ビクターは、リオの服を離したが目で威圧してきて感じが悪い。
「以前に来た時は、おまえは見かけなかったが」
前にも来たことあんのかよ、ギデオンが嫌いじゃなかったのかよ、と頭の中で突っ込みまくって、リオはビクターの目を見る。ギデオンと同じ黒い髪に青い瞳。同じ黒でもビクターは真っ黒だ。片やギデオンは、光の当たり方によっては青く見えて、とてもきれいだ。顔もギデオンの方がかっこいいし…と考えて、リオは慌てた。
え…俺、なんで張り合わせてんの?ギデオンの方がかっこいいからって、なんなの?
自分でもよくわからなくて、今度は首を|捻《ひね》る。
しかし答えが出る前に、今度は腕を引かれてよろけ、硬い胸に鼻をぶつけた。
「あたっ」
「俺の質問に答えろ」
「はあ?」
こいつ、典型的な俺の嫌いな騎士だ。
リオはムカついたけど、反抗して斬られたり痛い目にあうのはもっと嫌だ。だから答えた。ものすごく嫌そうにしながら。
「四ヶ月前からここで働かせてもらってます」
「ほう。まだ若そうだが?」
「はい。二ヶ月後に成人します」
「成人前の少年を雇っているのか、ここは」
「俺、母親も頼る親戚もいなくて、天涯孤独なんです。だから安定して賃金が稼げるよう、ギデオン…様が仕事をくれたんです」
「ちっ…偽善者め」
「はい?」
「いや、しかし目を引く容姿をしている。どこの出身だ?」
リオはドキリとする。容姿や出身を聞かれると、どうしても身構えてしまう。
「南の国境近くの村です。隣接する国に金髪の人が多いせいか、俺の村でも多くいました」
「なるほど。引き止めて悪かったな。戻ってよい」
「…失礼します」
リオは再び頭を下げて、走る勢いでビクターから離れ城の中に入った。
心配そうにリオを見ているアンを抱きしめ、息を吐く。
リオの出身は、本当は北の国境近くの村だ。もし調べられたりしたら、そこに魔法を使える一族が住んでいたことが知られるかもしれない。一族は誰も残っていないから、知られることはないのだけど。でもリオ達を不審に思っていた近隣の村人が、余計なことを話すかもしれない。だから出身地は誰にも言わない。ギデオンにさえも。
部屋に戻ると、ギデオンがいた。
リオの部屋だけど、ギデオンは自由に出入りできる。まあ当然だな、ギデオンの城だからなとリオは納得している。でもリオがいる時は、入っていいかどうかを、リオにちゃんと確認をする。ビクターと違ってギデオンは紳士だ。
今は何か心配がある故に、ここで待ってたのだろうと思い、リオは「どうしたの?」とアンを床に下ろしながら聞く。
「どこに行っていた?」
「アンを探しに庭に」
「そうか。変わったことはなかったか」
「変わったこと?ああ、ビ…じゃなくて、見たことない身体の大きな騎士と会ったよ」
「なに?あいつ…勝手に俺の城の中を歩き回るなよ」
リオは素直にビクターに会ったことを伝えた。王城から来た使者だとは知らない振りをしたけど。
それを聞いたギデオンは、誰が見ても震え上がる険悪な顔になった。
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