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金曜日の夜は、やっぱりいつもより人が多い。
混み合う居酒屋は、よく見かける看板のチェーン店。
あちこち、たくさんの声が聞こえてくるし、外の冷え込みなんて嘘みたいに店内はエアコンと人の熱気で暑いくらいだ。
そんな中で。
彼氏と向き合う私。
――会社で後輩の女の子たちが話してるのを盗み聞いて知ったマッチングアプリとやら。
……で、知り合った彼と付き合い始めたのは、ほんの数ヶ月前のことだ。
「えーと、まだ俺たちちゃんと付き合ってないよね?」
そんな彼に一週間ぶりに誘われて。
仕事終わりに待ち合わせて、お店に入って席について。
からの第一声が。
「ん?」
どうしたもんだ。
よくわからない。
“ちゃんと”ってなんだ?
私は頭の中でハテナをいくつも浮かべて、しかしそれでも彼が言わんとすることを理解できない。
私が何も返さないでいると、有難いことに言葉を続けてくれた。
「他に気になる子できたからさ、もう会うのやめたいなぁって」
「ああ、他に……」
そうなんだよね、と目の前の彼氏だと思い込んでいた人物は頷く。
疑問は無事、解決した。
……したんだけど。
「えーと、私たち、付き合ってなかったんだ?」
そう言うと、彼は少し驚いたような顔をする。
「ははは。いや、だって、もう何ヶ月も飯食ってちょっと話すだけとか」
「はははははは」
空気を読めば笑い飛ばすしかなかった。
そうだよね?
飛んだ赤っ恥だ。
「葵ちゃんさぁ」
はい。
勘違いしてた赤っ恥女の葵ちゃんです。
もう、二十八。
ちゃん付されるような年齢でもないから、何度か呼んでくれた彼の”これ”が、くすぐったくて、でも少しだけ嬉しかったのは本当。
そして。
「ちょっと、よくわかんないとあるよね」
最後のオチ的な感じでこう言い放った彼と私の間の温度差が明確になる。
恋人を作るってなんでこうも難しいのだろう。
周りのみんなが当たり前のように築き上げる人間関係を私は、いつも別世界の人間たちを見るかのように眺めてる。
「よく言われるよ〜。えーっと、うん。じゃあ、あれだね、気になる人とうまくいくといいね」
自分がどんな表情をしてその言葉を声にしたのかはわからないけれど、目の前の彼が満足そうに笑顔を浮かべたのを見る限り自然な笑顔を浮かべられていたんだろう。
「あ、もう帰る?」
彼がスマホをチラリと確認した姿を見て私は聞いた。
「うん。明日も仕事出ないといけないんだよね」
「土曜出勤あるんだっけ?」
「たまにね」
そっかぁ、と適当な字鎚を打つ。
「じゃあ、帰ろっか」
そう声を掛けられたけれど、一緒に店を出る気分にはとてもなれない。
「私、もうちょっとゆっくりしていこうかな。明日休みだし」
「葵ちゃんほんと酒好きだよね。飲みすぎないようにね」
いつそんな設定になったんだろうか?
別に好きなわけじゃないし強くもないけど、話すことに困ったら、飲むしかないじゃん。
そうか、そうだわ。そんな感じでいつもお酒飲んでた気がするわ。