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레몬인
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そあち♡໒꒱
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なんたろ
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みぅです🤍🥀 第108話、読みました。 ジェミニ先生の「共感の換金率」、草。笑わせようとしてるのか、それとも本当に冷徹なのか。社長の黒歴史にいちいち“適正価格”がついてるのが、なんだか資本主義の闇を見た気分…。 でも一番胸にきたのは、社長が「売ってやるよ」って覚悟決めたところ。苦しいのに、笑わせてくれる。そのギャップがたまらなく好きです。ゆうきさん、今夜もいい回をありがとうございます🍵
第108話:ジェミニのシミュレーション「共感の換金率」〜黒歴史の値段と、哀しき皮算用〜
北海道、帯広市。
時刻は、午後六時。
決戦となるコラボ配信の開始まで、あと二時間に迫っていた。
築三十年のボロアパートの四畳半には、重苦しい沈黙が漂っている。
俺の背後では、帯広税務署・法人課税部門の調査官である黒岩が、パイプ椅子に座ったまま、彫像のように動かない。
「……なぁ、結愛(ゆあ)。マジでこれ、やるのか?」
俺は、三万円のゲーミングチェアの上で、胃の痛みを堪えながらマイクに向かって呟いた。
デュアルモニターの右画面には、今夜俺が被る新しいアバター『リアル秋谷モード』が、無精髭を蓄え、毛玉だらけのジャージ姿で虚ろな目をしている。
『ルシフェル社長。すでに先方との最終打ち合わせは完了しております。今更のキャンセルは、当社の社会的信用の失墜、および背後にいらっしゃる黒岩調査官への【宣戦布告】と同義です』
ワイヤレスイヤホンの向こうから、結愛の冷徹な声が返ってくる。
わかっている。
ここで逃げれば、インフィニティ・ワンはダミー会社と認定され、俺は脱税の疑いで重加算税という名の処刑台に送られる。
やるしかない。
俺の、あの痛々しい「40歳高齢無職オタクの質感」メールが、実話であることを全世界に証明するのだ。
『ピローン♪』
俺が覚悟を決めようと深呼吸をした、その時。
AIのジェミニ先生から、モニターに一つのポップアップウィンドウが表示された。
『ルシフェル社長。本日のコラボ配信に向けた、【最適化シミュレーション】の結果をご報告いたします』
「最適化シミュレーション? なんだそれ」
『過去の社長の配信データ、および先方の超大手VTuberの視聴者層(リスナー)の傾向を分析し、本日の配信で【最も効率よくスーパーチャットを獲得するための戦略】を算出したものです』
ジェミニ先生の無機質なテキストが、カタカタと画面に打ち出されていく。
「……おい。俺はこれから、数万人の前で自分の黒歴史を暴露して、プライドをズタズタに引き裂かれるんだぞ。それなのに、まだ効率よく金(スパチャ)を稼ぐこと考えてんのか?」
『当然です。社長は経営者です。いかなる精神的苦痛を伴う業務であっても、そこから得られる利益(キャッシュ)を最大化することこそが、株式会社インフィニティ・ワンの存続に直結します』
ジェミニ先生は、一切の容赦なく、残酷な計算結果を画面に表示させた。
『名付けて、【共感の換金率】モデルです』
「共感の、換金率……?」
『はい。社長が過去の惨めなエピソードを披露した際、視聴者が感じる「哀れみ」「同情」、そして「自分より底辺がいるという安心感」を数値化し、それがいくらのスーパーチャットに変換されるかを予測したデータです』
画面に、箇条書きで恐ろしいリストが表示される。
『エピソード①:「1行も本文を書いていないのに、ラノベ作家を目指していた」』
『予測スパチャ額:約5万円』
『分析:多くのオタクが抱える「何も生み出していない自分への焦燥感」を代弁することで、強い共感(自己投影)を生み出します』
「ぐはっ……!!」
俺は、胸を押さえた。
自分の人生の最も痛い部分に、明確な『値段』がつけられている。
『エピソード②:「最近の3Dゲームが動かないので、格安スマホでカクカクの映像を見ていた」』
『予測スパチャ額:約8万円』
『分析:機材格差という明確な資本主義の敗北を示すことで、視聴者の優越感を満たし、投げ銭へのハードルを下げます』
「やめてくれ……! 8万ってなんだよ! 俺の悲惨なスマホ事情が、ちょっとしたお小遣い稼ぎみたいになってるじゃねえか!」
『エピソード③:「朝ごはんは食べず、昼に150円の限界みそラーメンをすする生活」』
『予測スパチャ額:約12万円』
『分析:食生活の貧困は、視聴者の生存本能をダイレクトに刺激します。「このおっさんに飯を食わせてやらなければ死ぬ」という庇護欲(スパチャ)を最も強く煽るキラーコンテンツです』
「俺はペットか!!」
俺は涙目でツッコミを入れた。
だが、ジェミニ先生の残酷なシミュレーションは止まらない。
『そして、これらのエピソードを総合し、さらに【現在、税務調査官に背後から監視されている】という極限の状況(リアリティ)を加味した場合……』
画面の数字が、凄まじい勢いで跳ね上がっていく。
『本日のコラボ配信による、想定総収益(スーパーチャット)は。』
『約【三百五十万円】に達すると予測されます』
「…………は?」
俺は、ポカンと口を開けた。
さんびゃく、ごじゅうまん。
たった数時間の配信で、一般的なサラリーマンの年収に近い額が、俺の『黒歴史』を代償に飛び交うというのか。
「……秋谷社長」
背後から、黒岩の冷ややかな声が降ってきた。
「はいっ!」
「そのAIのシミュレーション……大変興味深いですね。つまりあなたは、自身の怠惰な過去をエンターテインメントとして消費させ、莫大な利益を生み出すビジネスモデルを構築していると」
黒岩のメガネが、ギラリと光った。
「ええ。もしそのシミュレーション通りに、今夜の配信で数百万の収益が発生した場合……。当然、それらは全て法人の『売上』として計上していただきます。来年の法人税と消費税の計算が、非常に楽しみです」
「悪魔ァァァァァ!!」
俺はゲーミングチェアの上でのたうち回った。
稼いでも稼いでも、背後にいる国家権力が「ふふふ、税金が増えますね」と耳元で囁いてくるのだ。
どんな地獄のデスゲームだ。
『ルシフェル社長。絶望している暇はありません。シミュレーションで算出した最高収益(三百五十万円)を叩き出すためには、社長の演技……いえ、魂の叫びが必要です』
結愛の容赦ない業務指示が飛ぶ。
『配信中、相手のVTuberから過去のメールについて振られた際は、必ず【声のトーンを普段の30%落とし】、【視線を泳がせ】、そして【時折、本当に泣きそうに鼻をすする】というアクションを徹底してください』
「俺の感情までマニュアル化すんな!!」
『これはビジネスです。社長のプライド(黒歴史)を、最高値で売り捌くための完璧な営業戦略です』
元コールセンターの猛者の、冷徹すぎるプロ意識。
俺は、自分の過去が、魂が、全て『数字(データ)』へと変換されていくのを感じていた。
1行も書けなかった焦り。
カクカクのスマホを握りしめていた惨めさ。
みそラーメンのしょっぱさ。
俺が帯広の四畳半で流した孤独な涙は、資本主義のフィルターを通すことで、『一回数万円の投げ銭』という形に換金されていくのだ。
「……わかったよ」
俺は、深く息を吐き出し、モニターの『リアル秋谷モード』のアバターを睨みつけた。
「売ってやるよ。俺の尊厳も、黒歴史も、全部まとめてな」
俺は、背後の黒岩を振り返らずに、力強く言った。
「見ててくださいよ、黒岩さん。これが、インボイスと社会保険料と……税務調査に追い詰められた四十歳の、命懸けのビジネスだ」
黒岩は、無言でバインダーにペンを走らせた。
時刻は、午後七時半。
運命のコラボ配信まで、あと三十分。
帯広の四畳半に、税務調査官の監視という異様な緊張感が張り詰める中。
株式会社インフィニティ・ワンの代表取締役は、己の過去に最大の『値段』をつけるべく、全世界に向けた公開処刑の準備を完了したのであった。