AM.2:00 東京警察署
警察署の中は慌ただしく、刑事達が走り回っていた。
「おい!!市民の避難は完了してるのか?!」
「通行止めがまだ!?救急と消防が入れるなくなった!?」
「早く事故処理をしろ!!パトカーでも使って、封鎖しろ!!」
「先に市民達の安全確保だろ!?」
ドタドダドタドタ!!
バタバタバタバタ!!
「市内の病院にも、救急は回ってんのか!?そっちも、一般人の立ち入りを禁止しろ!!」
「ヤクザが発砲!?一般人が巻き込まれただと!?」
「市民からの通報が鳴り止みません!!」
プルルッ、プルルッ!!
ドタバタドタバタドタバタ!!
警察達は、市内の病院での発砲乱射事件、新宿御苑の中での死体発見、一般道路爆破事件の対処に追われていた。
喫煙所
「はぁー、忙し過ぎるだろ。」
櫻葉裕二(さくらばゆうじ)は缶コーヒーを飲んだ後、煙草を咥える。
「いきなり、一般道路が爆破するか?それと、新宿御苑の中から、死体が発見されて、市内の病院で発砲。1日で3つの事件が起きてるって…。」
「新宿御苑の中で発見されたのは、椿会の組員と兵頭会の組員の1人。一般道路の爆破事故も、椿会が関係してるだろうって。マル暴の奴等がぼやいてた。」
八代和樹は呟きながら、煙草を吸う。
「なぁ、和樹。何で、上の奴等は椿会の事に関しては、見て見ぬフリしてんだよ。最近の事件は、殆ど椿会が関連してんじゃねーか。普通の事故処理で対処するか?おまけに、市内の病院で乱射事件って…。はぁ…、どうなってんだ?」
そう言って、櫻葉裕二は煙草を灰皿に押し当てる。
ガチャッ。
「椿の奴が、警察庁長官に金を渡してるから。上の奴等を当てにしない方が良いよ。」
喫煙所の中に入って来たのは、槙島ネネだった。
「槙島ちゃん!?ビックリした…って、今の話本当
なの?」
「うん。和樹さん、ちょっと。」
櫻葉裕二の問いに答えた槙島ネネは、八代和樹の服の袖を掴む。
「裕二、話が終わったら合流する。」
「了解。」
ガチャッ。
槙島ネネと八代和樹は喫煙所を出て、誰もいない仮眠室に入った。
「どうしたんだ?」
「アイツからの連絡を伝えとこうと思って。」
「…、何て、来たんだ?」
「泉病院に潜入して、七海の救出と泉院長を逮捕して欲しいって来た。」
その言葉を聞いた八代和樹は、壁に背中を付ける。
「捕まっちまったのか、七海って子。一般道路の爆破も兵頭雪哉が拾った子達が関係してる感じか。」
「うん、兵頭白雪(ひょうどうしらゆき)のJewelry Wordsの力が、思っていたよりも強力だったみたい。車に乗っていた子達の1人が重症。とにかく、泉院長を捕まえないとまずいんだよね。」
「薬物のキャンディを製造してるって噂の病院か。アイツ、動けないのか。」
「芦間啓成がアイツの事を嗅ぎ回ってる。だから、下手に動くなって連絡したの。」
「神のお告げってヤツ?お前の能力で分かったのなら、確実な事なんだろうな。」
槙島ネネのJewelry Wordsの能力を知っている八代和樹は、その言葉を聞いて納得がいった。
「アイツが何で、Hero Of Justice のメンバーを気に掛けるのか分からないけど。」
「二度前にしたくないんだろ、拓也の時のように。俺も…、あの時は何も出来なかったからな。拓也は俺の友人でもあるからな。」
「和樹さんも後悔してる?兵頭拓也の事。」
「この世に魔法が無い限り、死んだ人間を生き返らす事は出来ない。だからこそ、二度とこんな事が起きないようにしたいと思っている。後悔してばかりだよ、俺は。」
八代和樹の言葉を聞き、槙島ネネは手を握って来た。
ギュッ。
「私が生きて側にいる限りは、その心配はしなくて
大丈夫です。」
「そうか、ありがとな。」
ポンポンッと槙島ネネの頭を撫でると、白い頬がピンク色に染まった。
「なら、翌朝、泉病院に向かうぞ。」
「了解。」
八代和樹と槙島ネネは、静かに仮眠室を後にした。
AM.3:00
東京 六本木にある高級マンションの一室にて
二見瞬と共に生活している双葉は、急な吐き気に襲われトイレに篭っていた。
「ゴホッ、ゴホッ!!」
ビチャッ!!
白い便器に赤い血が飛び散る。
「はぁ、はぁ…。」
「双葉ー、大丈夫か?」
「はぁ、はぁ、ゔっ!!ゴホッ、ゴホッ!!」
「大丈夫じゃなさそうやな。」
二見瞬はゆっくりと双葉の背中を摩る。
双葉自身は何故、自分の体が壊れ始めているのか知っていた。
過度なJewelry Wordsの使い過ぎにより、体に影響が出ていたからだ。
「はぁ、はぁ…。ありがとう、瞬。」
「うん、少し横になりな。持ち上げるぞ。」
ヒョイッと双葉の体を抱き上げ、大きなソファーに寝かせる。
双葉の顔は青白く、体も痩せ細っていた。
誰が見ても、調子が悪いのが分かる。
「双葉、大丈夫か。」
「うん、少し寝れば大丈夫…。だけど…、あんまり時間がないみたい。」
「どれぐらい持ちそうなんや?」
「あと….、5回。」
二見瞬は、その言葉の意味を理解していた。
不思議な事にJewelry Pupil は、自身の命がどれ程なのかが分かる。
Jewelry Pupil 、神秘がかった容姿に能力を持った人間を恨んだ神がJewelry Pupil の寿命を短くしたと言われている。
そして、Jewelry Pupil 自身に命を終わりを悟らせるようにこの地に降り立たせたと。
それは神が嫉妬した結果なのだと。
「ごめんなさい、瞬。双葉、役立たずだ。」
「そんな事あらへんよ。また、俺の血を双葉に渡させば良いんやから。」
スッと二見瞬はナイフを取り出し、自身の腕を傷付
けた。
ブシャッ。
そして双葉の口に血が垂らすように、口元に傷口を
近付かせる。
ポトッ、ポトッ、ポトッ。
赤い血が双葉の口の中に流れ落ちる。
騎士とJewelry Pupil は一心一体、運命共同体。
二見瞬は、自分の生命力を双葉に分け与える事が出来る。
「なぁ、双葉。俺は、お前の事を大事に思ってる。お前を拾った日から、その気持ちは変わってへん。だけど、俺は進んでる足を止める事は出来ひん。」
ポトッ、ポトッ、ポトッ。
二見瞬はそのままソファーに体を倒し、双葉の頭を撫でた。
「俺はなぁ、もう上がる事は出来ひん。深い所まで、堕ちていってるからなぁ。今更、生き方を変えようとも変えたいとも思ってへん。どうしてやろな、お前のこんな姿を見ると、足を止めてしまうんや。」
「…、瞬。止まる必要なんてないよ。双葉達は行けるんだよね?理想とした場所に行けるんだよね?」
「四郎君達を殺して、椿の持っとるJewelry Pupil を奪う。そして、椿を殺して、椿の地位を奪うんや。俺達以外の人間をひれ伏せるんや。」
「殺られる前に、殺らないと。」
双葉はゆっくり起き上がり、二見瞬の手を握る。
「双葉と瞬は、死ぬ時も一緒、幸せになる時も一緒。双葉は、瞬の願いを叶えたい。」
「…、そうか。」
二見瞬はそう言って、双葉の手を離し立ち上がる。
「潰される前に潰す。これからもこの先も変わる事のないんやろうな。」
「邪魔する奴は殺すだけだよ、瞬。双葉達の邪魔をする奴等は殺す。」
「天使を悪魔に育ててもうたなぁ。じゃあ、四郎君達を探しに行こうか。」
「うん。」
双葉は二見瞬の腕にしがみ付き、リビングを後にした。
AM 7:00 兵頭会本家
「雪哉や、まだ老耄をこき使いおって。」
「金なら渡しただろ?四郎の治療をしてくれ。」
「ッチ、少しは敬え。」
闇医者の爺さんは、眠る四郎の額盧大きな傷を縫い始める。
既に麻酔を打っており、四郎は起きる事なく治療を受けていたのだった。
「頭蓋骨にヒビが入っておる、暫くは安静にさせておけ。それから腫れてくるだろうから、冷やすように言っておけ。」
「あぁ、分かった。」
「星影が死んだそうじゃな。」
手を動かしながら、兵頭雪哉に尋ねた。
「あぁ、昨日亡くなった。」
「そうか、彼奴は死なんと思っておったがな。七海の坊主が攫われちまったのか。どうすんじゃ、お前。」
「取り戻すだけだ、居場所の見当は付いてる。四郎には行かせないと決めている。」
兵頭雪哉はそう言って、四郎の手に触れる。
「雪哉、拓坊とコイツを重ねるのだけはやめろ。椿に漬け込まれるだけだ。」
「そんな事は分かってる。だが、俺は四郎の事を拓
也の生まれ変わりだと思ったんだ。」
「…、寝ていないだろ、お前。ちゃんと寝たのはいつなんじゃ?」
「眠れねーよ、拓坊が死んだ日からな。俺は長生きするつもりもないから良い。」
その言葉を聞いた闇医者の爺さんは、溜め息を吐く。
「はぁ、お前の好きにたらええ。わしは帰るからな。これは、モモちゃんの目薬と日焼け止めじゃ。金はいつもの所に振り込んどけよ。」
「あぁ、助かった。」
「星影に渡しといてくれ。」
ガサッ。
ポケットから取り出したのは、星影が吸っていた煙草だった。
「わしより先に死んでしまって…。今度はお前達よりも先に逝きたいもんじゃな。」
「アンタもそう思うんだな。」
「じゃあな。」
闇医者の爺さんが出ていった後、岡崎伊織が入れ替わりで部屋の中に入って来た。
「頭、葬儀の準備が整いました。」
「あぁ、分かった。」
「お坊さんも到着しておりますので、こちらへ。」
兵頭雪哉と岡崎伊織が部屋を出て行った事を確認したモモは、四郎の側に腰を下ろす。
「四郎…、こんなに傷だらけ…。四郎がこんなにボロボロなのは、誰の所為?雪哉おじさんの所為?」
「ボスの事を悪く言うのは、やめた方が良いよ。特に、四郎の前ではね。」
喪服に着替えた三郎は、モモを見下ろしながら言葉を吐く。
三郎の顔にも大きなガーゼが貼られていた。
「何で。」
「四郎の逆鱗に触れるから。嫌われたいなら、話せば良いけどね。」
「嫌な奴。」
「モモちゃん、四郎はボスの事を尊敬と同じような感情を抱いてるんだ。ボスに命を助けられたからっ
てのもあるけど。」
三郎はそう言って、モモの隣に腰を下ろす。
「救われた?」
「少しだけ昔話をしようか。俺と四郎は、同じ団地で育った幼馴染ってヤツでね?四郎の母親がとんでもない糞野郎で、四郎の首を絞めて殺そうとしたん
だ。だけど、団地に来ていたボスが、四郎から母親を引き剥がした。ボスと四郎の出会いは、こんな感じだ。」
「だから、四郎は雪哉おじさんの為に動くの?」
「俺と一緒に連れて行ってくれた事は、ボスに感謝してるよ。離れたくなかったからね、四郎とは。いつも一緒にいたからさ。」
モモは黙って、三郎の話を聞いた。
「四郎の事が好きなら、ボスの悪口は言わない方が良いよ。俺からの忠告は、聞いといた方が身の為だよ。」
「分かった。」
「へー、素直だね?」
「言わない、四郎の嫌がる事はしたくない。」
「俺も四郎が君を大事にしてる限りは、守ってあげるよ。」
わしゃわしゃとモモの髪を乱暴に撫でる。
「わっ!?な、何するの。」
「三郎ー、モモちゃーん。そろそろ、集まってくれる?」
「六郎っ。」
襖から顔を出した六郎に、モモは抱き付く。
「星影さんの葬儀が始まる。四郎は寝かせておけ
よ、三郎。」
「分かってるって。あれ、二郎は?」
「暫く帰って来ないと連絡があった。」
「へー、そうなんだ。」
一郎の言葉を聞いた三郎は、興味が無さそうに答える。
「何か、ヤバい感じ?」
「だろうな、五郎も独断で晶達と動いてる。」
「晶と?珍しー。」
「五郎の事は好きにさせとくって、ボスが言っていた。俺達も五郎のやる事には、口を出すなと。」
「ま、晶がいるんだから心配はしないけどねー。」
シュルッ。
三郎はそう言って、ネクタイを緩めた。
「そうだと、良いんだがな。」
「お兄ちゃん達ー、まだ?」
「今、行く。」
六郎に促され、一郎と三郎は四郎の寝ている部屋を後にした。
同時刻 泉病院
カルテ室の前にいた椿会の組員を眠らせ、五郎達はカルテ室内にいた。
合流した齋藤もまた、カルテ室内で調べ物をしていた。
晶は、次々にパラパラとカルテ資料を目に通す。
「成る程ね。ここにあるカルテの殆どは、キャンディの実験隊として死んだ奴等か。」
「だろうな。これも、キャンディの製造の為に攫って来た、アルビノ達のカルテだ。どれだけの血を抜いたら死ぬのか、切り取っても大丈夫だった部位まで、事細かく書かれている。」
ペシッ。
齋藤はそう言って、カルテを指で弾く。
「悪趣味ですね…、泉淳は拷問するのも趣味だったみたい。写真が丁寧にファイリングされてる。」
「キッモ、顔からしてキモいもんな。」
「晶さん、それはただの悪口。」
「俺に対して、そんな口を聞くのか?穂乃果。」
「じょ、冗談ですよ…。」
穂乃果は晶から顔を逸らし、ファイリングされた写真に目を通す。
「おい、これって監視カメラの映像か?しかも、地下室?みたいなのが映ってる。」
五郎はパソコンに映し出されている映像を見て、呟く。
そこには、ぐったりとしてるアルビノの男女が地下室に閉じ込められていた。
だが、アルビノの男女の体を見ると、手足を切られていている。
「酷い…。」
「キャンディに使ってるアルビノの血は、コイツ等から摂取してたのか。白い煙が立ってんな…、何だこれ。」
穂乃果と晶の言葉を聞いた齋藤は、映像を見ながら言葉を吐いた。
「葉っぱを焚いてんだろ、薬物の。薬中にさせて、良いように使ってる。泉淳の野郎は、相当な医者だな。」
「いやいや!!医者のする事じゃないですよ、これ!!」
「だろうなぁ、泉淳は変態って事だ。」
穂乃果と齋藤の会話を他所に、五郎はもう一つの映像に釘付けになっていた。
「ちょっと、待てよ…。この映像に映ってるのは、七海!?」
もう一つの映像とは、七海のいる地下室の映像だった。
「クソッ!!泉淳の野郎、殺す!!」
「おいおい、ちょい待ち。下手に動くなよ、五郎。ここには椿会の人間が山程いんだ。椿と泉淳に、俺達の存在を知られたらどうする。」
「だけど、齋藤さん!!」
「良いか、五郎。お前は泉淳を殺したいんだろ?だったら、その場の感情で動くな。」
齋藤の言葉を聞いた五郎は、机を叩き付ける。
ガンッ!!
「泉淳も、すぐには殺さない筈だ。七海は良い脅しの材料だ。まずは、地下室に続く階段を見つけないとだろ。」
「うす…。」
「この部屋での用は済ませた。地下室に続く階段を探しに行くぞ。良いか、迅速に静かに探し、組員達にバレないように行くぞ。」
齋藤の言葉を聞いた五郎達は、黙って頷く。
そして、齋藤を先頭にカルテ室を後にした。
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