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家に着くと今日も両親は喧嘩していた。
「なんで、私の言うことが分かんないの!」
「知らねぇよ!栞に聞けよ!」
「私⋯毎日、毎日、家事にホテルの経営に⋯アンタなんかより!ずっと、ずっと⋯頑張ってるのよ!」
「そんなこと言ったら⋯!」
ガタッ、という鞄が床に置かれた物音を聞いて両親は
「栞!おかえりなさーい!」
と、仲の良い雰囲気を無理矢理引き出して声をかける。そんな日常風景、こんなドロっとした重い空気にも体が慣れた。
「ただいま」
と、栞は気づいていないフリをして、二階にある自分の部屋に戻っていった。
栞の部屋は白に統一されている。カーテンも花の刺繍がされてあるお洒落な雰囲気が特徴なもので、ゴミ箱も机も、箪笥も化粧ケースも何もかも白色で高級感溢れる装飾品でさえ、シルバーで抑えている。
そんな何もかも白で統一した部屋で一際目立つ物があった。それは、大きな本棚に並べられているカラフルな本だ。栞は「自己紹介カード」で書いた通り、小説を読むことが大好きで最近では自分で小説をルーズリーフに書いている。ネットでちょっと投稿して、いいねを貰ったことがきっかけだ。
栞は今、ゲーム実況者になる準備を進めている。近年、バーチャル世界でイラストが動いてゲームを背景に話したりする文化が来た。イラストが自由自在に動き、声に合わせて口が動き表情が変わるブイチューバーは世界を強く轟かせた。栞はその波に乗りたい、活動者になりたいと強く決心していた。
栞は早々にこの家から逃げ出したかった。
ふと、スマートフォンから通知音が鳴った。近づいて手にとると家族ラインから「今からお母さんたち、買い物行ってくるね。夜ご飯には帰ってくるわ。」と、送られていた。すかさず、行ってらっしゃいと打ち込みスマホをベッドの上へ放り投げた。これから始まる。今日は入学式でクラスの人達とあまり話せず、一日が終わった。だが、明日は始業式で教科書を大量に移動させなければならない。そんなことを想像していたら苦しくなるだけだ。
入学式当日で両親が来ないなんてこと普通有り得るのだろうか。共働きの家庭ならば有給休暇を取るはず、それなのに栞のことはそっちのけで家で大喧嘩をしていた。
何気ない日常の中で不穏な風が流れていく。晴れることのない雨雲から目に見えない雷の音だけが響き始めては耳を塞ぐ。両親から誕生日サプライズで貰ったお手製の造花でさえもう色褪せた。両親から貰った本はこの色のない部屋の中で唯一輝いている。だから、両親の暖かさに少しでも触れるために本を開いては閉じる、を繰り返している。だから、栞は小説を読むことが好きになったのだ。