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「ふたり目も同い年の男の子。仮の名を鈴木(すずき)くんにするね。鈴木くんとは高校卒業後にとある趣味の集まりで一緒だったの」
趣味の集まりとは大学の登山部だ。父親の睦洋が登山を好きでいて、家族で何度か登山したことがあるのをきっかけに入部した。登山部での活動はエジプト考古学の次に月呼が大学生活でがんばったことだ。
鈴木の本当の名前は本間勇致(ほんまゆうち)。細身で肌が明るく、女性に好まれそうなあっさりとした顔立ちをしていた。
「鈴木くんはだれにたいしても優しくて、佐藤くんとの一件で男の子と関わるのが苦手になっていた私としても話しやすかった。こっちがなにを話してもにこにことした顔で聞いてくれていてね。私の別の趣味も肯定してくれて。その趣味って同世代だと少数派だったから、それがすごくうれしくて」
過去を振り返ってみると、自分は自分の話をちゃんと聞いてくれる人が好きなのだと、月呼は気がつく。
「表面上はただの同期をよそおっていたけれど、私は彼のことをひそかに思っていたんだ。ある日、飲み会の帰りで彼とふたりきりになったの。そうしたら『棚原は俺のことが好き?』って聞かれたんだ。私は自分の気持ちを気づかれていたのかなって、どきっとして」
侑加はほとんどしゃべらないが、月呼の話にしっかりと耳を傾けているのは月呼自身にも伝わっていた。
「私は『鈴木くん、のみすぎだよ』って言ってはぐらかしたんだよね。それでも、佐藤くんは『棚原がいいなら、寝てもいいよ』って」
高校時代の恋愛とは違って大人のムードがただよう話。月呼は自分から言い出しておいて、話しづらくなる。
「あっ、寝るっていうのは、同じ布団で眠るという意味じゃなくて、男女の関係になるという意味ね」
「うん」
「……」
侑加が解釈を間違えそうだから説明したというのに、ちゃんと理解しているのなら、わざわざ言葉にしなければよかった。月呼は墓穴を掘る。
「鈴木君は私の手を取って、ラ、ラ――」
「ラ?」
ここまで言えばわかるだろうに、侑加はその後になにが続くのか本気でわかっていないようだ。催促すらにも感じる侑加の態度は、月呼を余計に気まずくさせた。
「ラブホテルに連れていかれそうになって――私は鈴木くんの手をふりはらって、逃げたんだ」
「……」
侑加は最後まで聞いてもばつが悪そうにもしていない。侑加には人間味を感じない部分があるけれど、それなりに女性経験があるのだろうな、と月呼は感じる。
「家に帰ると、好きな人の誘いに乗らなかったことに、ちょっぴりと後悔があったの。まわりはすでに経験している人だらけだったからね。そういうことは中高生くらいで経験するのが当たり前で、二十歳そこらなら早く経験すべきという風潮もあったし」
二歳年上の女性のこんな話を侑加はどう思っているのか。言わなくていいことまでしゃべっている自覚はあった。けれども、胸の内に秘めていた出来事を話せたことに後悔はなく、心はすっきりとしている。
「その後知ったんだけれど、鈴木くんは他の女子も似たような手口で誘っていたらしいの。それで、半分以上がその誘いに乗ったんだって。同期だけじゃなくて、先輩も後輩も。私はだれにでもそういうことをする人だって知ったら、気持ちがすーっとひいちゃった。あの時、逃げてよかったって。まさかそこまでの女好きだったとは。人当たりがよくて爽やかな男の子だったんだけれど、人ってわからないものだね」
「……」
侑加は口を閉ざしている。月呼はそれでよかった。昔好きだった男たちをここで否定してほしいわけでもなかったからだ。それは過去の自分の思いや選択を否定されることにもなる。それにたとえ恋が悲しい結末だったとしても、そこで得たものもあって、すべてが悪い思い出というわけではない。
「苦い経験を二度もすると、人を好きになることに臆病になるね」
そのセリフは侑加を安心させるためにというより、簡単には恋に落ちないよう自分に言い聞かせるために言っていた。実際には目の前の侑加には興味しかないのだが。
月呼が一方的に話しているうちに、午後三時半となる。バールバラによる集合の合図とともに、参加者たちは洋館の前へと向かった。月呼たちも向かう。侑加が離そうとしないので、手は繋いだままだ。
「……前沙さんが佐藤か鈴木かとつき合っていたら、ここにはいなかったわけだ」
侑加がしゃべる。彼からその話に触れるとは意外だった。
「今でもうまくいっているとは限らないけれどね。すぐに別れていたりして」
「今、俺のとなりにいるのが前沙さんじゃないと想像すると――」
「……」
月呼は言葉がでてこない。侑加の言葉は途中で終わっている。ただ、侑加はパートナーが月呼でないと嫌だったと言いたかったとしか思えない。
たちまち月呼の胸が熱くなる。これは夢にたいする情熱とはまた違う。人からでないと、恋愛対象からでないと感じられないぬくもりだ。侑加は情で心があたたかくなるこのうれしさを知らないのだろうか。
幸せと不幸せはとなり合わせだ。これまでの辛い恋もこうして侑加と出会うための布石だったのかもしれない、と思うと、月呼は笑顔になった。
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コメント
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第12話読みました〜🤍🥀 月呼の過去の恋愛、どっちも切なくて……でも「今、俺のとなりにいるのが前沙さんじゃないと想像すると――」の侑加の言葉、すごく響いた。あの途中で止まる言い方に、むしろ本心が詰まってる気がして胸が熱くなったよ。辛い恋の布石が今のぬくもりに繋がるって考え方、好きだなあ。