TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

怜は、普通に下校するつもりだった。

一人で玄関を出た後、自転車置き場まで行き自分の自転車の前で立ち止まる。下校する生徒はそれほど多く無く、皆部活動があるか、終業して暫くの間に帰宅して行ったのだろう。

ふと、校舎の角が目に入る。誰かが、そこに背をもたれているみたいに見える。

いつもならば気にしないが、何となくはみ出て見える腕や肩の辺りを見ている。

相手が、顔を出した。それから怜と目が合ったかと思うとこちらに向かって手招きをしている。


ーそれは、笹岡だった。

ちょいちょいと手のひらを動かし、鳩か鼠にでも合図を送るみたいにして怜に呼びかけて来ているように見える。

(…あいつ。)

何やらふざけているように見えた怜は、むっとした顔をして自転車を動かすとそれにまたがり、もう一度一瞥した後でさっさとそれをこいで校舎から出て行く。




数分後、駅についた怜は飲み物でも買おうと、暫し売店でものを物色している。

その時、肩を叩かれ後ろを振り向く。

「笹岡。」


「なんでお前、無視すんの?」


「…何が?」

怜は飲料が入っていた冷蔵庫のドアを閉めて言う。

屈めていた体勢を直すと背が高い怜が若干笹岡を見下ろす形になる。その事に気分を害したらしい笹岡は、むっとした顔をして黙って会計が終わるまで売店の外で立ち尽くして待っていた。

怜が売店から出ていくと「さっき、」と笹岡が話し始める。


「さっき俺、おまえに助けを求めてたんだよ。気づかなかった?」


「え?」

蓋を開け、怜がたった今買った炭酸の飲み物を飲む。


「ふざけてるのかと思った。なんか、ちょいちょいやってたから」

そう言われ、笹岡は妙な笑みを浮かべる。


「だから…

相手からわからないようにやってたんだって。」


「相手?」ていうことは、あそこに誰かが居たのか。

「相手って?」


「生徒会長。」


「え。」


「びっくりするだろ。それが、俺らが思ってるより、不真面目だし、それに案外しつこい相手だったみたいで、約束しろって言って来てうるさいんだよね。」


「約束って、何を」

笹岡が怜の顔をじーっと見たままで黙り込む。けれど何かを言うわけではない。

もしかすると、反応を面白がっているのかもしれない。そういう考えが脳裏をよぎり、ある事を怜は思い出す。


「ごめん、ちょっとトイレ」

怜は、さっきから我慢していた事を言うと、トイレのある方へと歩き出す。「悪いけど、電車来たなら行っててくれていいよ。」

笹岡は、何も言わないでその場に突っ立っている。


怜がトイレから出ると、入り口向かいに設置されていたベンチに笹岡が座って待っていた。時計を見ると、まだ電車が来るまで時間がある。目が合った後で、怜は笹岡の隣に腰を降ろした。


「そういえばさあ、聞いてもいい?」


「ん。何を?」

笹岡は屈託なく応える。


「ええと、この間の大会で起きた事って一体何があってそうなったの?」


「大会って…なにか、誰かに聞いたの?」


「うん。同じクラスの奴から」


「ははあ〜ん」

笹岡はいったん、考え込み、不自然と思うくらい黙り込む。それから顔を向き直したかと思うと「ごめん。それまだ、言いたくない。」と応えた。


「は…なんだ、それ。

お前、相手の学校の女生徒とトラブったんでしょ?一体何が原因だとかそう言う事、話せないってこと」


「うん。」


「はあ?!」


「何だよ…知りたいの?そんなに」


「知りたか、ねーよ。べつに」


「じゃあ、いいじゃん。」


「お前それ、都合良すぎ」


「よくわかんね。」

暫し互いの間に、無言の間が過ぎ去る。


「俺は、お前の方がわかんないと思うけどね。」


笹岡は、じーっと怜の顔を見つめている。怜もそれを、負けじと見返す。だが、気づけば笹岡は別の方向を見つめていたようだ。

怜がそれに気がつき、その視線の方向ー自らの後ろを振り向いてみると、そこによく知った顔があり、こちらを睨んでるように見える。


生徒会長の男が、通路の先に立ちこちらを見ていた。


怜は一瞬驚き、それから笹岡の方を思わず見る。その行動に、今度は笹岡が顔をしかめる。

「なに」


(なにじゃ、ねーだろ。)笹岡が声を顰めて言う。

その真剣さが可笑しく思えたが、怜はいったん冷静になったつもりで、下を向く。

生徒会長はというと、暫しこっちを見つめているようだった。それから、意を決したようにこちらへと向かって来る。

怜は正直言って、他人事と感じていた。何か言われたとしてもしらばくれればいい。笹岡が、何か言って欲しいなら口裏を合わせてやってもいいが、そうなったとしても、面白いのかもしれない。

自分でも意外だがそう思っていた。

が、次の瞬間、笹岡は意外な行動に出た。怜はまたそれにギクッとする。笹岡は右手を、怜の足に載せたかと思うと、その上で何かを探るようにして手を動かし始めたのだ。


その間、ホーム内に電車が入って来る音が、建物を伝って鳴り響いていた。人々の雑談、通り過ぎる音、外の音と混ざり合っていて駅の中は騒がしいくらいで、その中に紛れているだけの自分が何を考えているのかもたまに分からなくなりそうになる。

怜は流石に場所も場所ということもあり笹岡に向かって何か言おうとするが、次の瞬間、笹岡は探り当てた怜の手を握ると、平気な顔をしてそこへ座っているフリをしていた。

怜はその笹岡の顔を妙な気持ちで眺めている。


(なんだ、こいつ。)


気付けば、目の前に生徒会長の足が見えていた。流石に、「見ろ」と言わんばかりの立ち方に、怜も顔を上げる。

生徒会長の男と目が合う。が、すぐに目を逸らされる。


「笹岡。」


そう言われ、やっと笹岡も顔を上げる。


「運営委員のこと。考えておけよ。」


「…分かりました。」


不自然な間。だが、笹岡はそれ以上話す気は無いらしい。

「…それで、」

怜は生徒会長の方を見る。ちら、とこちらを見た時に目が合う。「この男は友達?」

溜まりかねたようにそう言う。


男の嫉妬というのを、目前で見たことがなかった怜は、驚くとか、恐るよりも、感心してしまっていた。一体、あの場で笹岡はこの男に、何をしたんだ。

例えば自分がユウに対してこの男のように何か心配をするような事がこの先、同じようなシチュエーションで起こるかと聞かれたら、それも全く分からない。


…俺、制服着てるのに。明日また、会うかもしれないのに。そう考えていた。


笹岡はそれに対して、特に応えるつもりもないようで、黙って手も握り締めたままだった。





気まずい時間が過ぎ去った後で、ホームに二人で並んで電車が来るのを待っていた。

loading

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚