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ゆゆゆゆ
#Paycheck
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夕方。
ピザ屋の中は、夜のピーク前の静けさ。
エリオットは厨房で生地をこねている。
リズムよく。
とん、たん、とん
粉が舞う。
金髪の天然パーマに少しつく。
でも気にしない。
にこにこ。
「チャンス」
カウンターの方を見る。
チャンスは椅子に座ったまま。
腕を組んでいる。
少し前までコインをいじっていたけど――
今は手が止まっている。
「……ん」
眠そうな声。
エリオットが笑う。
「寝る?」
チャンス。
「寝ない」
でも目は半分閉じてる。
エリオットはまた生地に向き直る。
「もうすぐ忙しくなる」
チャンス。
「……帰ればよかった」
エリオットがすぐ言う。
「やだ」
チャンスが小さく笑う。
「強制かよ」
エリオット。
「うん」
それから。
少し間を置いて。
「いて」
チャンス。
「……」
何も言わない。
ただ、椅子に深くもたれる。
まぶたが落ちる。
店の中。
静か。
生地をこねる音だけ。
とん、たん、とん
エリオットがちらっと見る。
チャンス。
完全にうとうとしてる。
エリオットは少しだけ笑う。
手を止める。
ゆっくり近づく。
カウンター越し。
そして――
ネクタイ。
ぐい
チャンスが少し前に揺れる。
「……ん」
エリオットが小さく言う。
「寝るな」
チャンス。
「……寝てない」
エリオットは楽しそう。
「嘘」
チャンス。
「うるさい」
でも目は閉じたまま。
エリオットはそのまま少しだけネクタイを持ったまま。
離さない。
「チャンス」
「……ん」
「逃げないで」
チャンス。
小さく笑う。
「逃げねぇよ」
エリオットは少し満足そう。
それから手を離す。
また厨房へ戻る。
生地をこねる。
とん、たん、とん
その時。
外。
低いエンジン音。
……ブゥン
エリオットの手が止まる。
チャンスの目が開く。
ゆっくり。
眠気が一気に消える。
二人とも。
同時に外を見る。
店の前。
黒塗りの車。
静かに停まる。
エンジンはまだかかっている。
夕方の光に。
黒い車体が重く光る。
チャンスが小さく言う。
「……知り合いか?」
エリオット。
静かに手についた粉を払う。
「…面倒な人」
空気が変わる。
さっきまでのゆるい時間が。
一瞬で消える。
車のドア。
バタン
エリオットの目が細くなる。
チャンスはゆっくり立ち上がる。
そして――
無意識に。
自分のネクタイに手をかける。
さっきまでエリオットが触っていた場所。
二人の距離。
少しだけ離れる。
でも――
視線は同じ。
黒い車。