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豪快な音と共にぶち開けられた天井、そこから現れたのは、マスクと帽子で顔を隠したオレンジ髪の女だった。
「私はカーラ、準一級のハンターよ。宝石使いって聞いたことなぁい?」
言いながら、カーラはマスクを外し、帽子を脱ぎ捨てた。
「あります、勿論。どうして、ここに……」
「菫青石《アイオライト》で魔力の発生源を見たら、戦ってる貴方が居たから来たのよ」
宝石使いの異名を持つカーラは、その名の通りに宝石を使って戦う。彼女は宝石を単なる触媒や魔術の補助具とするだけではなく、石が持つ固有の力を理解し、引き出すことが出来る。
「今日、ここに来たのは……偶然、ですか?」
「どうして今日ここに来たのかって話なら、そういう運命だっただけよ。私が貴方を助けに来て、そして今からこいつらを纏めて消し飛ばす……そういう運命」
ネックレス、腕輪、指輪、数珠、それらに付けられた宝石が煌めきを放ち、カーラは毅然とした態度で言い切った。
「フフフ、運命。つまり未来。それを知ることこそ僕の力だよォ。僕は君が来ることも知ってたんだァ、これから死ぬこともねェ」
イポスは手を広げ、笑った。それを見て、カーラも笑う。
「アハハ、どうかしら? 試してみれば良いんじゃない?」
一触即発の雰囲気の中、アザミはカーラの耳元で呟いた。
「相手は悪魔です。全員がソロモン七十二柱の名を持っています……その力は、恐らく本物です」
「へぇ、悪魔? 面白いわね……|鷹目石《ホークスアイ》」
数珠に付けられた黒い石が薄く光を放つ。その効力により、カーラは目の前の三体の異形の正体を直感的に見定めることが出来た。
「……確かに、本物の悪魔みたいね」
準一級のカーラでも、悪魔と相対した経験は無かった。だが、ある程度の情報は持っている。つまり、その厄介さも知っている。
「それにしても、貴方……血が出過ぎね」
「敵の能力です。傷を開き、強制的に出血させます」
カーラは頷き、暗い緑と赤色の入り混じった石を光らせた。
「血星石《ブラッドストーン》。生命力を回復させて、止血し、血を増やす……止血の効果は出ていないみたいだけど」
「いえ、十分です……これで、戦えます」
アザミは両手を広げ、口を開いた。
「|銃砲刀剣類取扱者甲種《ウェポンマスター》」
その両手に先程のリボルバーが握られる。
「私の異能は今まで一度でも使ったことのある武器、その構造と性能を完璧に理解していればいつでもそれを具現化することが出来ます。また、どんな武器でも一度握ればそれを完璧に扱うことが出来るようになります」
銃砲刀剣類取扱者甲種《ウェポンマスター》。この異能はその名に相応しい能力を有している。あらゆる武器を使いこなし、使ったことのある武器であれば大抵は再現できる。
「へぇ、良いじゃない。私は知っての通りの宝石使いよ。宝石以外も使うけど。出来ることは……まぁ、色々ね」
「勿論、存じてます。私は菊池アザミです。詳しくは伏せますが、警察機関に所属しています」
お互い、能力の紹介を済ませたのを見てカラスが……ナベリウスが翼を広げる。
「話は……終わり、だな……」
ポツリ、ポツリと魔法陣が浮かんでいく。
「へぇ、待っててくれたの? 優しいわね」
「否……確実に殺す準備を……終えただけ、だ」
カーラの言葉を否定するナベリウス。それを証明するように、魔法陣はさっきの比ではない程、多く展開されている。
「それ、止めて貰おうかしら」
カーラがナベリウスに指先を向けると、指輪の一つが赤い光を放ち、両手を一杯広げた程の大きさの球状の炎の塊が放たれる。
「フフフ、未来を知っているということの意味が分かるかなァ?」
イポスの目の前に魔法陣が展開され、それは盾としてカーラの火球を受け止めた。
「えぇ、分かるわ」
「そうか……死、ね」
百にその数が届こうかと言う魔法陣。それらから一斉に闇の槍が放たれていく。
「満礬柘榴石《スペサルティンガーネット》!」
カーラが手を地面につけると、そこから波状に橙色の透き通った宝石の壁が盛り上がっていく。燦然と太陽のような輝きを放つ宝石の壁は無数の闇の槍を受け止め、ガリガリと削れていく。
「角閃石片麻岩《ヌーマイト》、翠玉《エメラルド》」
百本近い闇の槍を受け止めて遂に限界を迎えようとした壁が突然内側から砕け、弾け飛び、壁を削っていた闇の槍を全て破壊した。そのまま全方位に飛散しようとした宝石だが、間髪入れずに吹き荒れた緑色に煌めく風がそれを悪魔の方へと誘導した。
「……ほう」
感心したように呟くナベリウスのもとに、弾け飛んだ橙色の宝石が緑の風に流れを誘導されて飛散する。
「フフフ、知ってるよォ。ごめんねェ?」
しかし、飛散する無数の石のそれぞれを防ぐように無数の小さな魔法陣が現れ、完璧にナベリウスを守った。
「アザミちゃん、何も考えずに全力で攻撃し続けて。良い?」
カーラの言葉に、アザミは言葉を返すことも無く発砲した。本来なら片手で撃てば体が吹き飛ぶようなS&W M500の反動を感じさせないような動きで左右から連続で弾を放った。
「無駄だねェ、無駄だよォ」
熊すら一撃で殺すと言われる威力の弾が、魔法陣によってあっさりと防がれる。
「577T-Rex Hannibal Model Rifle」
しかし、アザミはそれを意に介した様子も無く拳銃を捨て、ライフルを具現化する。ティラノサウルスでも撃ち殺せるの売り文句に相応しい威力を誇るそのライフルから、一発の弾丸が放たれた。