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#女主人公
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「先生、本当にお願いします。私は……私はやってないんです!」
目の前で、かつての「女王」が鼻水を垂らし、無様に泣き叫んでいる。
アクリル板越しに映るその顔は
10年前の記憶よりもいくらか老け、今は「可哀想な容疑者」の仮面を被っていた。
白鳥美月
現在は幼稚園教諭。
周囲からは「聖母」のように慕われていた女。
そして、私の母を『死刑囚』に仕立て上げた、真犯人の娘。
「大丈夫ですよ、美月さん。私はあなたの味方です」
私は極上の微笑みを浮かべた。
如月凛という新しい名前と、血の滲むような努力で手に入れた弁護士バッジ。
すべてはこの瞬間のためにあった。
「如月先生だけが頼りなんです……警察も、他のみんなも、私が子供を毒殺したなんて疑って。私、あんなに子供たちが大好きだったのに……!」
美月が縋るようにアクリル板を叩く。
その指先を見る。
10年前、私の母が警察に連行される時、この女は群衆の陰でニヤリと笑った。
当時、中学生だった私を「人殺しの娘」と呼び
体育館の裏で、教室で、トイレで、死に至るまで追い詰めたのはどこの誰だったか。
『いつかあんたも、お母さんみたいに毒を盛るんでしょ?』
あの時の美月の声が、今も耳の奥でこびりついて離れない。
だからこそ、私は彼女の「願い」を叶えてやることにしたのだ。
「ええ、知っています。あなたは子供たちに、10年前の事件と同じ『青酸カリ』を飲ませるような人じゃない。……そうですよね?」
私の問いかけに、美月の肩が一瞬、ピクリと跳ねた。
かつての事件と同じ毒物。
それが今回の事件の「売り」だ。
「……あ、当たり前です!誰かが私を嵌めたんです!」
「わかっています。あなたの無実を証明しましょう。そのために、まずはあなたの『清廉潔白さ』を世間に知らしめる必要があります」
私は手元の資料をめくる。
そこには美月の裏のアカウント───
匿名で教え子の親の悪口を書き殴り
気に入らない園児を「汚物」と呼んでいた記録がびっしりと並んでいる。
もちろん、彼女は私がそれを握っていることなど、露ほども知らない。
「明日、第一回公判です。美月さん、あなたはただ、怯える被害者でいてください。あとの『演出』は、すべて私が引き受けます」
「先生……!ありがとうございます、本当にありがとうございます……!」
何度も頭を低くする美月を見つめながら、私は心の内で静かに舌を出した。
接見室を出て、拘置所の重い鉄扉をくぐり抜ける。
春の柔らかな日差しが私を包むが、心の中には冷たい殺意しか存在しない。
カバンからスマートフォンを取り出し、非通知の番号へメッセージを送る。
『準備は整った。明日の法廷で、あの女の「喉」を裂く』
母さん。
あなたが処刑台に送られる前に、私が本当の地獄を見せてあげる。
無実の人間が、法の名の下にすべてを奪われる恐怖。
それを一番特等席で味わうのは、美月、あなたよ。
如月凛としての初陣。
それは、正義を騙った最も醜い「公開処刑」の始まりだった。