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#女主人公
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「……以上が、被告人・白鳥美月の経歴であり、彼女がいかに子供たちを愛し、献身的に尽くしてきたかの証左です」
法廷に私の凛とした声が響く。
傍聴席には多くの記者が詰めかけ、熱心にメモを取っている。
証言台に立つ美月は、清楚な紺のスーツに身を包み
今にも折れそうなほど肩を震わせていた。
完璧な「悲劇のヒロイン」の演技だ。
「如月先生、ありがとうございます……っ」
隣に戻ってきた美月が、消え入るような声で囁く。
私は彼女の手をそっと握り、力強く頷いてみせた。
もちろん、その手の内側で、吐き気を催すほどの嫌悪感を押し殺しながら。
「では、弁護人。……証拠調べに移りますか?」
裁判官が問いかける。私は一歩、前へ出た。
「はい。被告人の無実を立証する前に、彼女がいかに『周囲からの悪意』に晒されていたかを確認したく思います。証拠番号12、被告人のSNSアカウントに関する調査報告書を提出します」
美月の顔が、一瞬で強張った。
彼女が隠し持っていた裏アカウント。
そこには聖母の仮面を剥ぎ取った、ドロドロとした本音が並んでいる。
『クソガキが泣き止まない。マジで消えればいいのに』
『保護者のババア、うざすぎ。毒でも盛ってやりたい』
だが、私はそれを「彼女の悪意」として提出はしない。
「これを見てください。これらはすべて、美月さんの名前を騙った『なりすまし』による誹謗中傷です。彼女はこの1ヶ月、これほどの悪意に一人で耐えていたのです」
「え……?」
美月が呆然とした声を漏らす。
そう、私は彼女の罪を「誰かからの攻撃」へとすり替えた。
美月は一瞬戸惑ったようだが、すぐに私の意図を自分を助けるための嘘だと解釈し、大きく頷いた。
「はい……そうなんです!誰かが私を犯人に仕立て上げようとして、こんな酷いことを……っ!」
嘘の上に、また新しい嘘を積み上げる。
美月は今、自ら「偽りの城」の住人となった。
その城が崩れる時、彼女がどれほどの高さから叩きつけられるかも知らずに。
◆◇◆◇
閉廷後
私は弁護士控室で一人、タブレットを操作していた。
画面に映っているのは、美月の母・恵子の優雅な横顔だ。
彼女は今、有力な若手政治家の妻として、チャリティ活動に精を出している。
10年前、私の母に罪を擦り付けた「本物の毒」は、間違いなくあの母親だ。
そして美月は、その毒を無自覚に継承している。
私は美月のスマホからコピーした連絡先リストから、一人の名を選び、通話ボタンを押した。
かつてのいじめグループのナンバー2、現在は平凡な主婦として暮らしている佐藤香織。
「もしもし、佐藤さん。如月凛です。……ええ、白鳥美月さんの弁護人。……いえ、お願いではありません。『警告』です」
電話越しに、香織が息を呑むのがわかった。
美月を守るための嘘が積み上がるほど
かつての仲間たちは「自分たちに火の粉が飛んでくる」と怯え始める。
美月を救うフリをして、逃げ場を一つずつ潰していく。
彼女が最も信頼しているこの「私」こそが、彼女を絞め殺す縄であることに、彼女はいつ気付くだろうか。
「先生! 次の公判もよろしくお願いしますね!」
控室に入ってきた美月の笑顔は
かつて私を地獄へ突き落とした時と同じ、無邪気で残酷な輝きを放っていた。
「ええ、もちろんです。あなたの『すべて』を、法廷でさらけ出してあげますから」
積み上げた嘘が崩れる音を、私は今から楽しみにしている。