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第一章『蒼泡の檻にて』



「静かに沈んで、泡になれ——蒼泡の檻」



ぽつりと呟かれたその言葉と共に、

湿った空気が一瞬震えた。


ネリネの手のひらから生まれた青白い泡が、

ふわりと宙に浮かび、風もなく静止する。


泡はやがて、試験用の標的を包み込むように広がり、

そのままふんわりと閉じて、閉じ込めた。



「ふむ、完璧ですね」



ジェイドの拍手が、練習場に軽やかに響く。



「……別に、褒められるためにやったわけじゃないけど」


「でも、見事だったのは事実です」



ネリネはつまらなそうに肩をすくめ、目を細める。



「どうせまた、寮長とかに報告して、めんどくさいことに巻き込むんでしょ?

……ボク、そういうの嫌」


「ふふ、相変わらずですね。でも、あなたの魔法は注目に値するものですよ」



ネリネは返事をしない。代わりに、空を見上げる。雲の切れ間から、わずかに陽が差していた。



* * *



昼休みの食堂。


カウンター席の片隅で、ネリネはスープをすすっている。


隣に座っているのは、当然のようにジェイドだ。



「今日もキミと一緒なんだねぇ、ジェイド」



向かいからフロイドが身を乗り出し、ニヤニヤと笑う。


「ねぇジェイド。クジラちゃんってさ、

何考えてるのかわっかんないよねぇ。つまんないの?」


「……考えてないだけだよ。めんどくさいし」


「わっは〜、だよねぇ〜!」



ネリネはうるさそうに視線をそらし、ジェイドの袖を引く。



「……ねぇ、眠くなってきた。教室戻るの面倒」


「では、図書室で休んでいきますか?」


「うん。ついてきて」



まるで子どもが親を頼るような素振り。


けれど、そこに甘えた表情はない。


ただ、当たり前のように。



( ボクが呼べば、ジェイドは来る )


それが、幼い頃からの“当たり前”。


でも最近、ふとした瞬間に胸がふわりと苦しくなることがある。


彼が笑うと、どこか置いていかれる気がする。


彼が誰かと話していると、自分だけ泡の外にいる気がする。


——この気持ちに、名前はまだない。


ただ、静かに広がる。まるで、泡のように。

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