「…ずっと、待ってたんだぁ…」
その破壊力抜群の一言で、阿部亮平の勝利は、もはや幻と消えた。
いやそもそも、これは勝負ですらなかったのかもしれない。
全てはこの瞬間にたどり着くための、二人だけの壮大な“お芝居”だったのだとようやく悟った。
阿部が呆然としながらも、その唇に吸い寄せられていくと佐久間は、満足そうに目を細め、その首にそっと腕を回した。
唇が離れた時佐久間は、熱っぽい吐息で囁く。
「いーよ…?」
「おいで…!」
その全てを許し、受け入れる甘い響きが阿部の脳を直接、刺激する。
もう理性の箍は、ほとんど外れかけていた。
阿部はそのまま、佐久間の首筋に顔をうずめ、その匂いを確かめるように、深く息を吸い込んだ。
「…もう」
「後悔、しないでね…!」
その言葉が最後の合図だった。
阿部はゆっくりと、しかし確かな手つきで佐久間の体のまだ硬い部分を、優しく、丁寧にほぐし始めた。
焦らなくてもいい。時間をかけてこの愛おしい体を、自分色に染め上げていく。
しかしそんな阿部の決意を、佐久間は、いとも簡単にかき乱してくる。
阿部の指が敏感な場所に触れるたびに、佐久間は、わざとらしく甘い声を漏らした。
「んっ…、あ、阿部ちゃん…きもちいーよぉ…」
「……。」
「だいすき…っ。…あ、好きって言ったもん勝ちだもんね…笑」
そのどこまでも無邪気で、しかし計算され尽くしたかのような甘い挑発。
(もーおぉぉ!!煽ってくんなぁ!!)
阿部の心の中の叫び。
もう限界だった。
このままでは、自分がもたない。
「…佐久間」
掠れた我慢の限界を知らせる声。
「もう、いれたい…」
その切実な願いに、佐久間はくすくすと楽しそうに喉を鳴らした。
そして阿部の耳元に、悪魔のように囁く。
「だーめ」
「ちゃんとさいごまでほぐして?」
それは紛れもない、向こうからの“寸止め”。
自分がやろうとしていたことをそっくりそのまま、返されてしまった。
(…また、負けた…)
阿部は心の中で、本日何度目かの幸せな白旗を上げた。
どうやらこの男には、ベッドの上ですら敵わないらしい。
でもまあ。
目の前で自分にだけ見せてくれる、蕩けきった、最高に可愛い顔を見ていると。
(…もうどっちが勝っても、いいや)
そんなどうしようもないほどの幸福感に、全身が満たされていくのを感じながら。
阿部は愛しい勝者の命令に従うべく、その夜世界で一番優しい手つきで、彼を愛し続けた
コメント
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これ投稿するの久しぶりだ…笑