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くるると月呼の間に見えた“優しい線引き”、切なかったな。野利彦の話を聞かなかったことにして、相手を思いやる月呼の選択がすごく月呼らしくて、胸がぎゅっとなった💧 それでもバレンタインに義理チョコまで用意してローラシアに渡すところ、月呼の誠実さがじんわり沁みます…。侑加くんへの告白、どうか月呼の思いが届きますように🤍
次の日の午前七時。月呼はくるるの部屋をたずねる。
「前沙、昨日はごめんね」
「ううん、全然。くるるちゃんもエステティックルームを利用してみて。すごくよかったよ」
くるるは月呼を部屋にあげると、彼女の顔に化粧をほどこし、長く茶色い髪を編み込んだ。それは一見、三つ編みのようだ。
「わあ!」
鏡で自分の姿を見た月呼の気分が高揚する。
「今日は最高のバレンタインデーになるといいね」
くるるは笑顔で月呼の肩をぽんとたたく。
月呼はくるるに礼を言うと、今日のバレンタインデーに向けての準備をするため、キッチンルームに向かった。
ちょうど、キッチンルームから野利彦が出てくる。
「浪本さん、おはよう。体調はもうだいじょうぶ?」
月呼は声をかけた。
「おはよう。えっ、体調? なんのこと?」
「昨日の夜、お腹をこわしたんじゃ」
「そんな事実はないけれど。だれかと勘違いしていない?」
野利彦がうそをついているようには見えない。そして、ここで事実とは違うことを言う必要もないだろう。くるるの証言との食い違いに、月呼の胸がざわざわとした。
「あっ、そうだった! 私、継田さんと勘違いしていた! ごめんね」
月呼は想像で作った話をしてごまかす。
そうなると、くるるが自分にうそをついた? 月呼は気がかりになる。わざわざ野利彦をだしにするとは、よっぽど月呼にも言えないなにかがくるるにはあるのだろう。くるるに話せないことは月呼自身にもある。親の会社が倒産することは言わないつもりだ。言っても、くるるを思いわずらわせるだけだろう、と。彼女を信用していないから言わないのではなくて、心配させたくないから言わないだけだ。きっと、くるるもそういう思いで、月呼に隠し事をしているのだろう。
ここは「昨日はどうしてうそをついた?」などと言ってくるるを問い詰めるべきではない、と月呼の直感が働く。野利彦の話は聞かなかったことにするべきだ、と。ただ、くるるとの間柄にも明確な線引きがあることを実感し、さみしさをおぼえる。
「くるるちゃんも侑加くんみたいに、本名じゃないもんね……」
月呼はつぶやく。
気を取り直して、キッチンに立つ。これから作ろうとしているものはバレンタインデーによく作っているものなので、調理には慣れていた。
「できた!」
作った料理を箱に入れ、美しく包装する。今日は侑加にこれを渡すのと同時に、自分の思いを伝えるつもりだ。つまり、愛の告白。後は侑加の気持ち次第。
侑加と何度キスやハグをしても、彼の実際の考えはどういうものなのかは、月呼にもわからない。今は月呼に恋人のような態度と接し方をしていても、ゲーム最終日には「明日はお互いに三億円を選ぼう」とけろっと言い出しそうでもある。
「……」
月呼の頭に家族の顔が浮かぶ。三億円を手に入れたとして、睦洋や空美はそれが月呼自身の恋心を犠牲して得た金だと知れば、素直によろこばないだろう。そもそも、どんなことで得た金でも、娘に「でかした」とは言わないはずである。月呼から見て、間違いなく「親の会社のことより、自分の幸せを優先しろ」と言うような親だ。でも、ここで親の厚意に甘えていいものなのか、と月呼は自問自答する。それは自分が侑加を選びたいがための言い訳としていないかと。
自分がどうすればいいのかは、どうすれば正解なのかは月呼自身にもわからない。ただ、バレンタインデーという今日は侑加にチョコレートを渡したい。
月呼はキッチンルームを出てから、ひとりの局員を探した。
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月海(ルア)@新垢
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「ローラシアさん。はい、ハッピーバレンタイン」
月呼は持っていた箱を渡す。月呼が用意していた手作りチョコレートは侑加の分だけではなかった。
「なんですか」
「チョコレートです。私が局員のローラシアさんに好意を向けているって、ルール違反だと勘違いしないでくださいね。これは義理チョコレートです。私が好きなのは侑加くんですから」
「言われなくても、わかっていますよ」
ローラシアは箱を受け取る。
「運営になにかをプレゼントするとは、そのような参加者はこのレムリア・ゲームがはじまって以来初めてのことですし、あなたはとことん変わっていますね」
ローラシアがいなかったら、月呼はこの島でここまでのびのびとやれていなかっただろう。内心、月呼はローラシアに感謝していた。