ご主人様が平然とお箸を持ったのを視界の端に入れながら
「おかえりなさいませ、遥香様。お食事にされますか?」
お好きなお酒と食事をゆっくりと楽しまれる邪魔をするな、と思う。
「真奈美が支度に手間取ったせいで遅れちゃったじゃないのっ!」
バッグを振り上げた遥香は、ご主人様の視線に気づいたのか手を降ろす。
「何のことでしょうか?待ち合わせがございましたか?」
「出掛けるって言ったら約束があるに決まってるでしょ?アナタが髪をすぐに仕上げなかったせいで遅れたのよっ!遅刻すると入館出来ないイベントだったんだからっ。友達だけ入っちゃって、私は入れなかったのっ!」
「申し訳ございません……」
「謝って済むとでも思ってんの?クビ、アンタはもうクビ。出て行きなさいっ!」
それは困るのよ……うまい具合に中園邸の担当になったんだから。
「遥香様、ご迷惑をお掛け……」
「桑名さんはうちの担当でいてもらうよ。いい仕事をするからね」
広瀬さんが持ってきたじゃがバターを受け取りながら、ご主人様がしれっと言うと
「私の部屋へ来なさいっ。二度とこんなことのないように私が練習するわ!」
遥香は私の手首を思い切り掴んで、じりじりと力を加えながら引っ張って歩く。
「ちょ……っ……痛いので放して…ください、遥香様っ!」
もっと強く掴んで痣になれば写真が残せると思いながら、音声も残すために大きめに声を出す。
いや……本当に痛いのだけど……
螺旋階段も引っ張って行かれる後ろで、玄関ドアの音がしたから篤久様だろう。
おかえりのご挨拶をしようにも、振り向くと足元が危険なのでそのまま遥香について行く。
自分で少し下へ体重を掛けるようにして、掴まれた手首に負担が掛かるようにしながら階段を上りきり遥香の部屋に着くと
ドンッ……
私を鏡の前に押した彼女は
「座りなさい。私がアンタの髪で練習するわ」
と鏡の前の椅子に私を座らせた。
ぇ……座った私の顔の真横で、遥香はヘアアイロンを最高温度に設定する。
さすがにそれはダメでしょ……と、ぎょっとした私に
「上手に出来るまで練習よ」
と遥香はニヤリと言い放つ。
「230℃は……要らないんじゃないですか……?」
「それも含めてが練習でしょ?」
そう言った彼女は、私の髪を束ねているゴムを乱暴に取る。
「いたっ……」
「イチイチうるさいわね。そうだ、仕上がりはお楽しみってことで、目隠ししましょうか」
ちょっと待って……いい音声が入手出来てはいるけれど……大きく広げた高温アイロンで耳を挟まれたりするのは嫌よ……
さすがに少しひるんだ私を見て、嬉しそうな遥香はスカーフで私に目隠しをした。
私……手は自由なのよ……目隠しを取る?取らない?
……従順でいるべき時期だよね……まだ……
コメント
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えぇ😱😱😱 傷害事件だよ😭ガマンしないで🙏
これは危険😱
真奈美ちゃん,何を企んでるのかしら?