テラーノベル
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私達は学校に到着して、華ちゃんと一緒に教室へ向かう。そして入るや否や、一人のクラスメイトが興奮気味に話しかけてきた。確か名前は水野さんだったっけ。まだ入学したてでクラス全員の名前を覚えてないんだよね。それにしても、はて? どうしたんだろう?
「本当にありがとう曽我部さん!」
「え? 私、お礼を言ってもらえるようなことなんかしたっけ?」
「この前、相談に乗ってくれたじゃない!」
「相談? あ! 思い出した! あれだよね、居残りで補習をさせられた時に好きな男子がいるって話してくれたやつ」
「そうなの、それそれ! あれから私、勇気を出して告白したんだ! そしたら彼とお付き合いできることになったの! あんなにカッコいい人、私となんかじゃ釣り合わないと思って諦めてたんだけど、曽我部さんが相談に乗ってくれたおかげで、勇気をもらえて! 全部、ぜーんぶ曽我部さんのおかげだよ!」
「そ、そうなんだ」
まただ。また不思議なことが。いつからだったっけ? 確か中学三年生くらいだったかな。よく覚えてないんだけど、でも、私に恋愛相談を持ちかけてきた人って、全員告白に成功してるんだよね。
不思議なのはそれだけじゃないの。そもそも、どうして皆んな、私なんかに恋愛相談を持ちかけてきたんだろう? だって私、恋愛経験ゼロだよ? そんな人に恋愛相談なんて普通するかな……? 本当に不思議だし、本当に不可思議。でも、まあいいか。悪いことが起きてるわけじゃないし。
そうだ! きっと今ならオーケーしてくれるはず!
「おめでとう、水野さん。それでね、私もちょっとお願いがあって。ぜひ、ぜひ! 今日提出予定の宿題を写させて――」
「優ぅちゃーん」
華ちゃんに襟元をグイッと掴まれて、水野さんからどんどん離されていく私。なんで! なんでそんなことするの! アイドルの握手会だってこんな乱暴に剥がしたりしないでしょ! せっかく恥を忍んでお願いしたのにぃー!!
「水野さんが断りづらい状況になった途端、宿題写させてとかサイテーなことしないの! あ、水野さん。気にしないでいいからね」
「そ、そんなあ。じゃあ私は一体誰に宿題を写させてもらえば……って、引きずらないで! お願いだから! 見られてる! 男子に見られてるから! クラスの男子の中に白馬に乗った王子様がいたらどうするのよ!」
「幼馴染の優しさだと思いなさい。あと、今の優ちゃんなんかに好意を抱くような男子がいるわけないじゃない。それに今朝も言った通りもう手遅れだから。とりあえず、まずはその性格を直しなさい」
「酷いよぉーー!!」
* * *
学校も終わって、やっと我が家に着いてドアを開け、玄関に入ったその瞬間、私は膝からガクリと崩れ落ちた。だ、ダメージが大きすぎる……。
「こ、高校生にもなって、先生にあんなに怒られるとは……。いいじゃん宿題くらい! 見逃してくれたって! なのに、男子も見てる前で公開説教だなんて。もし男子の中に運命の王子様がいて呆れられたりしてたら、私、立ち直れない……」
あー、もう嫌! 怒られた上に、追加で宿題をまた出されちゃったし。よし! 今日こそ絶対に宿題をして……あ!!
私は一度自分の部屋に戻って自転車の鍵を手に取った。そしてマンションの駐輪場まで猛ダッシュ。そのままの勢いで自転車を猛スピードで走らせた。
「宿題、学校に忘れてきたーー!!」
もう、あんなお説教なんか食らいたくない! だから今日こそ絶対に宿題をする! してみせる! なのに学校に忘れてきちゃうとか……あり得ない!!
「はあ……はあ……つ、疲れる……」
自転車を勢いよく漕いで漕いで漕ぎまくってたら、体力ゲージがどんどん削れていって、今はもう完全にゲージはゼロ。日頃の運動不足がたたってる。元々私、運動苦手だし。だから帰宅部なわけだし。って――
「ああ!! 危な……ぐえぇ!!」
ペダルから足を滑らせて、その際にハンドル操作を間違えて、そのまま自転車ごと電柱に激突。い、痛い……。思いっきり頭をぶつけちゃった。
「イタタタ……まさか電柱にぶつかって転倒しちゃうなんて。あーあ、自転車も。私って、もしかして世界一不幸な女子高生なんじゃないの……?」
とりあえず、勢いよくぶつけた頭――額を触って確認。良かった、血は出てないみたい。だけど自転車のフレームが完全に曲がっちゃってる。
「宿題なんて、いいか……」
もうどうにでなれと、私は半ば投げやりにコンクリートの上で大の字に寝転がった。通行人がちらちら見てくるけど、誰一人として助けてくれようとしないし。世間って結構冷たいのね……。
でも違った。皆んなが皆んな冷たいわけじゃなかった。
「おいお前、大丈夫か?」
私に声をかけてくれた人がいた。声で分かったけど、男子だった。私は一度、起き上がってその人の姿を見やった。
一目で恋に落ちた。
「白馬に乗った王子……様」
その男子は私と同じ高校の制服を着ていた。不思議な魅力を溢れさせていた。長くて綺麗な黒髪。整った顔立ち。少しだけ悪い目つきはしていたけど、それが逆に、私にとって魅力的に映った。
一言で言えば、イケメン。
こんなにもカッコいい男子に声をかけてもらえるだなんて。私は世界一幸せな女子高生だと思った。
でも、このすぐ後に私が抱いた彼への印象はこう。
この人、とにかくめちゃくちゃイヤな奴!!
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