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『お前達の姿は見えているぞ!こっちには人質がいる!人質を殺されたくなかったら武器を捨てろ!』
スピーカーから響く声にシンノスケとマークスは顔を見合わせる。
「随分とテンプレな要求だな。武器を捨てろって、この場に捨てればいいのか?」
「冷静さを欠いているのだと思います」
「そうは言っても、冷静さを欠いているのなら余計に人質が危険だな。とりあえず武器を捨ててみよう」
シンノスケとマークスはそれぞれライフル、シールドとマシンガンを床に置いてカメラを見た。
『他にも持っているだろう?ブラスターも捨てろ!そして捨てた武器を階段の下に落とせ』
2人は言われるがままに腰に差したブラスターを捨てて階段の下に蹴り落とす。
「抜かりないな。意外と冷静じゃないか?」
「ええ・・・でも、やはり想像力が欠如しています」
「まあな。時間は掛けられない。奴等が扉を開けたら一気に勝負を掛けるぞ」
「了解」
ブリッジの扉のロックが解除された。
『両手を上げて入ってこい』
シンノスケとマークスは言われたとおりブリッジに入ると、即座に左右に分かれて銃を構えた。
扉の前には乗組員と乗客の5人の男女が立たされているが、シンノスケもマークスも人質の盾の隙間から奥にいる海賊の男達に狙いを定める。
シンノスケが狙う男は1人の少女を羽交い締めにしてその首筋にブラスターの銃口を当てている。
囚われている少女は恐怖のためか、抵抗する様子もなく虚ろな目で放心状態だ。
「一度だけ警告する。武器を捨てて投降しろ!」
一喝、警告するシンノスケの声に2人の海賊は一瞬だけ戸惑いを見せるが、少女を盾にしている方の男は直ぐに余裕を取り戻す。
「他にも武器を隠していたか。でもいいのか?俺達のどちらか1人でも仕損じればここにいる奴等全員が道連れだぜ?」
自分だけは大丈夫だという自信に満ちたような男だが、その理由は至極単純だ。
グラスモニターにマークスからの情報が表示される。
(パーソナルシールドか・・・。随分と贅沢な物を持っているな)
目には見えないが男の周囲をレーザーを拡散するシールドが覆っていて、通常の出力によるブラスターの射撃ではシールドがレーザーを拡散してしまう。
最高出力で撃てばシールドを貫けるが、それでは人質もただでは済まない。
目の前の男は自分だけがシールドを持っているので強気なのだろう。
シールドを持っていないもう1人の男は気の毒だ。
「さっさと銃を捨てろ!人質がどうなってもいいのか!」
自分がシールドに守られている自信があるのか、少女に向けていた銃口を不用意にシンノスケに向けて命令する男。
「お前達の要求は分かった・・・」
シンノスケはため息をついた。
「早くしろっ!」
「分かったって言っているだろう。・・・・マークス!」
シンノスケの声を合図にシンノスケとマークスは同時に引き金を引いた。
シュバッ!!
バンッ・・・キンッ、キン!
マークスの撃ったブラスターの発射音と、乾いた炸裂音に続いて小さな金属の落下音。
海賊の男2人が倒れた。
「クソッ!なんだこれはっ!」
肩を押さえて呻いたのは少女を人質に取っていた男だ。
もう一方の男はマークスのブラスターで眉間を撃ち抜かれて絶命している。
「マークス、そいつを捕らえろ!」
シンノスケは盾にされていた人達を押しのけて叫ぶ。
即座に動いたマークスが男を制圧し、シンノスケは男から離れてへたり込んだ少女を庇うように立つ。
「クソッ!パーソナルシールドが効かないなんて、なんなんだよこれは!」
肩から血を流しながらわめき散らす男をシンノスケは見下ろした。
「歴史に興味はないか?今ではブラスターしか見ることはないだろうが、ブラスターが個人用携帯武器の主流になる前は火薬で金属弾を発射する銃があったんだぞ。知らないのか?」
「そんな骨董品を・・・」
「いや、今でも火薬式の拳銃を製造しているメーカーがある。尤も、殆ど趣味の世界だがな。反動が強く、命中させるには技術を要するが、実体弾を撃ち出すこの銃の弾丸はレーザーを拡散するパーソナルシールドでは止められない。当たり所によってはブラスターよりも強烈だぞ」
シンノスケが持つのはラグザVX67自動拳銃。
過去の遺物と化して現在では殆ど使用されていない火薬式拳銃を製造しているラグザ工業製の9ミリ拳銃で、軍人の頃からのシンノスケの愛用品だ。
「さて、つまらぬ講釈をしている時間はないな。俺達はこのブリッジに来るまでに貴様の仲間を3人始末してきた。で、ここにいるのは貴様とそこに転がっている彼奴だけだ。単刀直入に聞く。他にも仲間はいるのか?」
マークスに捕らえられている男に拳銃を向けるシンノスケ。
「・・・・」
男はシンノスケを睨みつけながら口を噤む。
「残された自分の時間を無駄に消費するなよ。私に撃たれたその傷、決して浅くはないぞ。貴様が失血死するまであまり時間は残されていない。貴様が正直に言わないならば私達は貴様の治療を後回しにして存在するかどうか分からない貴様の仲間を探しに行かなければならない。この広い船内を私達が探し回っている間、貴様が生きていられるといいな」
シンノスケに睨み返されて男は震え上がる。
「・・・もう居ない。俺達は5人でこの船に乗り込んできた。本当だ」
シンノスケは頷くと背後にいるギャラクシー・キャメルの乗組員を見た。
乗組員はシンノスケに頷いて見せて男の言葉が正しいことを伝える。
「よし、分かった。他の仲間と比べれば不公平極まりないが、貴様には法の裁きを受ける機会を与えてやる。現時刻、自由商船護衛艦艦長の権限で貴様を逮捕する。今後貴様は公的機関に引き渡されて法の裁きを受けることになる」
シンノスケが通告すると男はぐったりと項垂れた。
マークスに男の応急手当と船内の安全の確認を任せる傍らでシンノスケは生き残りの乗組員や乗客の状態を確認することにする。
幸いにして、ギャラクシー・キャメルの船長が無事だったため、船長と生き残りの乗組員に頼んで各所に逃げ込んでいる人々への説明と保護を任せることが出来た。
また、海賊に囚われていた少女も気を失っているので乗組員に保護を依頼する。
「船長、この船の損傷状態はどうなっていますか?自力航行は可能ですか?」
「海賊の攻撃を受けて6基あるエンジンの内4基が破壊されましたが、残りの2基でも通常航行は可能です。しかし、空間跳躍はできませんので、目的地のサリウス恒星州までは辿り着けません」
「そうなると、サルベージ船の類が必要ですね」
「それについては本社と連絡を取れば社が所有する曳航船を派遣して貰えます。ただ、早くても2週間程の時間を要しますが、その間、お客様をこの船に留まらせるわけにはいきません」
確かに、損傷したギャラクシー・キャメルに乗客を乗せたままにするわけにはいかないだろう。
そもそも、曳航船が来るまでの間、ギャラクシー・キャメルをこの宙域に置き去りにするのも危険だ。
どうしたものかと思案していると、船内の安全確認を終えたマークスが戻ってきた。
「船内に宇宙海賊の取りこぼしはいません。制圧完了です」
マークスの報告を受けたシンノスケはギャラクシー・キャメルと乗客の取り扱いについて考えるのを後回しにし、シールド艦のダグに連絡を取ることにして通信回線を開く。
「こちらギャラクシー・キャメル船内のカシムラです。船内にいた宇宙海賊の制圧完了です」
『こちらダグ、了解した。こちらも残りの海賊船を全て撃沈。周辺宙域の安全を確保した』
これでギャラクシー・キャメルの救助は概ね完了したのだが、損傷したギャラクシー・キャメルと乗組員や乗客を如何するべきかの問題が残っている。
シンノスケのケルベロスでは居住空間が狭く、ギャラクシー・キャメルの乗組員や乗客を移乗させる余裕が無い。
『俺のシールド艦は中型の貨物船を改造したものだからペイロードに余裕はあるが、貨物室に押し込むわけにもいかん。ザニーのパイレーツ・キラーはそもそも居住スペースが殆ど無いし、航続距離も短く、戦闘時以外は俺のシールド艦に搭載して移動するから無理だ』
「そうですか・・・」
シンノスケは腕組みして考え込む。
「我々のケルベロスとシールド艦で曳航すればよいのではありませんか?」
いよいよギャラクシー・キャメルを護衛しつつこの宙域に足止めか、と思った時、マークスが発言した。