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(……凄く綺麗。本物の宝石みたい)
息をのむぐらい美しい瞳に、何て感想を言えば良いか分からなかった。
いいや、この状況で感想を言っている場合ではないのだが、それぐらい綺麗だと思った。
磨りガラスのようなグランツの瞳は星の光を映すように白く輝いており、ブライトの瞳は天の川が流れているように綺麗なグラデーションになっていた。仄かな照明を受けるとさらに、その瞳の輝きは増す。
がっつり魔力を持っていかれた実感はあり、身体から力が抜けたが、それでもそんなことを忘れるぐらいには美しい二人に見惚れていた。言葉が稚拙だけど、強化フォームみたいな、これぞ所謂覚醒! 的なものを感じていた。
「エトワール様大丈夫ですか?」
「あ、え、うん。まあ、でも身体に力はいらないや」
見惚れていたが、ブライトの声で現実に戻される。先ほど二人に魔力を注ぎ込んだせいでこっちの魔力は殆どなくなってしまったのだ。使えないわけではないが、無理に身体を動かすのは毒だろうと、私は動くことを放棄していた。
でも、私もまだ立てるし戦わないとと、どうにか力を込めて立ち上がる。
「……っと、エトワール様。大丈夫です、後は僕達に任せてください」
「ブライト」
立ち上がったのは良いものの、どうにも身体が動かず、前のめりに倒れそうになった時ブライトに支えられた。彼が受け止めてくれなければ顔面からいっていたところだと、自分の体力のなさに驚いた。どれだけ魔力を注いだかも、感覚の範囲でしか分からなかったため、なんとも言えない。でも、ブライトとグランツがぴんぴんしているところを見ると、かなりごっそり持って言って行かれてしまったような気がする。
(うぅ……魔法って難しい)
分からない事だらけだし、自分の力についてもまだ不確定要素が多すぎる。どうやったら一番最善で、効果的なのか理解するのには手がかかりそうだ。
私は、ブライトの言葉通りその場でへたり込む。だが、このままあの肉塊に踏みつぶされたり攻撃されたら元も子もないんじゃないかと、自分の身ぐらいは守ろうと魔法を使おうとすると、ふいっとブライトが指を動かした。
すると私の身体は途端に宙に浮き、四角立方体のようなものに囲われた。
「おおおぉ、何これ!?」
初めて見る魔法に、驚きと興奮が若干隠せなくて、叫んでしまうと、ブライトは苦笑しながらも、光の盾の応用魔法「光の立方体」と言うことを教えてくれた。光の盾は全方向から守れるものではなかったため、これなら全方向からの攻撃を防げるし、抜かりがないと思った。まさに最強の防御魔法だと言える。
(これ、私もまねできるかな)
イメージさえ出来れば魔法は発動することができる。その特性を生かし、私もいざとなったとき大切な人を守れるよう、この魔法を使えるようにしたいと思った。
だが、こんなものを発動しながらあの肉塊と戦うのだろうか。二つの魔法を同時に使うのはかなり体力が持っていかれる。そのため、幾ら覚醒したからといって無茶はよくないと、ブライトを見る。
「ぶ、ブライト大丈夫なの?この魔法、って結構魔力持っていかれるんじゃない?」
「ご心配なさらず、エトワール様から貰った魔力で補える範囲ですので。それに、エトワール様に魔力を分け与えて貰ったおかげで自分の潜在能力を引き出すことが出来ますし」
と、ブライトはウィンクをした。こんなにウィンクの似合う男だったのか彼は、と思いつつ、そんなチートじゃないかとも思った。
聖女の魔力は、聖女そのものも強いが、その魔力を他に分け与えることによって、周りも強化されると言うことだろう。最高のサポートと言うことだ。仲間の力を最大限に引き出せる役職、ゲームでは優遇されるだろう。
元々魔力のないグランツはどうか分からないけれど、このまま行けば、もしかしたら勝てる可能性が出てくるかも知れないと一縷の希望を見る。
(でも、これってエトワールでも使えるんだったら、トワイライトでも使えるって事だよね?)
ヘウンデウン教の混沌の手に堕ちたトワイライトも同じ聖女であるならこの力が使えるはずだ。と言うことは、敵をこの力で強化した場合、エトワールなんかよりもずっと強い力を授けることが出来る……そんな気がしてならない。トワイライトが敵に回っていることの厄介さも気づいてしまい、なんとも言えない気持ちになった。だが、今はそんなことを考えるよりも自分たちの置かれている状況をどうにかしないといけない。
「グランツは……」
「はい」
「グランツは大丈夫そう? 身体とか痛くない?」
「とくには……気にして頂きありがとうございます」
魔力のないはずのグランツにも魔力をありったけ注いでいるため、彼の身体は壊れていないかと心配になって聞く。だが、グランツはケロッとしたようないつもの無表情で、大丈夫だと平気な顔を向けたのだ。本来であれば、あり得ない事である。
(魔力を支えられる器がなければ、大きな魔力に絶えきれず、身体が崩壊してしまうと言うのに)
ブライトに教えて貰った知識だが、闇魔法と光魔法が反発するように、魔力を持っていない人間に魔力を注ぐと言うことはかなり危険行為らしい。いうなれば、アレルギー持ちの人にアレルギー源を渡すような、そんな絶えきれるはずもないものを与えているのと同じだと。
平民だったグランツが聖女の魔力に耐えきれるはずもないのだが、彼は何てこと無いようにたえて見せた。それどころか、ぴんぴんしていて、先ほどより身軽になったように感じる。
亜麻色の髪の先は翡翠がかっていて、綺麗だと思った。あのグラデーションはありだと。
(でも、ユニーク魔法を使えるって事は、少なからず魔力を持っているって事だよね)
思えば可笑しな話である。
ユニーク魔法も魔法というのだから、魔法の部類に入るだろうし、あれが力業だったとしたら、皆がまねできるものだと思う。魔力を切るために自らの魔力を剣に纏わせているのか、それとも魔力をぶつけているのかは未だに分からないし、原理を聞いたところで、ユニーク魔法だからまねしようがない。だとすると、グランツのあれは本当に何なのだろうか。
何度か見たことはあるけれど、目では捉えられないものだった。そもそも、グランツの動きは目で追うには厳しい。アルベドさえ、風魔法を付与したあの身軽さではどうも目で追えない。
「……大丈夫ならいいけど、二人とも無理しないでね」
「分かりました」
「ありがとうございます。エトワール様」
そう言って、二人は一斉に地面を蹴って肉塊の脇に移動する。そこまで早くなくてもあの肉塊は移動しないだろうに、先ほどの早さとは比べものにならないほど、二人のスピードはあがっていた。それも聖女の魔力のおかげなのだろうかと。
肉塊についていた顔は、二人を凝視し、あの液体を吐き出した。先ほどはそれを避けるだけだったが、魔力に余裕があるのか、ブライトは水のシールドで、グランツはそれを切ってなぎ払った。あんなことをしたら、剣が一気に折れるか、溶けてしまうかと思ったが、どうやら魔力をそこに纏わせているようで、あの液体が剣につく前に蒸発しているらしい。何処でそんな技術を身につけたのかと、不思議に思う。
肉塊の動きはゆっくりだが、こちらが本気を出してきたと悟ったのか、無数に表面に浮き出た顔から、あの液体を吐き出し続ける。教会に並べてあった長椅子はその攻撃を受けてドロドロと溶けてしまっていた。本当に見ていられない。
「ひっ……」
私の方にも液体が飛んできて、油断していたこともあり受け身を取れなかったが、ブライトがかけてくれた光の立方体のおかげで、無傷ですんだ。それどころか、立方体に穴の一つすら空いていない。どれだけ頑丈なのだろうかと、あの攻撃を受けて溶けた光の盾に対し、どれほどの耐久力があるのかと思った。魔法は奥深くて、不思議すぎる。
「グランツさん、僕があぶり出すので、とどめをお願いします」
「御意」
ブライトの言葉にグランツは頷き、少し後ろへと下がる。
そうして、ブライトは詠唱を唱え水の魔法を発動させる。それは、竜巻のように渦巻き、四方向から肉塊に迫っていった。肉塊についている顔は動揺し絶望の悲鳴を上げるが、逃げ場もなく、その渦に飲み込まれていく。まるで、洗濯機に入れられたようにぐるぐると肉塊は掻き乱され、そうして細切れになっていった。先ほどの再生能力が嘘のように、水の中では肉塊同士がくっつくことはなかった。渦の中に、無数の顔が見え、そのどれもが目を回しているように見えた。顔が一つ一つ別れていき、渦の中に見慣れた顔を見つけた。
(あれ、神父の顔……!)
神父の顔がそこには見え、絶望の顔ではなく焦りや怒りの表情が見えた。あれが、あの肉塊の核であることを私達は目で捉える。
「グランツさん、お願いします!」
ブライトが一瞬だけ魔法を解き、渦の中からはじき出された神父の顔がグランツの目の前まで来る。神父は最後の足掻きとをと、どす黒い液体を吐き出したが、グランツはそれを無表情でなぎ払って、神父の顔面に剣を突き刺した。
「これで、チェックメイトだ」
神父がグランツの剣に刺された後、私達は白いまばゆい光に包まれた。