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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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フードで身を包んだ者達、中華料理店の中に居た彼らを全員気絶させた女は構えを解かないままふっと息を漏らした。


「……身体能力は上がっていましたが、獣みたいでしたね」


女はテーザー銃を新品に入れ替えてから中華料理店の奥を睨んだ。



「――――クククッ、獣の力だから当然ですよぉ」



異形が現れた。グリフォンの如き翼を持った瘦せこけた犬だ。しかし、それは悪魔だ。犬としての愛らしさの欠片も無い狡猾そうな顔をしていた。



「――――よォく、来たねェ。勇敢だねェ。偉いねェ」



異形が現れた。ライオンの頭と胴体、ガチョウの足、ウサギの尻尾。二足歩行する獣の背には天使の翼が生えている。しかし、それは悪魔だ。一目見ただけで分かる邪悪だ。



「――――あ、ぁ……無駄だと、言うのに」



異形が現れた。しわがれた声の主は小さなただのカラスだった。しかし、それは悪魔だ。その空虚な瞳は人の命を物としてしか捉えない。


「……何、なんですか」


同時に現れた三体の悪魔。女は思わずそう呟いた。


「何、と聞きましたかぁ? 私はグラシャラボラス、友人と愛が欲しければどうぞ私にぃ」


翼の生えた犬が答えた。大型犬程度のその身だが、尋常でないプレッシャーが漂っている。


「自己紹介の流れみたいだねェ。僕はイポス、アイポロスでもアイペロスでも、好きに呼んでおくれェ」


ライオンの頭が穏やかな声で話すが、女の警戒が解ける訳もない。


「俺、は……ナベリウス。お前も、話せ。どこの、だれ……か、を」


カラスがかすれた声を漏らす。話せと言われるも、口を堅く閉じる女。


「私は警視庁公安部、特殊対策第二課の菊池アザミです……ぇ」


何故かぺらぺらと情報を漏らした自分自身にアザミはただ絶句した。


「主様は人を素直にさせてくれるんですよぉ。良かったですねぇ」


「知らないんだねェ、可哀想にねェ」


これが、悪魔か。アザミはジリッと一歩引いた足を止め、両手に持っていたテーザー銃を捨てた。


「Smith&Wesson Model.500」


代わりに、その両手に殺傷性の高い拳銃が二丁握られた。本来ならとても片手で扱えるようなものではない高威力のリボルバーだが、アザミは両手に一丁ずつ握っていた。


「油断はしない……確実に、殺します」


放たれた弾丸。それは真っ直ぐにイポスの獅子の頭に直進し……予めその場に仕込まれていた魔法陣の防御によって弾丸は防がれた。


「悪いねェ。でも、僕は未来が見えるからねェ、防いじゃったんだァ。因みに、君が来ることも知ってたんだよォ」


「……未来が、見える?」


アザミは呆然と立ち竦んだ。そんな反則な能力、あって良いのか。未来が見えるということは、これから自分が取る全ての行動を予知しているということ。そんな相手に、どうやって勝てばいいのか。アザミは、薄っすらと自分の感情を絶望が支配し始めているのが分かった。


「因みに、私は傷から血を流させることが出来るんですよぉ。どんなに古い傷でも、残っていればそれを開いて沢山血を流してあげられるんですよぉ」


「ッ!」


グラシャラボラスが言うと、アザミの体から治りかけていた傷が開き、勢いよく血が噴き出した。手で押さえても、その出血は止まる気配が無い。このまま時間が過ぎれば、間違いなく死ぬ。


「どう、すれば……」


悪魔を三体同時に相手にするなんて、最初っから出来っこ無かったのだ。アザミは濃い絶望の中でも思考を巡らせるが、何も思いつくことは無い。ただ時間だけが過ぎていき、流れる血はアザミの意識を揺らす。


「だから……言った、だろう。無駄だと、言っただろう」


カラスが、ナベリウスが、その小さな翼を広げた。すると、その周囲に無数の魔法陣が浮かび上がる。


「死、ね」


連続して放たれる無数の黒い槍。闇を押し固めて作られたかのようなその槍は途中にあったテーブルを容易く貫通しながらアザミに飛来した。


「観世正宗ッ!」


現れた刀。名の知れた名刀であるそれを振るい、槍を切り裂く。避けて、斬る。それを繰り返してなんとか生き延びた。


「無為、だな」


凌ぎ切った。そう思い、息を切らし俯いていた顔を上げると、そこには新たに展開された魔法陣から放たれる無数の闇の槍の姿があった、


「凌ぎ、切るッ!」


避ける、切り裂く。避ける、切り裂く。どれだけ繰り返そうとも無慈悲に新たな魔法陣が展開されるだけ。


「ッ!」


遂に、限界が来た。全力で動き続けていたアザミは体力も集中力も限界だった。無数の槍の内の一本が、アザミの足に掠った。


「ぐッ、不味い……!」


テンポが崩れた。一度ダメージを受けたアザミは、次々に槍を体に掠らせる。致命傷は負っていないが、それが少しの傷でもグラシャラボラスの力によって失血死への足掛かりになる。


「ぅ、ぁ……死ん、じゃう」


失われていく血。傷付いた体、限界の体力、意識がぐらりと揺れる。そこに、黒い槍が迫った。



「――――させないわ」



天井に穴が開き、そこからオレンジの長髪の女が現れた。それと同時にごつごつとした橙色の結晶の壁が地面からせり上がり、黒い槍を防いだ。


「よく頑張ったわね、後は任せなさい」


「……貴方、は……」


膝を突くアザミに、長髪の女は微笑んだ。

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

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