テラーノベル
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「は、白馬に乗った王子様だ……」
自転車で電柱にぶつかって転倒して、その際に頭を強く打ってしまった私だけど、出逢えた。やっと出逢えた。運命の王子様に!
いやいや、我ながら思うよ。日頃の行いが良いからだなあー、きっと。
制服をよく見てみると、ネクタイの色がモスグリーンだった。ウチの学校はその色で学年が分かるようになってるんだけど、この色って確か三年生だったよね? 年上の王子様かあー。なんだかそれ、すっごく素敵かも。
年上の王子様ってことは、きっと私のことを引っ張っていってくれるんだろうなあ。でもそっか、この人とお付き合いできるんだ。毎日イチャイチャラブラブできるんだ。今から楽しみで仕方がないよ。
「ふふ……うふふふふ……」
「意味もなく笑ってるけど、頭を強く打ったせいでおかしくなったか? さっきも『白馬に乗った王子様』だとかわけの分からないことを言ってたしな。俺が乗ってるのは自転車だ。そもそも俺は王子様じゃねえ」
「大丈夫です! いつものことです!」
「そうか。いつものことなのか。頭がぶっ壊れてるのは」
ぶ、ぶっ壊れてるって……。
あれ? この王子様、なんか口悪くない? いやいや、そんなはずがないじゃない! 絶対に大丈夫! だって、だって! これは運命の出逢いなんだもん!
「ということで。これからお付き合いの程、お願いします!」
三つ指をついて、床に頭をくっつけながらお辞儀。やっぱり乙女は礼儀正しくなくっちゃ。失礼があったら申し訳ないもん。
「あ? 何が『ということで』だ。お辞儀の意味も分からねえし。それに、付き合う? 何言ってんだガマガエル」
「が、ガマガエル!?」
え? 酷くない? 女子に向かってガマガエルとか。やっぱり口も悪いし。汚いし。でも、大丈夫! この王子様はちょっと恥ずかしがってるだけ!
……な、わけないか。
「ああ。さっき電柱にぶつかった時、そんな悲鳴をあげてたからな。だからそう呼ばせてもらう。分かったかガマガエル」
さすがにカチーンと頭にきた。何度も何度も乙女に向かってガマガエルとか。うー、すっごく腹が立ってきた。
「あの、ちょっと失礼じゃないですか? 女子に対してデリカシーなさすぎじゃないですか? 私はガマガエルじゃありません! 曽我部優子という名前があります! だからこれからは、ちゃんと名前で呼んでください!」
「分かった。曽我部・ガマガエル・優子だな」
「ミドルネームみたいに言わないで!」
確信。この人めちゃくちゃ性格が悪い。悪すぎる!! それに、めちゃくちゃイヤな奴!! ――って、え!?
「ど、どこに行っちゃうんですか!?」
その王子様(仮)は黙ったまま立ち上がり、自分の自転車にまたがってしまった。嘘でしょ!? 人をガマガエル扱いした上に転んじゃった女子を置いて帰っちゃうの!? 見捨てちゃうの!? ちょーサイテーなんですけど!!
でも、違った。それは私の勘違いだった。
「乗れ」
「の、乗れって、どこに連れて行くんですか? そもそも自転車の二人乗りは校則違反なはずじゃ……」
「病院だ。校則なんて知らねえ。俺が決めたわけじゃねえ」
「え、えっと……びょ、病院は大丈夫です! 頭から血も出てませんし」
「逆だ。血が出てた方がまだマシだ。頭の中では出血してるかもしれねえ。それに頭を強く打ったことに変わりはねえ。後になって何かあるかもしれねえからな。一応、ちゃんと検査してもらえ」
「で、でも……」
「黙って乗れ、ガマガエル」
「は、はい……」
校則を破ることに少しの罪悪感を覚えながら、自転車の後ろの荷台に腰掛けさせてもらった。なんだろう、この人。すっごく不思議な人。イヤな奴だと思ってたら、私のことを心配してくれたりするし。
私の中の感情が上手く整理できない。
「あ、あの……お、お名前を訊いてもいいですか?」
「俺の名前なんて知る必要なんかねえ。とりあえずクソ野郎とでも呼んでおけ」
「そんなの無理ですよぉ。先輩なわけですし」
この後、この人が名乗った名前を聞いて、確信した。
絶対に、この人が運命の王子様だと。何故そう感じたのか。
それは――
「……まあいいか。仁。黒宮仁だ」
この人こそが、今朝、華ちゃんが言っていた『黒宮先輩』だったからだ。
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