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「食事会の件だが、彩香(アヤカ)さんが決めてくれて構わない。いつも悪いね、じゃあ」
あと二か月か、ようやく終わる。
通話を終えて席に戻ると、スマホに着信があり席を立った時には空席だった場所に意外な人物が座っていた。
その人は熱心に従兄弟であるBAR Crowのオーナーであり優れた技能をもつバーテンダーでもある烏星(エボシ)和也と話しをしていた、というよりもクダを巻いているともいえる剣幕の彼女の姿を見たのは初めてで新鮮だった。
俺が席につくと一瞬、和也がこちらを向いたので人差し指を口元に当てて“無視”をしてもらうことにした。
「それは無い!私よりもうんと若い女の子にエッチが忘れられなくて~とか言われていたし、給湯室にいたんだけど『ここでしよう』とかなんとか言っていたし。なにより、追いかけて来てはくれなかった」
どうやら恋人の浮気現場に直面したようだ。
彼女、豊田雪は株式会社ISLANDの常務専任秘書で俺の同僚であり先輩であり俺が想いを寄せている女性でもある。
一年ほど前まで海外事業部台湾支局にいた。
ISLANDでは海外事業部が一番の花形と言われていて、出世の早道などと言われるがその分仕事量は多い。
逆の言い方をすると多くの仕事をこなす頭脳と要領を備えているメンバーが揃っていることで、おのずと出世をする人間がこの部署の出身者が多いと言うことだろう。
かと言って全員が仕事も出来て要領がいい人間ばかりでなく、要領だけはよく中身の無いヤツもいる。
そう言うヤツは自分を磨くことよりも、足を引っ張り自分の下になりそうな人間を作ろうとする。
たまたま俺の同僚にそんな男が居た。
勝手にライバル視をして何かと対抗してきた。
仕事に支障をきたすことのないお互いが良い刺激を受けるライバル意識は歓迎だがそうではないことが問題だった。
そして、女性にだらしがない的な話をでっち上げて面白おかしく他の同僚や飲み会で出会ったばかりの女性にも吹聴していたが、内容が丸っとその男自身のことでつい笑ってしまったことがある。
そのかわり、あからさまなエリート狙いの女性陣から警戒され近づいてこなくなったのはある意味、僥倖だった。
俺は全員に好かれる必要はないと思っている。
わかって欲しい人にだけわかって貰えればいいのだから。
こんな噂を引っ提げて秘書課に異動になった俺はすっかり悪目立ちしていた。