藤澤side…
僕らは元貴のズボンのポケットからそっと鍵を取り、暗くなった冷たい元貴を目に焼き付けて出発した。
🚗💨
車内…
涼)ねぇ若井、何で元貴は僕らに何も言ってくれなかったのかな…。
若)…分からない。俺らは、元貴が相談する程の関係でも無かったのかな…。
若・涼)….
暫くの沈黙の後、到着する。
ガチャッ
涼)お邪魔しまぁす…
若)お邪魔します。
いつも三人で談笑していたリビングへ行くと、机の上に一枚の紙とPCが置いてあった。
涼)よ、読むね。
『二人とも、来てくれてありがとう。お医者さんに説明を任せたから二人も聞いているとは思うけど、僕は3ヶ月前から「光失病」って病気にかかっていたんだ。
若井、僕の周りの光、覚えてる?あの時若井が病院行けって言ってくれなかったら、最後までこの病気の事を知らずに死ぬ所だったよ。ありがとう。
涼ちゃん、何も知らないまま離れちゃってごめんね。二人の絶望する顔を見たくなかったんだ…だから、どうか許して欲しい。決して嫌いだとかそんな訳じゃないから。
PCに僕からJAM’Sへのメッセージが入ってるはずだから、パスワードは分かるよね。開いて、SNSに投稿しておいてくれる?あと二人に向けたビデオメッセージもあるから。観てくれると、嬉しいな。』
そっと手紙を置き、PCを開く。
パスワードは…『0708』のはず。
開いた。ホーム画面だ。
X、Instagram、Ringojam、bubble….
とにかく思い当たるSNSに元貴からのメッセージをコピーして投稿した。僕らが投稿したという一文を添えて。
若)じゃあ、見るか….
涼)うん….。
深呼吸して再生ボタンを押す。
画面に、まだ動いている元貴が映る。ライブ前だろうか。
大)「若井、涼ちゃん、元気〜?」
そう言って手を振る元貴。元貴が居る、生きている。そう考えただけで涙が止まらない。隣を見ると、若井も涙ぐんでいた。
大)「どーせ泣いてるんでしょ、?笑 ほら、泣いてちゃ僕の顔、見えないでしょ?」
今にも涙を拭ってくれそうなのに、頭を撫でてくれそうなのに、画面の中だから手が届かない。
虚しいなぁ。
大)「じゃあ、まず若井から!」
若)はっ、はいぃっ!
反射的に返事する若井。変な声出てるよ。
大)「もう、出会って15年以上だって。最初は正直嫌ってたけど、めげずにというか、仲良くなってくれて、今までついてきてくれてありがとう。
いっつも、僕のことなのに、僕より喜んでくれて、僕より泣いてくれて、なんか嬉しかった。でも感情は表に出すのに努力は出さないんだから。
難しい曲作っても、果てしない時間を費やして努力してくれて、すごく嬉しかったよ。曲に真剣に向き合ってくれて。てもテレビではふざけて。もっと若井とふざけたかったなぁ。
どんな若井も、いつまでも大好きだよ。」
自然と僕らの頭の中には『BFF』が流れ始めた。
若井は涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだ。まあ、僕もそうなるんだろうけど。
若)もときぃ…!ありがとう、こちらこそありがとう…!大好きだよ、いつまでも、ずっと大好きだよぉ…!
画面の中の元貴は、まるで若井の声が聞こえたかのように微笑み、一粒の涙を零す。
大)「じゃあ次、涼ちゃん。」
涼)はい…。
自然と背筋が伸びる。どんな言葉を遺してくれたのだろうか。
大)「名前も知らないまま、初対面で、しかも年下の信用もない一言に、ついてきてくれてありがとう。涼ちゃんに何度助けられたことか。涼ちゃんを何度助けたことか。笑
なんかやっぱり、涼ちゃんはすごく周りをよく見てて、ずっと笑顔で雰囲気を和ませてくれる。けど、実は一番心が繊細で、綺麗で、壊れやすい。いいんだよ、ずっと笑顔で居なくても。辛い時は辛いってちゃんと言って。本当の笑顔になれるまで僕はずっと寄り添うから。離れていてもね。
どんな涼ちゃんも いつまでも大好きだよ。」
涼)元貴ぃ….ありがとうッ….泣
元貴はまた、僕の声が聞こえたかのように頷く。元貴も僕くらい泣いていた。
大)「じゃあ最後に二人ともに向けてね。」
二人とも…?
若井と目を合わせ、首をかしげる
大)「二人とも、本当にありがとう、ごめん。一番信用しているメンバーにさえ打ち明けられなかった僕をどうか許して欲しい。でも、僕は二人と過ごした時間が、間違いなく人生でいちばん楽しくて、一番幸せだったよ。これからどうするかは二人でゆっくり話し合ってほしい。僕のことはお構いなくね。
愛してるよ。じゃあ、またね。バイバイ。」
そう言ったので動画が切れたかと思った。
が、まだ止まってはいなかった。元貴は俯いて、独り言のように呟き始める。
大)「死にたくないなぁ、もっと二人と音楽してたかったなぁ….。世界一大切で世界一大好きな人を置いて逝くなんてどれだけ辛いことか…しかも超暗くなるんでしょ、僕。嫌なんだけど。せめて、笑って逝けたらいいな….
『試されてる 私はきっと愛されてる』」
元貴がそのワンフレーズを歌ったところでぷちっと動画は切れ、ザザーっとノイズ音がするだけだった。
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