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◇家を出る
ひまり(そもそも石田って女、何で滉星に黙って勝手に暴露なんかしてきたんだろう……?)
ひまり「……ねぇ。彼女、何で滉星くんに黙って私に2人のことを暴露してきたと思う?
滉星くんだってそれまで私に隠れて2人で楽しくやってたんでしょ?
私、正直、あなたたちが何をしたいのか全然わからないんだけど」
滉星「実は……途中から石田さんが『離婚してほしい』って言うようになって……。
ひどい言い方になるけど、俺は付き合うだけでいいって言うから付き合ってただけだし、
ひまりと離婚なんて絶対に考えられなかったから、ずっとごまかしてたんだ。
……だから、焦れてひまりに直接連絡したんだと思う。
ひまりが知れば、離婚になるだろうからって……」
N「……そんなことで? 何も知らない私に不倫の事実を知らせて、さんざん苦しめて……
不幸のどん底に叩きつけるだけ叩きつけて、2人は晴れて結婚とでも言うわけ?」
ひまり(そんなの……ひどすぎるでしょ……。……何でそんなひどいことができるの?)
N「2人の将来を本気で考えるなら、お互いに向き合って話し合いをして、
私に心からの謝罪をした上で『別れてください』『離婚してください』と頭を下げる。
それが大人としての最低限のけじめでしょう。……こんな形で巻き込まないでよ」
ひまり(……もし滉星の私と別れたくないっていうのが本当だとして、それならどうして
だらだら彼女と付き合ってたの? どうして私にバレる前に別れてくれなかったの?
ほんと意味わかんない……)
N「こんな身勝手な話、誰だって理解できないし、きっと理解する必要もない。
一方的に理不尽なことを押し付けられて気持ちがついていかないだけでもつらいのに、
こうやって毎日毎日、大好きな人が自身の裏切りを謝罪してくる。
……とんだ茶番だ」
ひまり(もう、ほんとに何なの……)
土下座する滉星を前にぽろぽろと涙をこぼすひまり。
N「何をどう謝罪されても心には響かない。その言葉を受け取れない。
頭ではなく、心が拒否するのだ。それなのに『あんなに必死に謝ってるじゃない。
どうして受け入れてあげないの?』と思ってしまう自分もいる。
でも、今はそう思ってしまう自分すらも受け入れられなくてただただ苦しいだけ。
結局、私は滉星から逃げるようにして家を出た」
ひまり(ごめんね。でも、今は滉星と一緒にいるだけで息ができないくらい苦しいの。
……好きなのに、その好きな人の何もかもが信じられないなんて……地獄だ)
ひまりは2人で暮らした家から出ていった。
〇ひまりの実家
実家でパソコンを見ながら就職先を探すひまり。
N「突然実家に戻ってきた私を見て、両親は驚いていた。
ただ、私の表情から察してくれたのか、事情を聞いてくることはなかった」
ひまり(ハロワはないな。転職エージェントとかのほうがいいかな……)
N「久々の就職活動は思いのほかうまくいって、鉄道会社での事務の仕事を見つけた。
結局、実家にいたのは1か月半。
就職先が決まってすぐに実家を出て、一人暮らしを始めた」
〇鉄道会社
就職先の鉄道会社でひまりがパソコンとにらめっこしている。
N「簡単なデータ入力から始まった仕事だったが、周りはいい人ばかりだったし、
外の世界に触れ、人と関わりを持てる毎日はとても新鮮で充実していた」
ひまりの先輩にあたる新堂冬也が声をかけてくる。
冬也「日比野さ~ん、大丈夫ですか~? わからないところとかあったら言ってくださいね」
ひまり「あっ、新堂さん。ありがとうございます。
えっと、今のところは大丈夫だと思います」
冬也はうんうんと優しく頷いている。
N「新堂さんは25歳。つまり、年下の先輩ということになる。
おっとりした穏やかなタイプで、私も安心して仕事ができている」
ひまり(年下の先輩ってのも新鮮だけど……それにしても新堂さん、今時の俳優さんみたい。
モテるだろうなぁ。……あんまり自覚はなさそうだけど)
〇ひまりの実家
ひまりが実家に帰った直後に遡る。
実家にいるひまりに滉星から電話がかかってくる。
N「……実は実家に帰ってすぐ、滉星から電話があった」
滉星「……突然いなくなってビックリした。今、実家?」
ひまり「うん……黙って家を出たのはごめん。
でも、そうでもしないと滉星くんに止められちゃうと思って……」
滉星「気持ちが落ち着いたら帰ってくるよね?」
滉星の想像の中で、ひまりが「もう帰らないよ。そのつもりで出てきたんだから」と冷たく言い放つ。
しかし、その直後に現実のひまりが弱々しい声で返事をする。
ひまり「まだ……わからない……」
「わからない」と言われ、正直ほっとした滉星。
しかし、また滉星の想像の中でひまりが「もう帰らない。離婚して」と言い放つ。
滉星(……もしそう言われたらと思うと……それが一番怖い……)
滉星はその場でうずくまった。
N「この日から毎日、朝と夜に滉星からメールが届くようになった。
返事をしてもしなくとも、毎日欠かさずメールが送られてくる」
スマホの画面を見ながら悲しげな表情を浮かべるひまり。
ひまり(……本当にやり直したいって思ってくれてるのかもしれないけど、もうダメなんだよ。
一度裏切られたらもう二度と信じることなんてできないんだよ……。
これが延々と続くようなら、もうはっきり言ったほうがいいのかな。
「もうあなたを信じられません。
だから、この先の人生を共に歩んでいくこともできません」って……)