私たちは引き続き『循環の迷宮』を探索していた。
襲ってくる魔物は魔狼ばかりで、ルークが出会う端から瞬殺していく。リーゼさんの出番はまだ無い状態だった。
「……ルークさんは強いね。私の出番が無いよ」
「これくらいは任せてください」
ルークは事もなしに言う。なんとも心強い限りだ。
「まだ1階ですしね。
リーゼさんには力を温存してもらって、ルークが疲れてきたら交代してもらうことにしましょう」
「それじゃ、しばらくは楽をさせてもらおうかな」
魔狼が倒れて消えた場所を見ると、そこには小さな石が残っていた。
鑑定をすると、やっぱり小石。うーん、何か良いものを落としてくれるとテンションが上がるんだけど……。
「……あ!
アイナさん、あそこに宝箱があるよ」
リーゼさんの指差した方向を見ると、壁の少しへこんだところに宝箱が置かれていた。
……置かれたのかな? 落ちているのかな? ……置かれた、でいいか。
「おおー! 初宝箱ですね!」
「宝箱には罠が仕掛けられている場合がありますので、注意してください!」
私が宝箱に近付くと、エミリアさんが教えてくれた。
「罠、ですか?
もしかして、鑑定スキルで罠の種類とかは分かるのかな?」
ひとまず、かんてーっ。
──────────────────
【宝箱の罠】
毒矢(内部)
──────────────────
「おお、罠も鑑定スキルで分かるんですね。
えぇっと……開けると毒矢が撃たれるみたいです。これは1階からえげつない」
「ダンジョン側からすると、1階から狩場ですからね……」
……確かに。
ダンジョンも慈善事業じゃないから、獲物を狩れそうなところにはどんどん仕込まないといけないもんね。
「さて、それじゃどうする?
開けるのにリスクがある以上、開けないで放っておくっていうのも方針としては有りだけど」
「アイナ様なら、宝箱の中身も鑑定スキルで分かってしまうんじゃないですか?」
リーゼさんの言葉を受けて、ルークが元も子も無いことを言い始めた。
確かに広い岩場とかでアイテム探しをしたり、空中の疫病を調べたりとかもしたけど……宝箱は開けるのが浪漫なんじゃないかな!?
「うーん、まぁ鑑定は出来ちゃうんだろうけど……。
でも私は、開けるときのドキドキ感をみんなで共有したい!」
「私の鑑定スキルだと、レベルの関係で中身までは分からないからね。
でも何となく、アイナさんの気持ちは分かるよ」
「リーゼさんにそう言って頂けると心強いです!
さて、それじゃどうにかして開けてみたいところですが……」
「それでは、私が開けましょう。
なに、毒矢が撃たれたら何とか避けてみせますよ」
宝箱を開ける役にはルークが名乗りを上げた。
罠に真正面からぶち当たっていくのは、何とも無駄に漢らしい。
「……でもさ?
中から毒矢が撃たれるって分かってるなら、宝箱の後ろ側から開ければ良いんじゃない?」
「……!」
「なるほど……。では後ろに回り込んで、ぱかっとな」
ヒュッ! ――ズガッ!
エミリアさんが宝箱を後ろから開けると、中から矢が勢いよく飛び出して、弧を描いて地面に突き刺さった。
「……本当ですね、上手くいきました」
「それにしてもエミリアさん、さっさと開けちゃうなんて……行動力が凄いですね」
名乗りを上げていたルークは少しばつが悪そうだったが、エミリアさんは嬉しそうだ。
「えへへ♪ 昔から一度、宝箱って開けてみたかったんですよ。
さてさて、中身は何でしょう!」
「これは……指輪、ですね? 早速かんてーっ」
──────────────────
【エメラルドリング】
エメラルドがあしらわれた指輪
──────────────────
「特にステータスや効果は無いから、これは換金用だね」
「なるほど。
せっかくのダンジョンだから、私はお金よりも特別なものが欲しいですけど……」
「気持ちは分かるけど、換金用のものがあれば探索の費用に充てられるからね。
……えぇっと、手に入れたものはアイナさんに管理してもらう形で良いのかな?」
「はい、こういうのはお任せください!」
戦闘は役立たずだからね! こういうところで活躍しないと!
「とりあえず、まずは1つ目ですね。どんどん集めていきましょー♪」
エミリアさんが意気揚々と言ったあと、私たちは再び探索に戻った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――宝箱、2つ目です!」
1時間ほど探索を続けると、今度はエミリアさんが宝箱を見つけた。
「やりましたね! それじゃ罠を調べてみますか。かんてーっ」
──────────────────
【宝箱の罠】
毒矢(外部)
──────────────────
「むむ。また毒矢ではありますが、今度は宝箱の外から撃たれるっぽいです」
「それだと、宝箱の後ろから開けても撃たれちゃうかもしれませんね」
「ぱっと見では、矢が仕掛けられているのは見えないけど……どこから来るんだろう?
……今回は私が、矢で開けちゃおうか?」
「え? リーゼさん、そんなことができるんですか?」
「宝箱のフタを開けるだけでしょ?」
そう言うと、リーゼさんは3本の矢を小気味よく連続で撃ち放ち、少し離れたところから宝箱を開けることに成功した。
ヒュッ! ――ズガッ!
その瞬間、どこかからともなく毒矢が飛んできて、宝箱の前の地面に突き立った。
「……なるほど。
普通に開けようとすると、こんな感じでやられるんですね……」
「これは避けるのが難しそうですね……」
「私の反射神経でも、少しギリギリかもしれません」
ルークが少し世界観の違うことを言っているが、いやむしろこれって反射神経で反応できるレベルなの?
私からすれば、どう考えても人間離れした話に聞こえてしまう。
「……さて、この宝箱には何が入っているのかな?」
宝箱の中を見てみると、そこには綺麗に装飾された短剣が入っていた。
「今度は武器か。うん、なかなか素敵な感じじゃない?」
リーゼさんが覘き込みながら言う。
「どういう逸品なんでしょう? かんてーっ」
──────────────────
【ジュエルダガー】
宝石で装飾された美しい短剣
──────────────────
「んー、これも換金用かぁ」
「特殊効果が付いていそうな雰囲気はするんですけどね……」
「やっぱり1階だから、凄いのはそんなに出ないんでしょうか」
「確かに下の階に行くほど貴重なものが出るっていう話だし、上の階はお金稼ぎとして割り切った方が良いかもね」
「なるほど……。
そうなってくると、できるだけ早く下の階に行きたくなりますね……」
そんな思いを抱きながら、私たちは再び探索に戻った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――おっと、下への階段か」
ダンジョンを進んでいくと、下の階に向かう大きな石造りの階段を見つけた。
階段の周りには、いくつかの冒険者のパーティが野営の準備をしている。
「ダンジョンの中だと分かりにくいですけど、もう日も暮れた頃ですよね?」
「えぇっと……そうですね、今は19時頃です」
エミリアさんが手元で、光の文字を宙に映しながら言った。
「あれ? エミリアさん、それは何ですか?」
「これですか? 時計の魔法です。時間が分かるんですよ」
「初めて見ました……! 便利な魔法があるんですね」
「外にいるときは陽の高さで時間は分かりますが、ダンジョンや洞窟の中では分かりませんからね」
確かにこの世界、置時計はあるけど腕時計は無いからね。
だからそれを補う魔法も生まれてくるのは当然のことだろう。
……ちなみにその魔法、私も覚えてみたいなぁ。
「さて、それでは私たちもここで一晩過ごしましょうか。
野営の準備をしましょう!」
「分かりました」
「はぁい」
「では、もうひと働きしますか……」
……ひとまず、今日の探索はここまで。
明日の探索を頑張るために、今晩はゆっくり休んで英気を養うことにしよう。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!