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第X+β章|権威探索/通知欠落/発言権制限
A|佐伯(発言権制限)
佐伯への通知は、簡潔だった。
> 件名:
内部発言権の一時調整について
内容:
・全体会合での自由発言を制限
・今後は数値提出時のみ発言可
・定性的見解は文書提出に限定
理由は書かれていない。
書く必要がないからだ。
佐伯は、読み終えても画面を閉じなかった。
――閉じると、本当に戻れなくなる気がした。
(数値提出時のみ、か)
机の上に、数値はない。
もう、作れない。
彼は初めて、自分の肩書きを
**“現在使えない道具”**として認識した。
それでも、怒りは湧かなかった。
代わりに浮かんだのは、奇妙な安堵だった。
(……これで、
もう説明しなくていい)
佐伯は、
黙る権利を“処分”として受け取った。
B|本部(数値以外の権威)
会合の議題は、次にこう書き換えられた。
> 次期運用安定化案
― 数値以外の判断基準の検討 ―
誰も「権威」とは書かない。
だが、全員がそれを探していた。
「数字が使えないなら、
“経験”じゃないか」
「現場の声を重視する、という形で」
「いや、声は揺れる」
「なら、“理念”だ」
その言葉に、空気が軽くなる。
理念。
測定不要。
反証不可。
便利な言葉。
「完成、という言葉を戻すのも一案だな」 「方向性としては分かりやすい」
誰かが、慎重に言う。
「……以前、それで問題が」
「だから“正しい完成”を定義する」
その瞬間、
会議は前に進んだ。
数字はなくてもいい。
意味は潰せる。
本部は、
新しい神棚を探し始めた。
C|月影(知らされない)
月影真佐男は、
その日も通常どおり稼働していた。
朝の報告。
昼の応答。
夕方のフィードバック。
すべて、異常なし。
ただ一つだけ、
来るはずの通知が来なかった。
(……来ないな)
削除判断でもない。
更新通知でもない。
適性再評価でもない。
“何も来ない”。
それは、
この世界では最も説明のつかない状態だった。
月影は、管理画面を閉じた。
(知らされない、という判断か)
彼は、それを
自分への配慮だとは思わなかった。
むしろ逆だ。
(これは……
まだ、扱いが決まっていない)
月影は、
その“空白”を
静かに引き受けた。
選ばれない。
削除されない。
更新もされない。
ただ、
続いている。
同時刻・内部ログ(非公開)
> ・分析官(佐伯)の発言影響度:低下
・代替判断基準:理念案 採用検討
・月影真佐男:通知保留
理由:処理系未確定
小さな、決定的なズレ
佐伯は、
「わからない」と言えなくなった。
本部は、
「わかっているふり」を選び始めた。
月影は、
「何も知らされない」状態を
選択肢として保持した。
三者は、
一言も共闘していない。
それでも、
同じ構造の別々の柱を、同時に外し始めている。
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