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「フシャーーール!」
「はぁぁあっ!」
キンッ、キンッ――!
リュウトのレイピアと、タナトスの鋭い尻尾の先端が何度もぶつかり合い、暗闇の中で火花を散らす。
互いの突きは凄まじい速度で繰り出され、拮抗していた。だが――
「いくよっ! アカネっ!」
リュウトが正面で引きつけている間に、横へ回り込んだのはアカネとみや。
「はい! みやさん!」
みやが生成した大きな白銀の杭を、アカネが全力でハンマーで殴り飛ばす。
「「【電磁砲】!」」
「シッ!?」
雷を纏った杭は、真っ直ぐ光の軌跡を描きながらタナトスへと突き進み――命中!
……しかし。
「!?」
本来なら身体を貫くほどの威力を持つ杭は、タナトスの手によって受け止められていた。
「シャルルルルル……」
パキパキと音を立てて杭にひびが入り――次の瞬間、粉々に砕け散る。
「よそ見してる暇はないぞ!」
「シャーーールルル!」
リュウトは間髪入れずに距離を詰め、本気の突きでタナトスを押し返す。
「アンナっ!」
みやが呼ぶと、アンナは静かに閉じていた目を開いた。
「えぇ……よく見えたわ」
それはアンナの適性魔法――【マジックシーリング】。
目を閉じていても、彼女には見えていた。相手の体内を巡る“魔力の流れ”が。
「敵は、自分の身体に触れた魔力を瞬時に地面へ流してるの。……避雷針、と言えば分かりやすいかしら。それが“魔法攻撃無効”の正体」
「つまり……」
「【電磁砲】の杭も雷も、魔法で生成されたものだから効果がなかったのよ」
「どういうことー?」
「どういうことです?」
「お子様たちにはちょっと難しかったかしら。――ユキ、あーたんに乗って、転送魔皮紙から薪をリュウトたちの周りに出しなさい」
「はいですー!」
「はーい! ユキ〜のってのって〜♪」
「アカネ! みや! リュウト! 二人にタナトスの注意が向かないように攻撃しなさい! 魔法はダメよ! 直接攻撃! 私が強化魔法をかけてあげるわ!」
「「「OK!」」」
号令と同時に、リュウト・みや・アカネがタナトスへ突撃する。
「フシャーー!」
リュウトは尻尾の一撃を引きつけ、アカネは振り下ろされる爪をハンマーで受け止める。
「えいやっ、ほいやですっ!」
「シャーーー!」
「!」
それでもわずかな隙を突き、タナトスの攻撃があーたんたちへ向かおうとした――その瞬間。
「そこっ!」
みやが【土塔】を発動し、進路をずらす。
「出来たです!」
「いっぱーい!」
気づけば、タナトスとリュウト、アカネを囲むように、二メートル近い高さの薪の壁が築かれていた。
「上出来。――さて、と。【ファイア】」
アンナが火を放つと、薪は勢いよく燃え上がり、五分もしないうちに火の壁がタナトスを囲い込む。
「これは魔法の火じゃなくて、ただの自然の火よ。まぁ、違いなんてほとんどないけど。知りたいなら魔法学校でも行きなさい。――ま、その見た目じゃ友達もできなさそうだけどね」
「シャーーーー!」
タナトスは慌てて火の壁を飛び越えようとするが――
「おっと、ダメだぞ」
「ダメですよ♪」
「シャ!?」
飛び上がった瞬間、尻尾をリュウトとアカネに掴まれ、地面へ叩き落とされた。
「やっぱりその見た目でも、魔物は魔物なんだな。……効果があるのは、その行動でわかった」
「これがもし魔族相手なら、痩せ我慢してたかもしれませんけどねー」
火はさらに勢いを増し、周囲の空気が灼けつくように熱くなる。
アンナの指示で、あーたんたちは次々と薪を追加。みやが風魔法で炎を煽り、追い討ちをかけた。
「ちなみにだが……俺もアカネも、まだまだ行けるぞ」
「私たちは装備がありますけど、裸のあなたじゃ耐えるのに苦労するでしょうね」
「フシュァァァアアア!」
タナトスが尻尾を振り上げ、リュウトを狙う。だが――
「おっと! もう不意打ちは効かないぞ」
レイピアを構えたまま軽くかわす。
「確かにお前の一撃は、俺たち一人ひとりと同等の威力だ。だが、焦って繰り出す攻撃を素直に食らうほど、お人好しじゃないんでな」
「そういうことです。何戦でも付き合ってあげますよ」
「フシャァァァア!!!」
リュウトとアカネは息を合わせ、タナトスへ連撃を叩き込む。
化け物――その言葉が相応しい。ここまで成長した二人の攻撃を、一体で捌き切るなど尋常ではない。
「フシュァ!」
「――隙あり!」
周囲の温度が上がるにつれ、タナトスの動きがわずかに鈍る。
その一瞬を、リュウトは逃さなかった。
レイピアの切っ先が閃き、脳天を一直線に貫く。
「フシュ……シュシュシュシュシュ!」
「うわ、気持ち悪い」
死の間際、タナトスはまるでゴキブリのようにバタバタと暴れ――そして、完全に動きを止めた。
「よっと」
リュウトとアカネは火の壁を軽やかに飛び越え、仲間たちのもとへ戻ってきた。
「どうだった? 私の作戦、効いたでしょ」
「あぁ……“逆キャンプファイアー”とでも名付けるか?」
「“ファイアーウォール”の方がいいんじゃないかしら?」
「なんか……パソコンの中にありそうな名前だな」
「?」
「ユキもよく頑張ったぞ。偉い」
リュウトがユキの頭を撫でると――
「にへへ、ユキ偉いです!」
「リュウトさん! 私も!」
「ますたー、あーたんもー」
「リュウトっ!」
「はいはい、みんなよく頑張りまし――」
全員の頭を順番に撫でてやろうと思った、その瞬間。
リュウトの体に“あの魔法”が走る感覚が訪れた。
「……どうしてだ……」
「?」
「リュウトっ?」
「…………………【武器召喚】……………」
その言葉とともに、天から黄金のランスが降り注ぎ、地面に突き刺さる。
「…………」
「これは……神の武器ですね? どうして今? タナトスは倒したはずじゃ……」
「そうね……来るにしても遅すぎるわ……」
ランスを手にしたリュウトは黙考し、ひとつの答えに辿り着く。
「……まさか!」
「リュウトっ?」
「みや……お前、『分析』したときこう言ったよな?」
「? っ」
「“種族名”が……タナトス、だと……」
その直後――
ウッドリーワンドのドームの外から、何匹も……何匹も、“タナトス達”が襲来してきた。