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チャンスは、生まれた時から全部持っていた。
金。
コネ。
豪邸。
高級カジノを経営する両親。
けれど、その全部が――檻だった。
彼が少しでも危険な場所へ踏み込めば、すぐに実家の監視網が動く。
闇市場へ行けば口座が凍結される。
裏カジノへ出入りすればGPSを埋め込まれる。
命懸けの遊びを始めれば、黒塗りの高級車が迎えに来る。
そして今回。
とうとうチャンスは、実家の邸宅へ“回収”された。
外周は私設警備で完全封鎖。
通信は遮断。
逃走経路もなし。
まるで富豪仕様の監獄だった。
「……最悪だな」
隠れ家でiTrappedが吐き捨てる。
氷の王冠から苛立った冷気が漏れ、空気がパキパキ鳴った。
「せっかく使える駒だったのに」
彼の目的は変わらない。
Banlands。
Ellernate。
Caleb244。
そのためには、チャンスのコネと財力が必要だった。
なのに当の本人が実家へ閉じ込められてしまった。
このままじゃ全部止まる。
だからiTrappedは、最悪の選択をした。
――敵に会いに行った。
深夜。
ソネリーノファミリーの本拠地。
高級カジノ最上階。
重厚なマホガニーの机の奥で、マフィオソが葉巻を揺らしていた。
黒いフェドラ帽。
縞模様のネクタイ。
スーツのポケットで揺れる金時計のチェーン。
裏社会の王そのものだった。
「……ほう」
低い声。
「氷の王冠の脱獄囚が、わざわざ俺の縄張りへ来るとはな」
マフィオソは椅子へ深く腰掛けたまま笑う。
「お前が、チャンスにまとわりついてるペテン師か」
iTrappedは平然としていた。
青いシャツの襟を軽く整える。
「単刀直入に言うよ」
彼は笑った。
「君のお気に入りのギャンブラー、今は実家の地下で飼われてる」
空気が変わる。
マフィオソの目が細くなった。
「……何?」
「親に捕まったんだ。完全監禁」
iTrappedは肩を竦める。
「このままじゃ、君が取り返したがってる“賞品”も永遠に金庫行きだ」
その瞬間。
マフィオソの額に青筋が浮いた。
「あのクソガキ……」
葉巻を灰皿へ押し潰す。
「俺のカジノ荒らして逃げ回る根性はあるくせに、親には捕まるのか」
苛立った声。
「笑わせるな」
iTrappedは静かに微笑んだ。
「だから提案に来た」
氷の王冠が淡く光る。
「君のファミリーで、派手な“襲撃イベント”を起こしてほしい」
「……ほう?」
「実家周辺を大混乱にするんだ」
iTrappedの目が細くなる。
「アイツは退屈が嫌いだからね。刺激があれば、絶対に飛び出してくる」
数秒の沈黙。
そのあと――
マフィオソが爆笑した。
「ハハハハハッ!!」
机を叩く。
「最高だな!」
完全に楽しんでいた。
「泥棒小僧を檻から引きずり出すために、敵同士で共闘しろってか!」
彼は立ち上がる。
金時計のチェーンが揺れた。
「いいだろう!」
すぐに電話を掴む。
「おい野郎ども!」
怒鳴り声。
「チャンスの実家周辺へ全部隊回せ!」
部下たちが慌ただしく動き出す。
「爆破予告! 威嚇射撃! 花火でも何でもいい!」
ニヤリと笑う。
「八百長ショーなら俺の専門分野だ!」
iTrappedも薄く笑った。
「火薬は多めで頼むよ」
冷たい声。
「退屈な檻を壊すには、それくらい派手じゃないと」
その笑顔に感情はない。
ただ利用価値だけを見ていた。
(可哀想なチャンス)
彼は心の中で呟く。
(君を助けに来るのは、王子様じゃない)
詐欺師と。
マフィア。
最悪のタッグだった。
その頃。
豪邸の一室。
チャンスはベッドへ寝転がり、退屈そうにコイントスをしていた。
膝にはスペード。
窓の外では警備車両が巡回している。
「はぁ……」
銀貨を投げる。
「退屈すぎて死にそうだ」
その時。
遠くでサイレンが鳴った。
爆発音。
怒号。
窓の外に、黒塗りの車列が見える。
そして。
その奥。
街灯の下に立つ、黄色い髪。
「……あ?」
チャンスの目が細くなる。
さらに別方向から、マフィオソの手下たちが雪崩れ込んできた。
威嚇射撃。
偽の爆破予告。
大混乱。
イカサマ検出が得意なチャンスには、一瞬で分かった。
全部フェイクだ。
100%八百長。
でも。
だからこそ。
口元が吊り上がる。
「ハッ……」
笑いが漏れる。
「ハハハハハッ!!」
サングラスの奥の目が、狂ったみたいに輝いた。
「最高じゃねぇか!!」
敵と敵が手を組んで、自分を誘拐しに来ている。
普通なら最悪。
でもチャンスにとっては、極上のスリルだった。
窓へ駆け寄る。
「いいぜ、マフィオソ」
銀貨を握り潰す。
「そのイカサマ――俺の命ごと乗っかってやるよ!!」
次の瞬間。
豪邸の警報が鳴り響いた。
過保護な檻が壊れていく。
そしてチャンスはまた、自分を利用する連中のもとへ、笑いながら飛び込んでいくのだった。
#見捨てられた
あめ猫@サボり魔
7,841
#マフィオソ