From.冬弥
彰人が彼女と別れたらしい。相当落ち込んでいた。そんな顔をしないでほしい。嫉妬で頭がおかしくなりそうだ。
彰人にそんな顔をさせるほど、愛されていたアイツ。憎らしい。
アイツと別れたなら、彰人はこれから俺だけを見てくれるだろう。
プルルルル、プルルルル
電話が鳴った。彰人だろうか?
『もしもし、冬弥か?』
「司先輩?珍しいですね。どうかしましたか?」
電話の主は俺の尊敬する先輩だった。
『彰人から、もう聞いたか?アイツ、彼女と別れたんだと。』
「ええ、今日聞きました。相当、落ち込んでるようで…」
俺は怒りを抑え、言葉を慎重に選びながら答える。司先輩には知られてはいけない。俺の心の内にある、黒い感情を。
『彰人が彼女にフラれた原因、心当たりないか?』
なぜ、司先輩はそんな事聞くんだろう。そんな事、俺が知るわけないのに。
「心当たりですか…?全く…というか、彼女と話をした事もないので…。」
『……』
先輩は何か考えているようだった。
『…すまない。思い過ごしだったようだ。忘れてくれ。』
「そうですか?分かりました。」
『冬弥、間違えるなよ。』
プツッ
電話はそこで切れた。本当に何だったんだ…?先輩は、何を思い過ごしていたんだろうか。
まぁ、俺には関係ないな。
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From.類
司くんが電話を掛けていた。
誰かを聞いても教えてくれなかった。ただ、確かめたいことがあるから、とだけ言ってベランダへ出てしまった。
少しだけ聞こえた電話の相手。あれは男の声だ。
もう、司くんたら他の男ばっかり!
僕はこんなに怖い思いしてるのに…司くんたら、僕のことはどうでもいいの?
僕がストーカーに悩んでるって言ったから、告白して同棲までしてくれたんでしょ?
僕が今までしてきた事、何も間違ってないでしょ?
司くんを誰よりも好きなのも、君が誰よりも好きなのも、僕でしょ?
なのに君は、他の男のところへ行く。なんて悪い人。僕を弄んでるの?
司くんの気を引くために、今度は自傷でもしてみようかな。病んでるフリでもすれば、司くんはもっと僕に優しくなるかもしれない。
そうだよ。邪魔なものは消せばいい。彼の瞳に、僕だけが映るようにすればいい。
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From.司
冬弥の事が心配だった。いや、彰人だろうか。とにかく、冬弥は感情の起伏が激しく、制御できない時がある。そこが心配だ……。
一応、冬弥に警告をしておいたが伝わっただろうか。本当に、間違えないでほしい。
頭が痛い。それに、何だかクラクラする。気にかける事が多すぎて、頭がパンクしそうだ。類のストーカーも心配だ。彰人と冬弥も心配だ。咲希は元気だろうか…。
頭が痛い。割れるように痛い。とりあえず、部屋へ戻ろう。外はまだ寒い。
部屋に1歩踏み入れて、俺は軽く絶叫した。
そこには、血だらけになった床と、ナイフ。その真ん中に類が横たわっていた。
「類?!どうした?!大丈夫か!!?」
「ん……司くん?」
意識はあるようだ。見ると、手首から異様に出血している。
「ごめんね、軽い貧血で、起き上がれないんだ。」
ストーカー被害もあって怖い思いをしたんだ。病んでしまうのも、仕方がないだろう。自傷行為するほど、類は辛いのか。
「大丈夫か…類?!今、止血するから…」
夥しい血の量に、俺は少し吐き気を覚えた。
「ごめん、司くん。床、汚しちゃった。」
「そんなん気にするな!今はお前の方が大切だ!」
類は少し満足そうに微笑んだ。
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From.彰人
冬弥に告白した。
俺の寂しさを埋めてくれって。
そしたらアイツ、優しいから、優しく俺を抱きしめて「一生愛す。」って言ってくれたんだよ。
すげぇ恥ずかしい台詞だけど、冬弥は真剣だった。俺、冬弥と出会えて良かったって、心から思ったんだ。
彼女と別れたのは、まだ忘れられない。彼女と過ごした日も、忘れたくない。全部全部、大事にしまっておきたい。
けどさ、付き合ってから冬弥がちょっと変なんだよ。
冬弥以外と話すのも駄目。連絡先も冬弥と家族以外は全部消す。バイトも禁止。1人で外出するのも禁止。
これが普通なのか?元々、冬弥は束縛をするタイプだったんだろうか。まあ、今のところ気にならないけど…。
こっそり、司先輩に連絡してみた。最近冬弥と付き合ったことや、少しおかしい事。
司先輩は、「やっぱりか…」って言ってた。「彰人は嫌じゃないのか?」とか聞いてきたから、今のところ嫌ではないですって言ったら、「彰人がいいならいいんだ。だが、少しでも嫌だったらまた相談してくれ。」って言ってくれた。先輩は本当にいい人だ。
そういえば、神代先輩のストーカーはどうなったんだろう。被害は収まったんだろうか。心配だ。
俺は手錠が付いた腕を見る。固く閉ざされた薄暗い部屋の中で、俺は冬弥が来るのを待った。
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コメント
8件
これぞまさに「狂愛」ですな()
私の生きる希望が一つ増えた🤦♀