無造作にベッドの上に置かれたワンピースをそっと整えながら、このブランド物のワンピースは遥香が先日SNSで紹介していたものだと確認する。
ここは……丁寧に完璧なリメイクをして見せましょうか……と思う間に、遥香は彼女にしては珍しくシンプルなワンピースを着た。
……って……どれだけ洋服を持ってるんだか。
「髪、アイロンで巻いて」
「はい」
それくらい自分でやればいいのに……そりゃ、真後ろなんかは、人にやってもらった方がうまく仕上がるでしょうけど。
いい具合に段のついた肩より少し下までの遥香の髪は、アイロンがあてやすい。
「あー。やっぱり、外ハネに仕上げて」
「えっ?」
「聞こえなかったの?」
鏡越しに私を睨んだ遥香は
「外ハネに仕上げなさいよ。その方がこの服に合う」
むちゃぶりを発揮し始めた。
「かしこまりました」
ヘアウォーターで髪を濡らして、巻いた箇所をリセットする。
いくらこうやって髪を保護したって、こんなに連続して熱を加えれば髪にはダメージがあると思う。
お手入れされている遥香の髪だけど、私のカラーもパーマもかけたことのない髪の手触りの方がいいように感じるもの。
「ちょっとっ、左右対称になってないわよっ!」
「そうでしょうか……申し訳ございません。どちらに合わせてやり直しましょうか?」
「真奈美に期待したのが無理ね。やっぱり巻いて、少し無造作に仕上げて。アナタには左右対称なんて無理だわ」
そう言い捨てた遥香の髪をもう一度セットし直して、やっと彼女が出て行った時には、流石に私も疲れを感じた。
キッチンへ戻ると、今日はご主人様たちの食事が19時頃だという引継ぎを、私と広瀬さんは前川さんから聞く。
そして、その前に奥様が食事をされ、そのあと私と広瀬さんも食事をした。
19時にご主人様だけがダイニングに来られると
「篤久はもう少し遅いと思うが、私は先にいただきます。今日の食事は何かな?」
と私を見た。
「鶏の照り焼き、茄子の煮びたし、キャベツとハムのマリネ、じゃがバター、お麩とわかめの味噌汁です。じゃがバターだけ、少しお待ちください。お味噌汁にネギはどういたしましょうか?」
「たっぷりとお願いします。でもそれもあとでください」
「承知いたしました」
ここまではご主人様も立ったままのやり取り。
私がキッチンへ戻ると、広瀬さんが食事を仕上げている。
その間にご主人様はダイニングにあるワインセラーから、日本酒ワインをご自身で選んでグラスを持って座るのが日常的。
ちなみに、日本酒ワインというのが私にはさっぱり分からないのだけれど、先日広瀬さんが教えてくれた。
日本酒だけどワイン酵母を使用したお酒のことらしい。
ここ半年ほど、ご主人様が趣味のようにして集めてはお楽しみだそう。
「お待たせいたしました」
まずは3品をご主人様の前に置くと
「玄関ホール、綺麗に仕上げてくれたね。ありがとう。あの石、私のお気に入りなんです」
ご主人様はそう言って、私に下がっていいと手を振った。
「ありがとうございます。また大切にお手入れします」
お邪魔してはいけないので、さっと戻ろうとした時
「真奈美っ!」
遥香の叫び声がしたかと思うと、絨毯の上でもヒールの音がするような…そんな足取りで彼女がダイニングに飛び込んで来た。
コメント
4件
今度は何😱!?
ワンピースの袖を直した事でそんな事頼んでないとか、元に戻せとか喚きそうな予感
おぉおぉ〜どうかされましたか〜?今度はなぁにぃ〜?遥香さま〜!!! でもあなたのお父様がお食事されてるのよ?あ、そんなこと関係なさそう😜 日本酒ワインが気になりすぎて、ご主人様のメニューが入ってきません😅 そしてこのご主人様こと篤志様は一体どんな方?温厚?なんだよね、でもその眼鏡の下に隠されたなにかがあるのかしら?気になることがたくさんあって、でもめちゃくちゃ楽しい!!!