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何かがおかしい。
そうなにかがおかしいのだ。主に400年前から、言いようのない違和感があった。でもそれがなんなのか分からないまま、国作りに追われた。
どうしてこんな面倒な国を作ろうと思ったのか。人間と人外が安心して暮らせる場所に、なんの意味があるのか。自分でも不思議だった。
何かが足りない。
でも何が?
絆を結んでも、退屈で、何も変わらない。
シルヴィア・ローレンを最初に見たのは偶然で、ふと目に止まった程度。最初はその程度だった──はずだ。
***
フォルトゥナ聖王国は、他国との貿易を一切しない閉じた国と言うよりも【古き女神たちの狂った箱庭】、あるいは【壊れかけの歌劇場】とも呼ばれている。
百か二百年単位である事件が起こり、そのたびに国が滅びるまでが物語の流れだ。その配役は生まれた瞬間に、三女神が神託として授けることで舞台装置が起動し、破滅の結末に向かって物語は進む。
稀に過程が異なる場合もままあるが、大抵は【悪役令嬢】という役どころの公爵令嬢シルヴィア・ローレンが断罪されることによって、公爵家がお取り潰しになる。
この辺りは元は【花嫁】や設定などが異なっていたが、時代の移り変わりに沿って【悪役令嬢】と固定された。
(まあ、過程が多少変わる程度だが……)
その後は政務に大きな問題が生じるも、次期国王と王妃は贅沢三昧。民衆に重税を重ねた結果、国家転覆によって滅びる。
(まあ、この国を支えているのは、あの公爵家だからな。どの年代でも公爵家となる一族は、有能であり忠義に堅かった。それを切り捨てたのだから、滅亡は当然の帰結だ。そして滅んだ後に生き残った者たちの記憶を操作して、同じことを繰り返す。いつ見ても胸糞な国だ)
三女神は舞台を作ることで、人間の感情を吸い取り力とする。愛憎渦巻く展開などが好みで、ハッキリいって趣味が悪い。
そんなことを思いながら面倒ながらも、魔物狩りのため地下迷宮に潜り込む。魔人でありながら、大手商業ギルドを持つウエルナからの頼みだったのもあるし、魔王としても魔物の間引きは仕事の一環でもあった。
(ウエルナの奴、珍しい依頼を出したな。まあ、それで季節神の定着に協力するのなら楽な仕事だが……、同行できそうな聖女候補がいないのはつまらない)
魔王などと呼ばれているが、単に千年前の悪夢に生き残っただけ。種族の中で俺だけが耐性があったから、俺は魔王となった。夜月羊族の祖は邪神であり、魔物の調整するのが一族の役割でもあった。
戦闘面というより魔物の凶暴化を抑えると言う部分が強い。俺以外にも死の王なんかが同じ神からの派生となる。
黒い砂漠の上に独りだけで、家族もたくさんの兄弟も、友人も同族も失った。
独りだ。
386
#長編
孤独で、ポッカリと心に穴があいた。けれどそんなこと誰も彼もどうでも良いとばかりに役割が押し寄せる。
そうやって生きてきた。悲しいとか、寂しいなどの感情も風化して、埋もれて消えた。それなのに、時々、胸が軋む。
いつからだ?
『魔王様、魔物の間引きでしたら我らが相当して参りますが……』
影に潜む配下の声に立ち止まる。
「いやいい。気晴らしに身体を動かしたい。それに三女神も俺が出張るなら、と一時的に結界を緩めたんだ。さっさと終わらせてしまおう」
『承知しました』
***
第一階層の地下迷宮の洞窟内は、昼間のように明るい。これは洞窟の土そのものが発行し、光っているからだ。階層によって天井の高さは異なり、洞窟内であっても太陽に似た光を放つ魔石の影響で、草原や森などがある。
この地下迷宮も、元々は女神たちが力を入れて、作り上げた舞台装置の一つだった。魔物と冒険者との物語が一時期流行ったらしいが、すぐに飽きてこちらは形だけが残った異物となっている。その中で失われた魔術やら魔法があったのだろう。
(まあ、あの壊れかけの女神たちも魔物の制御が、追いつかなくなってきたんだろうな。魔物……魔獣……言い回しは数あれど呼び名がいくつかある程度。まあ尤も後数回で、この国にかけた呪いと祝福の均衡が砕け落ちる)
当初、女神たちが望んだのは持たざる少女が幸福に至る物語。何十、何百と繰り返すことで本来なら幸福で結び終わるはずだった物語が歪んだ。
都合の良すぎる展開、女神に愛された少女の幸福に偏った祝福は、呪いの圧倒的な質量に対して、天秤が傾いたまま繰り返された。
たった一人の幸福によって、大量の死と嘆きを積み上げる。
それは蠱毒にも似た――悍ましい箱庭の国。
(途中で誰かが介入して均衡を崩したのかもな。たった一人の幸福だけに重きを置くことで、失墜していく駒たちが呪いを芽吹かせていく。……二百年前にリュシアンたちが仕掛けた毒に似ているな)
忌々しい事件だったと思ったところで、四百年前のことが脳裏を掠めた。珍しく賭けに大負けしたことも思い出す。
ちょうど箱庭の運用が軌道に乗った頃で、身に覚えのない物や、今までの趣味にない菓子の手配をしていて、対処に追われる羽目になったと苦々しい記憶ばかりだ。
(今更……)
思えばあの頃あたりから、ベルナールが声をかけてくることが増えて、さして親しくもなかったはずなのに配下などを手配して箱庭を支援する姿勢に当時は驚いた。
(一度だけなぜそんなお節介をするのか聞いたが、よくわからない返答だったな)
『ここに居れば……いつか僕に会っても、滅びない人間に会えるだろうから』
予言者のような口調でハッキリと告げたベルナールは、そう微笑んだ。それは己の宝物を見つけたという顔をしていて、何だか胸がざわついた。
理由が分からずに苛立ちがましたが、ふと魔物の気配に気づく。
魔物、魔獣は常に災いしか落とさない駆除対象だ。増えすぎれば、大きな厄災の火種となりかねない。その為にも発生したら刈り取るのが、この世界の理であり、均衡を保つためには必要不可欠なこと。
(この国がもう少しまともに機能していた時は、冒険者に対処させていたが……。やはり壊れかけの国で、その配役を用意するのは難しいか。……ん?)