テラーノベル
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光が、消えた。
音が、戻る。
そして…。
世界が、暴力のように押し寄せてきた。
轟音。
崩壊音。
悲鳴。
怒号。
サイレン。
すべてが一気に耳へ流れ込む。
蒼真は思わず、その場で膝をついた。
「…は、ぁ…」
呼吸が乱れる。
さっきまで感じていなかった現実が、急に重くのしかかる。
視界の先で、建物が崩れている。
瓦礫の下から誰かの腕が見える。
炎が空気を歪ませている。
(こんな状況でおれは)
戦っていた。
いや、それすらも曖昧だ。
ただ結果だけが変わっていく、あの感覚。
現実から切り離された時間。
それが終わった瞬間、すべてが戻ってきた。
「なんだよ、これ」
自分の声が、やけに遠く感じる。
そのとき。
「蒼真!!」
鋭い声が、混乱を切り裂いた。
蒼真の意識が引き戻される。
振り向くと、煙の向こうから必死に瓦礫を越えてくる影があった。
足を取られながらも、止まらない。
息を切らしながら、それでもまっすぐにこちらへ向かってくる。
「澪…!」
白石澪だった。
澪もまた下校中だったらしく、制服のままだった。
しかし、膝には擦り傷があり、手は煤で汚れている。
彼女もこの混乱に巻き込まれていたのだ。
「蒼真!!」
近づくなり、肩を強く掴まれる。
「無事⁉ケガしてない!?」
顔が近い。
息が荒い。
目が真剣すぎる。
蒼真は、一瞬言葉を失う。
「……ああ」
やっとそれだけ返す。
だが澪は離さない。
「ほんとに⁉血が出てるよ!」
蒼真の頬に触れる。
そこに走った傷に気づいたらしい。
「これくらい…」
「よくない!」
強い声だった。
「今ここ、崩壊現場だよ⁉さっきから爆発も続いてるし、まだ安全じゃない!」
その言葉で、蒼真はようやく理解する。
澪はこの状況を見て、ここまで来ている。
迷わず来た。
(……なんで)
思考が追いつかない。
さっき。
あのとき。
目を逸らされたはずなのに。
それでも、来るのか。
そのとき。
ぐい、と服を引かれる感触。
「……おにいちゃん」
少女だった。
蒼真の背後にぴったりと張り付いて離れない。
恐怖がまだ抜けていないのが分かる。
澪が初めてその存在に気づいた。
「……え?」
目を見開く。
「この子…誰?」
「……分からない」
蒼真は正直に答えた。
「ここで……」
言葉が途切れる。
説明ができない。
自分でも理解できていない。
澪は一瞬だけ混乱した顔を見せたが、すぐにしゃがみこんで少女と目線を合わせた。
「大丈夫?」
声が柔らかくなる。
「ケガしてない?」
少女は少し戸惑いながら頷いた。
「……うん」
「そっか」
澪は小さく微笑んだ。
「怖かったね」
その一言で、少女の目に涙が浮かんだ。
緊張がほどけたのが分かる。
(…こいつ)
蒼真は少し驚いた。
さっきまでの鋭さとは違う。
完全に”相手に合わせている”。
その切り替え。
でもそれが自然すぎる。
「……光」
少女がぽつりと呟いた。
「え?」
澪は顔を上げた。
「いっぱい……光……」
途切れ途切れの言葉。
「おにいちゃん……すごかった……」
澪の視線が、ゆっくりと蒼真に向いた。
蒼真は、何も言えない。言葉にできない。
「……何それ」
澪の声には困惑が混じっていた。
「どういうこと?」
説明できる話じゃない。
「……おれもわからない」
それしか言えない。
そのとき。
胸の奥が、激しく痛んだ。
「……っ!」
思わず体が揺れる。崩れ落ちそうになる。
「蒼真⁉」
澪がすぐに支える。
その手が、しっかりと肩を掴んでいた。
「無理してるでしょ!」
「……してねえよ」
「してる!」
即答で迷いがなく、逃がさない圧。
そして、蒼真があらためて立ち上がろうとしたときに、ふと視界に入った自分の指先。
そこが……。
ほんのわずか、透けている。
「……え?」
思わず声が出た。
「どうしたの?」
澪が覗き込む。
蒼真はとっさに手を引いた。
「……なんでもない」
だが。
(……減ってる)
確信があった。
あの男の言葉が現実になっている。
その表情を読み取ったかのように、少女が蒼真の顔を覗き込んだ。
「……消えちゃうの?」
空気が止まる。
澪の表情が固まった。
「……え?」
戸惑い、理解できていない顔。
「どういうこと?」
少女はじっと蒼真の顔を見つめている。
「さっきの人……言ってた……」
澪の視線が、ゆっくりと蒼真に向いた。
逃げ場はない。
蒼真はそう悟った。そして、そっと目を閉じた。
「……使うと……減ってる」
「……何が?」
沈黙。
サイレンの音がボリュームをあげたように大きく聞こえた。
澪はしばらく動かなかった。
ただ、蒼真の手を強く掴んでいた。
「……意味わかんない」
声が震えている。
「でも」
澪は顔を上げて、蒼真をまっすぐに見た。
「それでも」
迷いがない目。
「わたしは離れないから」
澪ははっきりと言った。
逃げない。引かない。
その宣言だった。
蒼真は言葉を失った。
そのとき、再び遠くで崩壊音がした。
「……ここ出るよ」
澪は立ち上がった。
「話はあと」
少女の手を取り、蒼真の手を掴んだ。
三人で歩き出す。
壊れ始めた世界の中を。
その背後で、影が静かにそれを見ていた。
「……対象、確定」
地を這うような低い声。
「感情結合、確認」
わずかに笑い声も含まれた。
「面白くなってきたな」
炎の向こうで、”悪夢”が現実になろうとしていた。
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