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二人きりの部屋、花が舞う底

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二人きりの部屋、花が舞う底

5 - 第5話……ねぇ

♥

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2022年10月16日

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が初めて彼を見た時、それはもう酷くやつれていて……今にも死にそうな顔をしていた。

私は彼のことをよく知っている。

なぜなら私が彼をここまで追い詰めてしまったのだから。

『……ねぇ』

私の呼びかけに反応して顔を上げた彼の瞳は虚ろだった。

その表情を見て確信した。ああ、これはダメだと。

今の彼には何も残っていないのだ。

家族も友も未来も希望も何もかも失ってしまったのだろうと。

そう思うと胸がきゅっと締め付けられるような痛みを感じた。

けれど同時に喜びに似た何かを感じていることもまた事実であった。

これでようやく私は救われるかもしれないと思ったからだ。

ずっと抱えてきた罪悪感から解放されて楽になれるかもしれないと思った時もあったけれど、結局それは叶わなかった。

彼女は自分の犯した罪を償わなければならないのだ。

それが自分に出来る唯一のこと。

だから、今更逃げるわけにもいかない。

例えその結果自分が死ぬことになったとしても――。

***

「……えっ?」

唐突に訪れた浮遊感。直後、全身を襲った衝撃と共に視界いっぱいに広がる地面。

一体何が起こったのか理解できずに混乱しながらも反射的に身体を起こしてみると、いつの間にやら自分は地面に倒れ込んでいたらしく、目の前には大きな水溜りが広がっていた。

そしてその水面に映った自分自身の顔を見て、ようやく今の状況を呑み込む。

(そっか、私……)

崖の下へと落下してしまったのだ。

一瞬の出来事だったが故に実感はないが、恐らくは運悪く足を滑らせてそのまま転落してしまったのだろう。

そう結論付けたところで改めて辺りを見回してみるものの、近くに人影らしきものは見当たらない。

それどころか、少し離れた先に聳える高い岩壁によって完全に分断されてしまい、道と呼べるようなものすら見当たらなかった。

つまりここから自力で抜け出す術はないということであり、このままここでじっとしていた所で助けが来る見込みはまずないだろう。

ならば、これから先どうなるのか? そう考えること自体が無意味だったのだ。

未来なんてものは結局のところ誰にも分からない。だから過去や現在といったものも全て等しく意味を持たない。それは、もう既に分かっていることだ。

それでも考えてしまうのは何故なのか。……答えは既に出てしまっているようなものなのに。

■ ■ ■ ■ ■

「―――――あぁあああっ!!」

少年の声とも取れるような叫び声を上げて、その人は床に倒れ込んだ。

ここは地上にある『ラトレイア家』の屋敷の中。そして今叫んだのは僕、『リク・サルバトーレ』だ。

僕はついさっきまで屋敷の中にある訓練場で一人剣を振り続けていたのだが、今は汗を流して着替えたところだ。ちなみに僕の後ろでは母様がクスクス笑っている。

「そんなに大きな声で叫ばなくても聞こえてるわよ?」

「そ、それじゃあもっと早く止めてくださいよ!」

「あら、あなたたち……。そんなところで何をしているのかしら?」

ふいに声をかけられ振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。その女性は僕たちのことを上から下までじっくりと見つめると、「ふうん」と言って小さく笑った。

彼女は長い髪を頭の後ろできっちりとまとめていて、眼鏡をかけた知的な美人だった。服装はスーツ姿で、いかにも仕事ができそうな感じに見える。年齢は二十代後半くらいだろうか? しかしそれよりも気になることがあった。それは彼女が頭の上にウサギの耳を乗せているということだ。もちろん作り物ではない。ぴょこぴょこと動く本物そっくりのウサミミだ。

僕の視線に気付いたらしく、女性は自分の頭に手をやった。

「ああこれね。私、実は兎人族だから」

そう言ってウインクをする。なるほど言われてみれば確かに兎っぽく見える。それにしてもこんな場所に住んでいる人が居るとは知らなかった。僕は改めて彼女を観察する。身長はそれほど高くなく百六十センチ程度。髪の色と同じ灰色の瞳をしている。

「それで君たちはどうしてここにいるのかな?」

再び同じ質問を投げかけられる。僕はどう答えたものか迷っていたのだが、先にラティアナの方が口を開いた。

「わたしたちがここにいたらダメなんですか?」

少しだけムッとしたような表情を浮かべている。見知らぬ人に話しかけられて警戒しているようだ。もっとも、それも無理はないかもしれない。この場所はあまり人の出入りがないせいなのか、鬱蒼と茂っている森のせいで昼間でも暗いのだ。子供が一人で来る場所ではないのだから。しかし、その女の子はそんなことは気にしていないのか、僕のことをじっと見つめて首を傾げながら何か考えているようだった。

「……あ! わかった!」

突然、彼女は大きな声を上げた。僕は驚いて肩を大きく揺らしてしまった。

「君、今日ここに引っ越してきた人でしょう? そうだよね?」

「えっ!?」

なぜ分かったのだろうか。確かに僕の名前は『ハル』だけど、まだ誰にも話してなかったはずだけど……。

二人きりの部屋、花が舞う底

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