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#bl注意
ゆ♨️
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部屋は静まり返っていた。
天井から吊られたペンダントライトだけが揺れ、薄い光がコンクリートの床へ長く影を落としている。
チャンスはソファへだらしなく身体を預けながら、一枚の古びた銀貨を指先で遊ばせていた。
くるり。
くるり。
親の監視から逃げても。
マフィアに追われても。
命の崖っぷちに立っていても。
コイントスだけはやめない。
それが彼の癖であり、呼吸みたいなものだった。
「キィン――」
銀貨が宙を舞う。
ランプの光を反射しながら回転し、最後は左手の甲へ落ちた。
右手が覆い被さる。
チャンスはサングラス越しに笑った。
「なぁ、iTrapped」
悪戯っぽい声。
「勝負しようぜ」
ゆっくり右手を叩く。
「表なら俺の勝ち。裏ならあんたの勝ち」
そして、ニヤリと口角を上げた。
「俺が勝ったら、その氷の王冠。一晩だけ俺のフェドラ帽コレクションに並べさせろ」
部屋の隅にいたiTrappedが、静かに目を細める。
黄色い髪が揺れた。
青いシャツと黄緑のパンツは、暗い部屋の中だと逆に毒々しいほど目立つ。
彼は無言で歩み寄った。
チャンスの椅子の背へ両手を置き、後ろから覗き込む。
氷の王冠から冷気が流れ落ちた。
「いいよ」
静かな声。
「でも、僕が勝ったら――」
耳元へ唇が近づく。
氷が砕けるみたいに澄んだ声。
「君のコレクションを一部、僕の指定するルートへ流してもらう」
冷たい吐息。
「もちろん、拒否権はなし」
iTrappedの頭の中では、もう計算が終わっていた。
闇市場。
コネクション。
換金できる限定アイテム。
全部、Banlandsへ繋がる。
Ellernate。
Caleb244。
そのためなら、このギャンブラーの財産も運も、少しずつ削り取っていけばいい。
幸運の女神?
そんなものごと、踏み潰してやる。
「さぁ」
iTrappedが微笑む。
「コールして」
チャンスは笑った。
「表だ」
右手をゆっくりどける。
そこにあったのは――裏。
iTrappedの勝ちだった。
「おや」
彼は楽しそうに目を細める。
「残念だったね」
次の瞬間。
ネクタイを掴まれ、チャンスの身体が強引に引き倒された。
ベッドへ沈む。
黒スーツの擦れる音が、妙に生々しく響いた。
iTrappedが上から覆い被さる。
氷の王冠の棘が、額へ触れそうなほど近い。
冷気がサングラスを曇らせ、視界を奪っていく。
「君の女神は」
細い指がネクタイを首へ巻き付ける。
じわり、と締まる。
「僕のイカサマには勝てなかったみたいだ」
優しい声だった。
だから余計に冷たい。
iTrappedはチャンスを見下ろす。
「イカサマを見抜くのが得意な君なら、分かってるだろ?」
ネクタイがさらに締まる。
「このコイン、最初から“裏しか出ない”よう細工してあった」
青い瞳が静かに細まる。
「どれだけ足掻いても、君は僕の盤上から逃げられない」
その言葉に熱はない。
愛情もない。
これは支配だ。
調教だ。
チャンスという“駒”を、自分なしでは生きられないよう壊していくための工程。
iTrappedの心臓は静かだった。
まるで作業みたいに。
けれど。
首を締められながら、チャンスは笑っていた。
「……ッ、ハハ」
曇ったサングラスを自分で引き剥がす。
露わになった瞳は、狂気みたいに輝いていた。
「知ってたさ……ペテン師」
息を乱しながら笑う。
「あんたがコイン触った瞬間、全部見えてた」
イカサマの仕組み。
指先の角度。
細工された重み。
全部。
分かった上で乗った。
それが楽しいから。
チャンスは腕を伸ばし、iTrappedの腰を引き寄せた。
黄緑のパンツを強く掴む。
逃がさないみたいに。
「分かってて飛び込むのが……最高のギャンブルだろ……?」
締め付けられた喉から笑いが漏れる。
「あんたが俺を騙して、全部奪おうとしても」
目が細くなる。
「最後に残るのは、俺って“毒”だ」
ネクタイを締める冷たい手。
それを拒まない。
むしろもっと深く食い込ませる。
「女神の祝福と、地獄のイカサマ」
二人の距離はゼロだった。
「どっちが先に壊れるか――破産するまで付き合えよ」
友情なんてない。
信頼もない。
あるのは、互いの嘘を見抜きながら、それでも離れられない関係。
底なしの共依存。
まるで奈落そのものみたいに、甘く、危険だった。