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遂に私の番が来てしまった。
下に降りて、みんなの準備が整うと、スタートラインにつく。
足を肩幅に広げ前傾姿勢を取るとピストルの音が鳴った瞬間に走り出した。
最初は順調だったがやはり中々順位を縮められずにいた。周りを見てみると足の速い子ばかりでどんどん追い抜かれていく、それでも諦めずに走るが結果は8人中の5位だった。
観客席に戻ってきた私に向かって、青木さんがんばってたよとかお疲れ様!と言ってくれる人はいたけど、結局優勝は小春ちゃんが掻っ攫っていって、彼女はクラスメイトや教師陣から称賛されていた。
それに比べて私は先生の期待にも答えられず微妙な順位。
がんばってた…って一生懸命手を振って最後まで走っていたからかな、きっと転んだりなんてしたら白い目で見られると思って走り切ったけど、励まされるとさらになにもがんばれてなんかないんだと痛感してしまう。
(やっぱり私なんかじゃ無理なんだ……)
そう思うと無性に悲しくなって涙が出そうになるので、私はその場から逃げるように離れた。
「ネネ!」
後ろから呼ばれて振り向くと小春ちゃんが走って追いかけてきていた。
「はぁ……よかった……間に合った……」
彼女は肩で息をしながら膝に手を当てていた。
「……どうして?」
「え?」
「だって、私なんかに構ってる暇なんてないでしょ」
そう言って自嘲気味に笑ってみせる。
すると彼女は少しムッとした表情になったかと思うと私の頬を軽くつねってきた。痛い。
「いたっ!なにすんの?!」
「ネネが自分のこと悪く言うからだよっ」
彼女はそう言って今度は私の頭を撫でてくる。
「私はネネのこと大好きだよ、だって友達だもん」
「……」
私は無言で彼女の手を払い除けるとそのまま走り出してその場を去った。
(なんなの……うざい、いい子ぶって、私の先生を狙ってるくせに…)
そして観客席に再び戻ると、その後も競技は続き、最終的な総合優勝者はうちの組で、一番活躍したと言うにふさわしい小春ちゃんはそれは嬉しそうに笑みをこぼして透き通るような綺麗な汗を流していた。
一方私はなんの活躍もないまま、結局先生と一緒に焼肉に行くなんてことも夢のまた夢になってしまったのだ。
数分もせずにHRに移り、体育祭は終わりを迎えた。
齋藤先生は小春ちゃんと話をしていて、私は情けなさから1人寂しく帰宅した。
玄関で靴を揃えるのも面倒くさくて、適当に脱いで、そのままリビングに向かうとソファに寝転がりながらスーパーで売られているであろう草餅をだらしない格好で平らげる母と目が合った。
「あら、おかえり」
「……ただいま」
私はその横を通り過ぎて流しで手を洗うと自分の部屋へと篭った。
制服から部屋着に着替えてベッドに倒れ込むようにして寝転ぶと、布団の上で沈んでいるスマホを手に取って脳死でSNSのフォロワーの投稿を眺めていた。
暫くすると母が、ご飯出来たわよーと言いながら扉をコンコンっと叩いてきたので、うん今行く、と返事をするとスマホをポケットにしまい込んでリビングに向かった。
母は既に席に着いていて、テーブルの中心には真珠のようにアイボリーな貝殻の形をした中ぐらいのお皿に盛り付けられた卵とレバーの入ったニラ炒めがある。
私のトレイを見ると茶色の汁椀に入った豚汁と、小学生のころお母さんと一緒にSeriaに行ったときに購入したうさぎ柄のピンクの茶碗にはご飯がよそわれていた。
お母さんのトレイにも同じ食材が並べられており、私は席に着くと、母と同じタイミングで手を合わせた。
「いただきます」
テレビではお笑い番組が流れていて、母はそれを見ながら橋を手に持つと、炒め物を口に含んでいく。
そんな母を尻目に見ながら黙々と箸を動かす私。
(……なんか今日は食欲無いかも……)
しかし残すわけにもいかないのでなんとか胃の中に押し込んだ。
そして食べ終わる頃には時刻は20時を過ぎていて、お風呂に入ることにした。脱衣所で服を脱ぎ、裸になると洗面台の鏡に映る自分の姿が目に入る。
(また、胸が大きくなってる……)
私の胸はどんどん成長期に入っていることがよくわかるほどになよやかな胸をしていた。そのせいもあってか最近ブラジャーのサイズが合わなくなってきたので新しいのを買いに行かないといけないなと思う反面、これ以上大きくなると困るなぁとも思うのだ。
しかしそんな悩みを誰かに相談できるわけもなく私はため息をつくしかなかった。そしてお風呂場に入るとシャワーを浴びて身体を洗い始める。
ボディソープで泡立ったスポンジで全身を優しく擦ると、汚れと一緒に嫌な気持ちも流れ落ちていく気がした────。
翌日、学校に着くと小春ちゃんと目が合うなり駆け寄ってきた。
「おはよ!ネネ」
「……うん、おはよう」
私は無愛想に返すと、そのまま席に着いた。
すると彼女は隣の席に座るなり私の顔を覗き込んでくるので鬱陶しいことこの上ない。
しかしそんな私の気持ちなどつゆ知らずといった様子で話しかけてくる彼女に苛立ちを覚えながらも