テラーノベル
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車がゆっくりと走り始める。
穏やかなアニソンが流れる車内は、不思議と居心地がよかった。
信号待ちで車を止めた佐久間が、ふと思い出したように後部座席へ手を伸ばす。
「そうだ。」
助手席に置いてあったバスケットを持ち上げる。
「これ。」
阿部へ差し出した。
「え?」
中には、丁寧にラップで包まれたサンドイッチが並んでいる。
卵。
ハムとチーズ。
照り焼きチキン。
彩りのいい野菜もたっぷり挟まれていた。
「今朝、涼太が作ってくれた。」
目黒が驚いたように佐久間を見る。
「舘さんが?」
「うん。」
佐久間は頷く。
「昨日、お前とラジオ一緒だったじゃん。」
目黒は思い出したように「ああ」と声を漏らした。
「収録終わったあと、『このあとあべちゃんのお見舞いに行く』って話したんだ。」
「あのとき涼太さ、何も言わなかったんだろうけど。」
佐久間は笑いながら続ける。
「今朝電話来て、あべちゃんのこと迎えに行くって話したら、『これを持っていってくれ』って。」
バスケットの中には、小さなメモが一枚入っていた。
『食べられるときに、少しでも。』
短い一文だけ。
けれど、その文字から優しさが伝わってくる。
「舘さん……。」
目黒は思わず呟く。
佐久間はバックミラー越しに二人を見ながら微笑んだ。
「涼太ね、あべちゃんのことはもちろんだけど。」
「めめのことも心配してたよ。」
「俺?」
「『目黒はきっと阿部につきっきりになる。自分のことは後回しにしそうだから』って。」
目黒は照れくさそうに苦笑した。
「見抜かれてるな……。」
「『二人とも食べていないかもしれないから、多めに作っておく』って。」
阿部はバスケットを見つめたまま、小さく笑う。
「みんな……。」
目頭が熱くなる。
誰にも言えず、一人で部屋に閉じこもっていた数日。
迷惑しかかけていないと思っていた。
けれど違った。
みんなは責めるのではなく、心配してくれていた。
「食べよ。」
目黒がサンドイッチを一つ取り出し、阿部へ差し出す。
「せっかく作ってくれたんだから。」
「……うん。」
阿部は受け取り、小さく一口かじる。
ふわふわのパン。
優しい味付けの卵。
どこかほっとする味だった。
「おいしい……。」
自然と笑みがこぼれる。
目黒も一つ手に取り、「ほんとだ」と笑った。
「舘様、料理うまいな。」
「でしょ?」
佐久間はどこか誇らしげに笑う。
「『ちゃんと全部食べた』って、あとで報告してあげてね。」
611
#BL
kaede🍁
15,921
おその★
19,664
「うん。」
阿部はもう一口、ゆっくり味わう。
このサンドイッチは、ただのお昼ご飯ではない。
離れた場所からでも届いた、仲間たちの「一人じゃないよ」という気持ちそのものだった。
車はそのまま、事務所へ向かって静かに走り続けた。
コメント
1件
ああ、第11話、読み終えました……。ラジオのあとの舘さんのあの細やかな気配り、じんわり沁みましたね。「食べられるときに、少しでも」って一言に、距離を越えたチームの温かさがぎゅっと詰まってる。阿部くんが「迷惑しかかけていない」と思ってたところで、あのサンドイッチ……めめも自分のこと後回しにしそうって見抜かれてるのも、なんかもう、みんなで支え合ってる感じが伝わってきて、私も目頭が熱くなりました。