◻︎離婚に向けて
「はい、これ…」
私は自分の口座から下ろした百万円の束を、旦那に渡した。
「え?これって、洋子のお金でしょ?」
「そうよ、私の貯金の半分。あなたにあげる、好きに使って」
「そんな、僕が働くから大丈夫だよ」
なんだか半分泣きそうな顔に見える。
この人はこうやって、全力で私を見てくれてたんだと改めて思った。
でも、私はもうそれに応えるのが苦しい。
「もういいよ、私のためにそんなに無理しなくても。ずっときつかったよね?もっと早く気づくべきだったね、私のせいだよね?」
旦那は下唇をギュッと噛んだままうつむいている。
「でも、もういいから。離婚しようよ、あなたも自由になるべきだよ。私のためにとしてくれてたことが実は、あなた自身のためだったのかもしれない。どこかで薄々気づいていたのに、見ないふりで甘え続けていた私は、ひどい奥さんだね」
「離婚したら、洋子はどうするの?」
「どうもしない、今の仕事をできるだけ続けて一人で暮らしていくつもりだよ」
「僕はどうすればいい?」
「…実家に帰ってみたら?お父さんたちのことも気がかりなんでしょ?」
旦那は次男で跡を継ぐ予定はなかったけど、長男夫婦とお父さんたちがうまくいかず別居になったと聞いていた。
「私にしてくれたみたいに、お父さんお母さんに優しくしてみたら?誰かに優しくしてありがとうって言われることが、あなたの幸せかもしれないしね」
「……」
「ホントは、借金を二人で返していかなきゃいけないのかもしれない。でもね、苦しいのあなたと一緒に暮らすことが。私といない方が自由になれるはずだから、これからは自分のために生きていって」
「…もう会えないの?」
「え?」
「もう会いたくもないくらい嫌いになった?僕のこと」
「そんなこと言ってないよ、距離の問題だと思うよ夫婦の。少し離れたらまた会いたくなると思う。その時は会おうよ」
ぱぁっと旦那の顔が明るくなったように見えた。
「わかった。借金のことを黙っていてごめんなさい」
「私こそ、気づかなくてごめんなさい。これは、せめてもの償いというか感謝というか。
その百万円。借金も半分にしなきゃいけないんだろうけど、ごめん」
「いいの?」
「うん、私も同じ金額あるよ。それぞれの新生活に使おう!」
「ありがとう…」
旦那が泣いているように見えて、私も涙が込み上げた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!