「(あー、これか。典型的なサンクコスト効果とマインドコントロールのハイブリッドだな。胸糞悪い)」
蓮はアイスの棒をゴミ箱に放り投げ、面倒くさそうに立ち上がった。
「なるほどね。……学生さん、お祓い代はちょっと値引いて18万でいいよ。その代わり、アンタの目を覚まさせて、その『偽物の鎖』を木っ端微塵にしてやる」
蓮は懐から、神社のロゴ入りタッチペンを抜いた。
「いいか。本当の成功者はな、他人に儲け話を教えるために時間を割いたりはしないんだよ。……コマ、あの成金趣味の鎖を叩き切るぞ!」
「おう! 若者の純真な夢を食い物にする詐欺師め、神罰を受けよ!」
コマが眩い純白の神力を放ち、蓮のタッチペンに吸い込まれていく。ペン先は「現実」を突きつけるような、鋭く冷徹な青い光を放ち始めた。
蓮は襲いかかるゴールドの鎖を身軽な動きで回避し、陸のスマホから伸びる鎖の根本――サロン主の「偽のプロフィール」と「サクラのアカウント群」が渦巻くコアを見定めた。
「神様だって、賽銭をもらわなきゃ動かない。汗もかかずに金が湧くと思うなよ」
蓮はタッチペンを空中に走らせ、怪異のコアに向かって容赦なく突き立てた。
「――誇大広告削除・現実直視(クーリング・オフ)!!」
ズガァァァン!!!
光の刃が偽物のゴールドの鎖を真っ二つに叩き切った。怪異は「このコンテンツは削除されました」というエラー音と共に、今度はシュレッダーにかけられた「ただの偽札の紙屑」へと変わり、境内の風に流されて消滅していった。
同時に、陸の体を縛っていた重圧が完全に消え去り、スマホのサロン画面は強制退会のアラートを表示して真っ白になった。
「あ……消えた。僕、何を信じ込んでいたんだろう……。目が覚めました……!」
陸は涙を拭い、正気に戻った顔で蓮に深く頭を下げた。手元にあるなけなしのお祓い代を支払い、「これからは地道にバイトして借金を返します」と、どこかスッキリした表情で神社を後にした。
夜。社務所で蓮は頂いた現金を数えながら、ふぅとため息をついた。
「まぁ、18万はアイツにとって高い授業料だったな。これで二度と騙されないだろ」
「蓮……お前、言葉は相変わらずキついし金はきっちり取るが、今回はあの若者の人生を本当に救ったな」
コマが少し見直したように蓮を見る。
「勘違いするなよコマ。俺は『楽して稼ぐ』を自称する同業他社(詐欺師)が嫌いなだけだ。楽して稼ぐんじゃねぇ、俺みたいに『技術に見合った正当な暴利』を貪るのが正しい商売なんだよ」
「……やっぱりただのクズ神主じゃったわ。拙者の感動を返せ」
コマが呆れて丸くなる中、蓮は新しく手に入れた資金で、神社の広報用SNSのセキュリティを強化する設定を始めるのだった。