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私は父さんの自室でラジカセを見つけた。
そしてそれに仁美のカセットテープを聞いていた。
夜通し仁美の声を聞いて、私はずっと泣いていた。
朝になって、私は父と母に通話を試みる。
しかしやはり繋がらない。
少し前から、メッセージに既読すらつかなくなっていた。
今朝、仁美は私の家には来なかった。
連絡も入ってない。
恐らく、死んだ枢木みくりがまだ仁美の事を抑え込んでくれているのだろう。
「みくりさん、本当にごめんなさい。仁美、ごめんね。私、もう逃げないから」
私は仁美の屋敷へと向かった。
きっとここが仁美にとっての世界の中心だ。
今考えると、妖魔となった仁美は決して自分の屋敷では遊ぼうとしなかった。
たぶんここには、私に見られたら不都合なものがたくさん詰まっているのだろう。
でも今、仁美はここで私を待っている。
そんな気がした。
私は意を決して、仁美の屋敷へと入った。
中はどんよりと重苦しい鉛のような空気が立ち込めている。
よどんだ空気に体調が悪くなりそうだった。
嗅いだことなんかないが、それが死臭なのは見当がついた。
「仁美? ここにいるの?」
声をかけてみるが、何も帰ってこない。
彼女は今いったいどこにいるのだろうか?
とりあえず私は屋敷の中を探索することにした。
やがて見つけたのは、地下へと続く階段だった。
こんなものがあるなんて。
私は驚きつつも、地下へと降りることにした。
そこは仁美が私に見せたイリュージョンの世界と同じ、子供を楽しませるアトラクションのような景色が広がっていた。
私は正直驚きを隠せないでいた。
こんなものが仁美の住んでたお屋敷の地下にあっただなんて。
私はそのアトラクションの中を歩く。
やがて、たくさんのぬいぐるみに紛れて、”彼女”がいた。
「あ、あ、ああ…………!」
枢木みくりの死体が、ぬいぐるみに混ざって転がっていたのだ。
「みくりさん、あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
覚悟はしていたはずだった。
だがそれでも叫ばずにはいられなかった。
「ああ! あ、あ、はぁ……はぁ……はぁ……う……かはっ……!」
死体を前にして、私はたまらず吐いてしまった。
「あ、あぁ……」
意味をなさない声ばかりが口から出続けた。
「蓼原家はね、魔女の家系だったんだって」
「――――ッ!」
仁美の声が耳に入り、まるで脳に冷水でも浴びせられたように私は正気を取り戻す。
仁美はみくりと対面するような場所に、私をあやしてくれたオモチャのガラガラを、ぼんやりと振って透明な音を鳴らしていた。
「みくねぇが言ってたんだ。蓼原家には魔女の血が流れてる。そして私の身体に流れる魔女の血はとても強いものだって。だからきっと、いつかその才能が花開く時が来るって。私は死んじゃったわけだけど、でも、そのおかげでこんなことができるようになれた。一花ちゃんとやり直すの。もう変な夢を見たりなんかしないの。私には、一花ちゃんがいればいい。一花ちゃんが私に声を聞かせてくれるだけで、私は幸せ。一花ちゃん、私は死んでなんかいない。まだこの世から離れない、終わりたくない」
「…………私もそう思う。あなたは間違いなく仁美、私の親友。一緒に過ごしてて、あなたは蓼原仁美だと思った。私に対してちょっとこだわりの強すぎる愛情を向けてくるところも含めて。だから生きてるか死んでるかなんてどうでもいい。私は、蓼原仁美と繋がって、心を通わせたいの」
「一花ちゃん?」
仁美、あなたが恨んでいるのは――、
「あなたが恨んでいるのは、私じゃなかった。私の、お父さんだった――! 私のお父さんが、仁美のお母さんと不倫してただなんて――」
「……………………」
仁美は一瞬固まり、そして諦めたようにため息をついた。
「はあ、みくねぇもおしゃべりだなぁ……」
「仁美、どうして私に教えてくれなかったの? 私は本当のことが知りたい。私みたいな自己中な人間が、仁美にこんなこと言う資格ないかもしれないけど。でも、それでも私、やっぱり仁美に向き合いたい。仁美の本当の苦しみを知りたいの」
「……………………」
仁美は何かを考えるように黙り込んでいた。そして――、
「一花ちゃん。一花ちゃんはなんだかんだ言って、お父さんの事を尊敬してたし、好きだったでしょ? それでもホントに知りたいの?」
「…………うん」
仁美はしばらく黙り込んでいたが。
「これは、私がお母さんから聞かされた話ね……」
当時、私のパパとママは、同じ大手の広告代理会社で働いていた。
一花ちゃんのお父さんは銀行から出向してきて、私のパパの上司になったのだ。
そして一花ちゃんのお父さんは、私のママと不倫。
パパがそれを知った時、パパはママの事も一花ちゃんのお父さんの事も許したんだけど、
一花ちゃんのお父さん、なにか私のパパに会社で不祥事の濡れ衣を着せて追い出したんだって。
大人の事情なんか知らないけど、不倫がスキャンダルとして銀行に知れ渡って、出世に響くのがイヤだったんだろうね。
そして私のママもそんなパパを捨てた。
徹底的に追い詰められたパパは心の病気になっちゃって、一人でいるときに火事を起こして焼身自殺。
私のママは世間体が悪くなって、私をおばあちゃんに押し付けて逃げたの。
私はおばあちゃんの家で、お父さんが遺してくれたお金で生活していた。
パパは高額な保険に入ってたらしくて、受取人を自分の母であるおばあちゃんにしていた。
パパはおばあちゃんに「もしも仁美に何かあったらよろしく頼む」ってお願いしてたんだって。
そのおかげで、私は私立の高校に入れるくらいのお金の余裕ができた。
そのおかげで、私は一花ちゃんと出会えた。