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「ケルベロスとシールド艦で曳航する?どういうことだマークス」
首を傾げるシンノスケ。
「空間跳躍は跳躍する船の周囲の空間ごと転移するもので、その際に一定速度まで加速してから跳躍します。現在このギャラクシー・キャメルはエンジンの損傷により跳躍速度まで加速できませんし、跳躍実行するためのブースターも破損していますのでギャラクシー・キャメルだけでの跳躍が出来ません。そこで曳航船等による曳航が必要ですが、それをケルベロスとシールド艦で行えばいいのです」
「そんなことができるのか?」
「はい。ケルベロス、シールド艦共に単独ではギャラクシー・キャメルを曳航して跳躍速度まで加速できませんが、2隻でギャラクシー・キャメルの左右両舷を挟むように曳航すれば跳躍速度まで加速できます。その上でケルベロスとシールド艦が同時に空間跳躍を実施すれば、転移範囲内にいるギャラクシー・キャメルも転移されます」
マークスの説明にシンノスケは更に首を傾げた。
「理屈は分かった。マークスが言うのなら実行可能なんだろう。しかし、実行可能だからといって危険が伴うなら無理だぞ?ギャラクシー・キャメルの乗組員や乗客を危険に曝すわけにはいかないからな」
「問題ありません。空間跳躍時のリスクは通常の跳躍時の重大事故遭遇確率に比べて2.8パーセント高い程度です。元となる重大事故遭遇確率が0.0025パーセントなので、その確率を基準に2.8パーセントを加えても事故遭遇確率は0.00257パーセントです。空間跳躍のリスクの増加については無視していいレベルだと判断します」
マークスの説明のとおりならギャラクシー・キャメルを曳航してサリウス恒星州まで戻ることが出来るので、この場で曳航船か沿岸警備隊が来るのを待つよりは余程効率がいい。
しかし、これはシンノスケとマークスだけでは決められない。
「ダグさん、聞いてのとおりですが、其方の判断は如何ですか?」
『そうだな、確かに・・・』
『その案に賛成だ!』
ダグの言葉を遮って通信に割り込んできたのは海賊船を撃沈して戻ってきたザニーだ。
『規則に従って救助に来たが、こんな宙域で時間潰しをしたくはねえ!そのデカブツを引っ張って行けるならば手っ取り早い。やろうぜ、ダグ』
ザニーの言葉にダグは肩を竦めながら頷いた。
ダグとザニーの同意を得たシンノスケはギャラクシー・キャメルの船長を見た。
「船長のお考えは如何ですか?海賊を撃退したとはいえ、この宙域が完全に安全になったとは言えません。船長に同意してもらえるならば私達の艦でサリウス恒星州までこのギャラクシー・キャメルを曳航します。その方がより早く危険を脱することは間違いありません。但し、この船を曳航するためには複数のアンカー等を打ち込んでお互いの船を固定する必要がありますので船体を大きく破損させる必要があります」
シンノスケの問いに船長は迷わずに答える。
「よろしくお願いします。海賊の襲撃で多数のお客様や乗組員が死傷しました。私はこの船の船長として皆さんを守ることが出来ませんでした。今は船の心配よりも無事だったお客様と乗組員の安全確保が最優先です。船長としての責任を果たせなかった私に残された責任の下でこのギャラクシー・キャメルの曳航を要請します」
一般的な船舶事故とは違い、海賊船の襲撃については、襲撃された船舶の船長が法令や規則に背く行動をしていない限り、その船舶の船長は責任を負うことはない、と定められている。
しかし、法的に責任が無いからとはいえ、船乗りとして自らに責任を科すことは自然なことで、ギャラクシー・キャメルの船長は自分に残された最後の責任を果たそうとしているのだ。
シンノスケ達は直ちに曳航の準備に取り掛かった。
ケルベロスはギャラクシー・キャメルの左舷にアンカーや接舷用通路を打ち込んでいるので曳航の準備は殆ど完了している。
後はダグのシールド艦がギャラクシー・キャメルの右舷からアンカーと接舷用通路を打ち込んで固定すれば曳航の準備は完了だ。
先ずはこの状態で通常航路まで航行する。
通常航路に戻り、空間跳躍ポイントに到着したらいよいよギャラクシー・キャメルを曳航し、3隻同時の空間跳躍を実行する。
『ダグのシールド艦は俺のパイレーツ・キラーの母艦だが、俺の艇を格納するとワープ時の加速が鈍くなる。重りにしかならない俺は先にワープして転移先の安全を確保するぜ!』
3隻が繋がって動きが制限されているため、ザニーの艇が3隻の護衛を引き受けてくれていたが、元々が航続距離の短いミサイル艇だ。
ギャラクシー・キャメルを救助する際の戦闘機動とその後の3隻を護衛しながらの航行でエネルギーの大半を使い果たしていて、この空間跳躍を終えると航行不能になるらしい。
それでもザニーは迷うことなく進路の安全確保のため、一足先に転移先へと空間跳躍していった。
「それでは我々も空間跳躍を行います。エンジンの推力が異なる3隻が同時に跳躍しますので、私が指揮を執らせていただきます」
情報処理能力に長けるマークスが空間跳躍の指揮を名乗り出るが、そもそもマークスの能力抜きにこの空間跳躍は実行出来ない。
「よし、ケルベロスの操艦も任せる。ユー・ハブ・コントロール」
「アイ・ハブ・コントロール。それでは空間跳躍のための加速を開始します。加速の基準船はダグさんのシールド艦です。シールド艦は通常の跳躍加速を行ってください。エンジンを損傷しているギャラクシー・キャメルは残りのエンジンの推力80パーセントで加速を補助。当艦は2隻に合わせて調節します。加速開始カウントダウン、5、4、3、2、1、今!」
マークスの合図で3隻は跳躍加速を始めた。
ダグのシールド艦の加速に合わせてマークスがケルベロスのエンジン出力を調節する。
「跳躍速度に向けて加速中・・・跳躍速度到達まで8、7、ギャラクシー・キャメルはエンジンカット、4、3、2、1、ワープ!」
ケルベロスとシールド艦は同時に空間跳躍を実行し、ギャラクシー・キャメルを曳航したまま空間転移した。
「空間跳躍完了・・・各船の船体及び各システム異常なし」
3隻が無事に空間跳躍を成功させ、サリウス恒星州の領域に戻ってきたところ、先に空間跳躍していたザニーのミサイル艇が周辺宙域の警戒をしていた。
『無事に跳んできたな。こっちはエネルギーが尽きる。ダグ、早く収容してくれ』
どうやら周辺宙域の警戒はしていたものの、エネルギー切れ寸前の状態で漂流しつつあるらしい。
ザニーによれば、沿岸警備隊がこちらに向かっていて、間もなく到着するとのことだ。
沿岸警備隊が到着して後を引き継げばギャラクシー・キャメルの救助活動は全て完了となる。
これ以上の曳航は不要なのでケルベロスとシールド艦はギャラクシー・キャメルとの固定を解除し、ダグのシールド艦はザニーのミサイル艇の収容作業を始めた。
『ギャラクシー・キャメルから本船を救助してくれたケルベロス、シールド艦、パイレーツキラーの3隻とそれぞれの艦の4名に心から感謝します。本船の救助に掛かった費用と救助に伴う謝礼については後日、本社から提案させていただきます』
ギャラクシー・キャメルの船長から感謝を示す通信が送られてきた時、レーダーの端に沿岸警備隊の到着を示す反応が現れた。
こうしてシンノスケの初めての貿易と、予想外の救助活動は全て終了。
ケルベロスはサリウス恒星州の中央コロニーに向けて帰還の途についた。