テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
『は? お前、何言ってんの。……きもちわるい』
そして、彼の告白を拒絶したあの日が、全ての終わり。
断崖絶壁、自分から飛び降りたんだ。彼の好意を踏みにじって、自分の唯一の個性を殺した。
『待って! 違うんだ、そんなつもりじゃ……っ』
そんなつもりじゃなかった。もっと、こう、「冗談やめろよ」って感じで笑い飛ばしたかったんだ。それがどれだけ愚かな事だったか、彼の絶望した表情を見てやっと気付いた。
彼だってこうなる可能性を危惧したはず。その上で、勇気を振り絞って俺に告白してくれたんだ。
それなのに俺は─────。
地面を蹴って、声を張り上げる。景色がことごとく移っていくそのさまは、画質の悪いビデオを見ているようだった。
『きもちわるい』。それを聞いた彼は一目散に走り去った。その後を追いかけるのは、馬鹿な中学生の自分。
短距離のタイムなら彼に負けたことなんてないのに、あのときは何故か追いつけなかった。あのときだけは彼が速すぎて、俺が遅すぎたんだろう。絶対的に埋まらない差ができてしまっていた。
やがて大勢の人が行き交う十字路に着いた。もう息が上がって呼吸するのも辛い。彼の体力に脱帽しながら足だけ前に出す。
もう走れない。でも走らなきゃいけない。彼をひとりにさせないように走った。
信号は青。人影を縫いながら、彼は白線を飛び越えた。
十時十分、あの中央へ飛び込んだ。
『あれ……っ』
そのときに俺の時間も止まった。
どれだけ捜しても彼の姿はなく、信号が点滅するまで立ち尽くしていたのは自分だけ。
その日、呆然としながら家に帰った。電話やメールをたくさん送った。だけど反応が返ってくることはなくて、画面を眺めたまま夜が明ける。
それから、彼が学校に来ることは二度となかった。
家に行っても誰もいなくて、彼と会えないまま時間だけが過ぎていく。教室にひとつの空席を残し、卒業式も終わった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!