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ジョアは、目覚めてからの数ヶ月、以前のように自暴自棄になることはなかった。
「信じることが大事だ」と気付いてからは、仲間たちの言葉や笑顔を素直に受け取れるようになり、少しずつ心が落ち着いていった。
けれど、心の奥底ではずっとモヤモヤが残っていた。
——早くケインに会いたい。
——彼女の件の真相を知りたい。
その思いは消えることはなく、静かに胸の奥でくすぶり続けていた。
⸻
そしてついに、ケインの帰還まであと二日となった。
ジョアは紫水、JD、トピオの3人と一緒に部屋の飾り付けをしていた。
ケインが帰ってきた日に、ささやかではあるがパーティーを開こうと計画していたのだ。
色とりどりの風船を膨らませ、壁に飾りを貼りながら、紫水がニコニコしながら聞いてきた。
「マーくん〜!あと2日後にケインさん帰ってくるけど、今どんなお気持ちですか!」
ジョアは手に持っていたリボンを一旦置き、満面の笑みで答えた。
『早く会いたいっすね。1年も我慢したから、すっごい楽しみっす!』
その表情に、周りの3人も思わずつられて笑う。
だが、トピオがふと真顔になり、
「……てか背中の傷のこと言うの?先輩に」
と問いかけた。
ジョアは動きを止め、少し黙り込む。
『……ど、どうしようかな……』
答えは簡単に出なかった。
JDが間に入るように口を開く。
「ケインさんの事だから、もし言ったらめちゃくちゃ責任感じそうっすよねぇ。
でも言わなかったら言わなかったで、すっごい怒りそうっすけど。笑」
「確かに!」とトピオが笑い出す。
「ちょ〜怖そう〜!」と大げさに震える真似までして見せる。
ジョアは苦笑しながらも、胸の奥では本気で悩んでいた。
あの傷はケインのせいじゃない。自分が勝手に自暴自棄になり、作ってしまったものだ。
それをケインに話して責任を背負わせるのは、申し訳ない気がしてならなかった。
——でも、黙っているのも違う気がする。
⸻
結局その夜、ジョアは起きていたボス・刃弐ランドに相談することにした。
アジトの屋上に出ると、刃弐は夜風に当たりながら煙草をくゆらせていた。
『……ボス、ちょっと相談いいっすか』
「おぉ、ジョア。いいぞ」
刃弐は真剣な眼差しで頷き、耳を傾ける。
ジョアは今までのこと全部、胸の内を吐き出すように話した。
『……傷のこと、話すべきですかね。でも……付き合ってもいないのに、そんな重いこと言っていいのかなって』
刃弐は少し考え込み、腕を組んでから言った。
「う〜ん、そうだなぁ。確かに今の曖昧な関係で、1年待ってろって言われたら、不安になるのも無理ねぇよな」
ジョアはうつむき、拳を握りしめる。
刃弐は、ふっと笑った。
「だったらさ、いっそ今までの気持ち、ぜんぶ言っちまえ。
“ずっと不安で、自暴自棄にもなって、こんな傷まで残っちまった。でもそれくらい好きなんです!”って」
ジョアは顔を真っ赤にして慌てた。
『な、なんかメンヘラ彼女みたいじゃないっすか、それ!笑』
刃弐はニヤリと笑い、グッドポーズを見せた。
「いーや、これはチャンスだ。ケインに責任とらせろ!」
そして、少し真剣な声に変える。
「それに……ケインは、待たせてる相手がいるのに彼女作るような奴じゃないって、お前だって心のどっかで分かってんだろ」
ジョアは、その言葉に目を見開いた。
次第に表情が明るくなり、力強く頷く。
『そうっすよね!……もう思いきっちゃって、責任とらせます!』
夜空に向かって言い切ったジョアの声は、どこか清々しく響いていた。
2日後、ついにケインが帰ってきた。
868メンバー全員で空港まで迎えに行き、感動の再会を果たす。
「けい〜ん😭 よく帰ってきた!!」
音鳴が駆け寄り、勢いよく抱きつく。
「おかえり、ケイン」
レダーが穏やかな声で迎える。
「元気してたかケイン!!」
刃弐も力強く肩を叩いた。
「先輩おかえりなさい!」
トピオ、紫水、JDの三人が声を揃える。
次々と交わされる再会の挨拶。
レダーが少し笑って言った。
「芹沢と牢王は今日起きれなかったらしいけど、多分メッセージ来てるから後で見な」
「はい、ありがとうございます」
ケインが丁寧に頷く。
そして――視線が、ジョアを捉えた。
ジョアは少しびくっとして、目を逸らしかけながらも口を開く。
『あ、えっと…おかえりなさい、ケイン先輩』
「会いたかったです、ジョアさん」
2人は見つめ合い、時が止まったように周りの空気が静まり返る。
そんな空気を破ったのは、音鳴だった。
「あの〜、そろそろ行きませんかね?」
ぎこちない二人を横目に、全員はヘリや車に乗り込み、アジトの豪邸へと向かう。
――豪邸に到着。
リビングに入ると、そこには豪華な飾り付けが施されていた。壁には大きな横断幕が掲げられている。
《ケインおかえり!》
ケインは無言でその文字を見つめた。
「あれ?笑 ロボットくん感動してるんちゃいます〜??」
音鳴がからかう。
「……すごく、うれしいです」
ケインの声は小さいが、確かに喜びが滲んでいた。
皆が席につき、飲み物を持ち乾杯をする。
テーブルには豪華な料理が並び、笑い声と話し声が絶えなかった。