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「お、藤塚さんおはよう。」
事務所に入ると、間の抜けた笑顔に出迎えられた。彼がいることは分かっていたのに、何故か心臓が跳ね上がる。
ビックリしたわけでもないのにどうしてだろう、と不思議に思いながらもにっこりと接客用の笑顔を返した。
「お、おはようございまーす!!」
思いっきり甘ったるく、元気な声を響かせる。その場には私達以外いないのだが、いつ誰かが入ってくるか分からない以上、店長の前でも気を抜くわけにはいかない。
そんな私にも、店長は突っ込まないでいてくれ、「はは、今日も元気がいいね」と、受け流してくれた。
それは気遣いなのか単に気にならないだけなのか。恐らく後者の方だろう。
「当たり前じゃないですか!!私から元気をとったら何も残りませんからね(笑)」
そう言って私は金庫の扉を開け、昨日の売上金を取り出し、精算していく。
ジャラジャラ…と、お金が機械に巻き込まれる音だけが流れる。
それを黙って見つめながら電卓を叩き込む。機械的な動作の最中、ふと思った。
(そういえば今日は早番だから…店長とは一緒に帰れないんだ。…ん?)
無意識にそんなことが胸に浮かび、慌て否定する。
(ちょっと…帰れないって何…?私が帰りたがってるみたいな…違う、電車代を払わなきゃだからもったいないだけだし…そ、それに…昨日のお礼を改めて言えないなって…)
必死に葛藤している自分が馬鹿馬鹿しかった。
しかしそのおかげで、重要な用事があったのを思い出した。
昨日姫菜とちゃんと話せるようになったのは、店長の言葉があったからだ。
いくら頼りなくてもその事実は変わらない。それなら、お礼だけでも言おうとしていたのだ。
ーージャラジャラ…ーー
お金がちょうど数え終わり、辺りに静寂が訪れる。聞こえるのは店長がパソコンを叩く音だけ。
私は、店長に気づかれないように辺りをキョロキョロ見渡す。
人の気配は…ない。今しかない。
(よし…。)
妙な緊張感に襲われる。今日の私はどこかおかしいかもしれない。
いつもならさりげなく言えたはずなのに。
(ていうか…お礼一つで何でこんなに緊張してるの。店長…なんかに。)