世界の終わりって、こんなにもあっさり来るんだな。
幸運なんてものじゃ表しきれない、俺が生き残った事実は、自分の首を絞めるのには十分すぎた。
孤独と言うか、地獄の入り口と言うか。
そんな世界でも、俺は「生きていた証」を証明するように、これを記録している。
初めに、この出来事が起こった時は、電撃と同等くらいの恐怖が体中を血液に乗って駆け巡った。
あちこちで燃え上がる炎、その煙の向こうに、世界の破壊者はいた。
そいつは、いくら俺らが頑張ろうと、あの魔王でさえも、一瞬にしてバラバラにした。
全員、環境音に負けないように声を張って報告していたが、人間の体は消耗品なもので、潰れてしまってからは言葉が列を成さなくなっていた。
この環境に耐えられず、自殺したものもいた。
世界の破壊者とは距離がだいぶ離れていたが、既に俺らの心の中のすぐそこにいた。
「ごめんね」とだけ呟いて前哨基地の旗に火をつけ、自分の愛するものと一緒に無謀な戦いを仕掛けに行く各々。
全員、こんな状況だからか、冷静な判断をできていない。
「どうかしてるよ。」
唯一、俺の隣にいたsellyさんだけが、冷静にそう俺に囁いた。
未来永劫、誰もが救われる場所があったなら。
誰もがそう願って作った、唯一の舟は、数名が乗り込んだ後、無残にも爆散した。
世界の破壊者が、黒い星が…
彼らを見ていた。
目くらましのために放つ光が目に刺さる。
別れを告げて食い止めるために無謀にも走り出す。
神が敷いた線路の上を歩いた結果は、苦くて酸っぱい味がした。
死んだ世界で繰り返す、間違いが作り上げた結果。
誰かのような、澄んだ瞳をしたこの星に、俺は問いかける。
…答えなんて、あるはずないのに。
逃げ惑い始めて数日。
勇敢にも散った人々への悲しみの涙は、蒸発してじきに塩へと変わる。
そんなことがもう為されている時だった。
…感情にも、値踏みがされる少し前。
今、逃げるために敵に背を向けたとしても、鮮明に聞こえた悲鳴が何回もフラッシュバックする。
「幸福を手放すことが美学である」
そう気づいたとある人は血の海を泳ぐように死骸を漁って食べ物を獲得していた。
自分の身を守るために潜ったそいつからは血の匂いが絶えなかった。
とある日、世界の破壊者が…俺にヘイトを向けた。
じきに終わる命だが、必死になって逃げた先にもあるのは絶望だった。
殺されると思ったその瞬間、自分の頬にかかる液体。
目を開けた先には虫の息でも仲間を守ろうとするsellyさんがいた。
俺は何も言えず、ただその場で固まる。
そんな時、sellyさんは俺に一言放つ。
「仲間は…やっぱ…救わなきゃね…。」
俺はその言葉で目が覚め、sellyさんに心の中で何度も謝りながら、走って逃げた。
そんな死んだ世界で俺が録った、一つの記録が、これだ。
どれだけ辛くなって泣いた人でも、結局は血の海に帰る。
死にたくない、とかいう世迷言が俺の頭の中にへばりついて離れなかった。
空を悠々と飛ぶ燕の跡を辿るように、煙が空を覆っていく。
自分がここまで生きたという作った名誉で、「明日も来る」と信じ込む。
まるで、何かの宗教みたいに。
薄汚れた希望で、俺の手は染まっていた。
あの人の…同じチームの…うるかの瞳をした、この地球に、救いを問いかけた。
手を取り合い、愛し合えていた。
そんな過去がもう一度来るという叶わない願いを炎と共に焼き払う。
考えに考え、限界を超えてもなお考え続け、死んだ思考の成れの果て。
その結果が、感情論だった。
こんなの現実じゃない、耐えられない。
俺の本心がそれだった。
俺の喉も、体も、動き回れるほど元気じゃない。
やっと列を成せているくらいだが、じきにそれも無理になる。
これが自殺した人の心象。
安楽の場が用意されているような幻覚が、黒い三日月と共にあった。
遠くで何かの動く音が聞こえてきた。
じきに俺も死ぬだろう。
すぐそこまで世界の破壊者が来ている。
その前に、この記録を残そう。
どうか、まだ生きている人へ、これが、届き、ます、ように………
「…ぽっぽ?」
〈クレジット〉
使用曲:熱異常 いよわ 様
※ご本人様方とは一切関係ありません。