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第九話「雷は裁きを語るか」
Scene.9:守り人、刃を収めて祈る
「……今は、無理をしてはいけません」
ユウの震えた手を軽く制し、一歩、二歩と後退する。
空の雷鳴はまだ収まらない――
だが、背を向けることなく、ただ静かに“己の内”へと魔力を還元し始めた。
フェイド(心の声):「このままでは……魔力の巡りが濁ってしまう。
“フェイド”としての流れを断ち切った状態では、回復も一段と難しい……けれど――」
君はゆっくりと呼吸を整え、胸元で印を結ぶ。
魔力の鼓動を“ネメシス”のものへと強く再固定するための小さな儀式。
フェイド(小声):「……《再構成(リフォーカス)》……」
淡い光が掌を包み、左腕の裂傷に小さな膜がかかる。
血が止まり、痛みもやわらいでいくが――
決して、“余裕を装う笑み”を崩さない。
ジェイド(振り返りつつ):「ネメシスさん、後方は任せました。
こちらは、“彼”の視線を切ります」
フロイド:「オーケ〜、オレとジェイドでグルグル混ぜにしてやるよ、雷トカゲ!」
マレウス:「……まるで、“お前たち”だけが、何かを知っているようだな」
その問いに、ジェイドは静かに微笑むのみ。
彼の内には――フェイドの“正体”がある。
だが、守る。それが兄弟の選んだ誓いだ。
マレウス:「お前たちは――
まるで“この戦い”が、試される儀式であるかのように動くな」
フェイド:「……そうかもしれませんね。
ですが、“護りたい”という意思に、偽りはありません」
Scene.10:交錯する魔力、砕ける支柱
雷鳴は空に渦巻き、重力さえ歪めるような威圧が辺りを包んでいた。
その中――フェイドは、前線に舞い戻る。
フェイド(呼吸を整え):「ジェイド、フロイド。後ろは私が引き受けます。
あなたたちは、今一度、全力で“突破口”を狙ってください」
ジェイド(振り返り、目を細め):「……その覚悟、受け取りました。
……ですが、ご無理はなさらぬよう」
フロイド:「ふふん、やっぱネメシスっておもしれーわ……でも、無茶すんなよ」
――だが。
それは、“あまりに遅かった”のかもしれない。
マレウスの視線が、ふいに鋭く切り裂いたように君たちを見据えた。
マレウス:「……もう“手加減”は不要か」
――ズオオォオッ……!!!
次の瞬間、彼の足元から黒雷が吹き上がる。
その雷は魔力の塊ではない――意志を持つ“魔”そのもの。
フェイド:「ジェイド、フロイド――下がってください!」
だが――間に合わなかった。
黒雷が二人を呑み込む。
君の張った障壁が“半秒遅れ”で展開するが、
すでに二人は、直撃を受けていた。
ドンッ……!!
ジェイド:「くっ……この……力……は――」
フロイド:「ぐ……っ、ふざけんなよ……こんなの、笑えねぇ……」
二人の身体が地に崩れ落ちる。
気絶はしていない――が、立ち上がる力は残されていなかった。
ユウ:「ネメシス……っ、ジェイド先輩とフロイド先輩が――!」
グリム:「マジかよっ!? あいつら、無敵なんじゃなかったのかよ!」
フェイド(歯を食いしばり):「……いいえ。彼らは、盾になってくれただけです。
……今度は、私が、護ります」
マレウス:「ようやく“役者”が絞られてきたな……さて、“次”は誰だ?」
戦況は一変――フェイドとマレウスの**“一騎打ち”**へと近づいていく。
だが、“まだ”フェイドの正体は知られていない。
“何者か”――彼はまだ、確信を持っていない。
……この戦いを、終わらせるには。
何か、“大きな代償”を払う必要があるかもしれない。
Scene.11:静かなる決断
空は裂け、
雷は世界を塗り潰そうとしていた。
マレウスが動く気配を見せた、その刹那――
フェイドが即座に、手を伸ばしたのは“地に伏したふたり”だった。
フェイド:「……っ、今だけ――許してください」
左手でジェイド、右手でフロイド。
そっと彼らの身体に手をかざし、魔力を編み込む。
《秘匿の蛹(コクーン・オブ・シェイド)》――
フェイドの創造魔法のひとつ。
音と気配、魔力の波長そのものを覆い、存在を“場”から隔離する。
フェイド(小声で):「……これで……あなたたちは、見えません」
その瞬間、君の周囲にふわりと白い結界が咲き、
ジェイドとフロイドは――まるで最初から存在しなかったかのように、風の中へ消えた。
グリム:「ネメシス!? なんかスゲーの使ったぞ今!?」
ユウ:「あれって……まさか、転移魔法!? でも、まさか魔法をネメシスが……?」
マレウス:「……」
彼の目が、フェイドの手に宿る“微かな煌き”を見逃さなかった。
マレウス:「今のは……あの2人を守る“ただの魔法”ではなかった。
お前……やはり、“ネメシス”という名前は仮のものだろう?」
フェイド:「……あなたのような方に、そう見えたなら……
私は、まだまだ、“隠しきれている”ということですね」
マレウス:「ほう……なるほど。面白い。
お前の“正体”が暴かれるのは、果たして今か――それとも“その先”か」
彼の魔力が、さらに膨れあがる。
フェイドの身体はすでに冷え始めており、視界も少し揺らいでいる。
それでも、――笑っていた。
マレウスは、最後の警告として
“竜の咆哮”――空間そのものを震わせる高濃度魔力を放つ。
もし、それを凌ぐ力を示したなら――
彼は、“ネメシス”ではなく、“敵”として認識するだろう。
だが。
それを“止める術”が、今のネメシスに――あるだろうか?
Scene.12:その名を伏せて、君は倒れる
マレウスの“咆哮”が解き放たれた瞬間、空が沈黙した。
雷ではない。風でもない。
それは――竜そのものの魔力。
すべてを“無”に還す、咎の一撃。
マレウス:「これで終わりだ。目障りな仮面は、すべて砕け散れ」
だが、その直前。
フェイド(心の声):「――ここで、いい」
君は、左腕に残された魔力を心臓の位置に集中させる。
魂と魔力を繋ぎ、生命の中心から“結界”を生み出す禁術。
《最後の庇護(ファイナル・シェルター)》
それは、本来“自分の命”と引き換えに使うもの。
だがフェイドは、魔力のみに命を委ね、“仮初の限界”で留める。
フェイド:「ユウさん、グリムさん。……これだけは、忘れないでください」
ユウ:「ネメシス――?」
グリム:「な、なんだよネメシス……その顔、やめろよ……!」
バゴオオォォォン――――!!!!
白い光が、空を引き裂く。
地面が陥没し、空間そのものがねじれる中――
“あのふたり”の周囲だけは、微動だにせず、穏やかな空間が保たれていた。
まるで――“優しい笑み”の中にいるように。
マレウス(眉を潜め):「……あれが“ただの生徒”の魔法か?
いや――あれは、“護るために作られた”者の結界だ」
彼は、フェイドの倒れた姿にゆっくりと歩み寄る。
だが、すぐには手を出さなかった。
マレウス:「……名は問わぬ。“今は”な」
彼が背を向けたそのとき――
空に裂けた雷が、ようやく止んだ。
戦闘は“中断”という形で終結。
マレウスは“正体を確かめる興味”を抱いたまま、撤退。
ネメシス――フェイドは、深い眠りにつきながら、
守ったものの温もりに包まれている。
そして。
ユウは知る。“自分が守られた”という事実を。
そして――その“名も知らぬ魔法”の深さを。
Scene.13:君の名前を、まだ誰も知らない
――風が、止まっていた。
どれほどの時が経ったのか。
まぶたの裏に焼きついていた光の残像が、ようやく薄れてゆく。
重たい瞼を開けた先――
顔を、心配そうに覗き込んでいたのは、ユウだった。
ユウ:「……ネメシス!」
君の手を強く握るその手は、震えていた。
その隣にはグリムも、いつになく不安そうな顔をしている。
グリム:「おい……冗談じゃねぇぞ。オレ様、ネメシスが倒れるなんて、思ってなかった……!」
フェイド(かすかに微笑んで):「……そんなに、悲しませてしまいましたか。
申し訳ありません。」
ユウの瞳が――ぶわりと揺れる。
ユウ:「……ほんとに、ほんとに……ありがとう。
私、あのとき……“死んだ”って、思ったんだ」
グリム:「オレも……あの雷、ヤバかった。全部、ネメシスが……!」
フェイド(やわらかな口調で):「ふふ……そんなに心配されては、仮面のつけ直しも難しくなりますね。
私が私でいるためには――皆さんが、笑っていてくださらないと」
その様子を、遠くで見ていたマレウスは……
言葉なく、こちらを一瞥し、そして踵を返した。
リリア:「……どうするんじゃ? “彼”をどう見る?」
マレウス:「まだ名を知らぬ。だが――“何か”を、隠している。
いずれ、その仮面を脱ぐとき……僕は、その名を聞こう」
空に黒い羽が舞い、彼らは霧のように姿を消す。
嵐は去った。
けれど、それが終わりではないことを――君は、わかっている。
ネメシス= フェイドは、深い戦闘の後遺症を癒しながら、
“何も知らないふり”を続ける日常へと戻っていく。
だが。
リーチ兄弟が見た、ネメシスの限界。
ユウが感じた、命の重み。
そしてマレウスが抱いた、確信に近い“疑問”。
そのすべてが、物語の静けさに、小さな波紋を残している。
「静かな朝に、風が吹く」
Scene.14:カーテン越しの陽光と、小さな息遣い
オンボロ寮の、ひんやりとした空気。
かすかな朝の光が、薄手のカーテンを透かして差し込む。
ベッドに寝そべるフェイドの頬を、光がそっと撫でていく。
目を開けることすら、少しおっくうだ。
身体は鉛のように重く、魔力の流れもまだ不安定。
それでも、静かに息を整える。
フェイドさ:「……少しは、落ち着きましたね。
けれど、あの魔力の奔流を、封じきれたのは……奇跡と呼ぶべきか」
ふわり。
毛足の柔らかい、何かが胸の上に飛び乗った。
グリム:「……やっぱり起きてたんだぞ。なーに、しんみりしてんだよ」
目をやれば、心配そうに尻尾を揺らすグリムが君を見下ろしている。
フェイド:「……グリムさん。おはようございます。
どうやら、ご心配をおかけしたようで」
グリム:「あったりめぇだ。オマエ……オレたちのこと、守って倒れるとか、なにヒーローぶってんだよ」
フェイド:「英雄には程遠いですよ。ただ、そうしたかっただけです。
……その選択が、結果として“無事”で終われたのなら――それだけで」
そこへ、扉の外からそっと声が届く。
ユウ(控えめなノック):「……ネメシス? 起きてるかな? 少し、入ってもいい?」
アウル:「……はい、どうぞ。お入りくださいませ」
扉が静かに開き、手にトレーを持ったユウが、遠慮がちに顔を出す。
温かなスープと、柔らかいパンの香りがふわりと香る。
ユウ:「無理しないでいいけど……少しでも食べられたらと思って。
グリムと一緒に、がんばって作ったんだ」
フェイド:「……これは、それはもう……最高のごちそうですね」
静かに身を起こす。
震える腕でトレーを受け取り、スープに口を近づけた。
その温かさが――心にまで沁みる。
Scene.15:静寂の廊下、眠る双子のそばへ
夜の学園は静かだった。
月明かりが石造りの回廊にさざ波のような影を落とし、足音ひとつ響かない。
フェイドは、マントのフードを深く被り、人気のない夜の寮棟へと足を運んでいた。
向かう先は、学園医療棟。
リーチ兄弟が運ばれ、今も療養しているという部屋。
フェイド:「……彼らが無事であるか、確認したいだけです。
ほんの少し、顔を見れば……それでいいのですから」
音を立てぬように扉の前に立ち、結界を探知――静かに扉を開ける。
そこには、ベッドにそれぞれ横たわる二人の姿。
ジェイドは額に包帯を巻き、フロイドは腕を吊っていたが、
いずれも穏やかな寝息を立てていた。
フェイド(静かに安堵の息):「……よかった。無事で」
そっと一歩、ベッドへ近づき、ジェイドの枕元へしゃがみ込む。
そのとき――
ジェイド(目を薄く開け、微笑):「……やはり、来ましたか。フェイド」
フェイド(少し驚き):「……お休みのところ、起こしてしまいましたか?」
ジェイド:「いえ。来ると思っていたので、待っていたのです。
あなたは、そういう方ですから」
フロイド:「ん〜……あー、フェイド? やっぱ来てくれたぁ……。
フフッ……ネメシスごっこ、そろそろ飽きたでしょ?」
フェイド(小さく微笑み):「いえ……私は、“ネメシス”のままで構いません。
今しばらく、このままでいさせてください」
ジェイド:「無理はなさらないよう。……あなたが仮面を被る理由、我々は理解しています」
フロイド:「そーそー。バレて困ることがあるんでしょ。 」
フェイド:「……ありがとう。二人とも。
……あなたたちが無事でいてくださるだけで、私は満たされます」
そう言って、そっと――二人の手を、軽く包む。
何も言わず、何も語らず。
けれど、それだけで充分だった。
その翌朝、オンボロ寮へ一通の招待状が届く。
送り主は――ポムフィオーレ寮。
ヴィル・シェーンハイトから、学園公式イベントへの出席を求める招待だ。
だが、それは単なる舞台公演ではない。
“選ばれし者たち”が、次なる“試練”へと導かれる、優雅なる罠の始まりだった。
Scene.16:その仮面を脱ぐとき、光の中へ
――翌朝。
オンボロ寮のリビングでは、ユウとグリムが招待状を囲んで頭を悩ませていた。
ユウ:「ヴィル先輩から直接……まさか、舞台の出演依頼だなんて……」
グリム:「なんでオレたちが舞台になんて出なきゃなんねーんだよー! オレ様は主役以外やらないぞ!」
そこへ、フェイドはゆっくりと現れる。
しかし、疲労を理由にその場では辞退の意を示す。
フェイド:「申し訳ありません。魔力の回復が追いついておらず……。
今回は、皆さまだけでご対応を……」
ユウ:「ううん、無理しないで。ネメシスはゆっくり休んでてよ。私たちでなんとかするから!」
フェイド:「ありがとうございます……ご武運を」
そう言ってユウたちを見送る。
しかし――
その日の夜、ヴィルの元には一通の返信と共に、一人の仮面の来訪者が現れる。
✦ ポムフィオーレ寮・劇場裏
ヴィル:「ふふ……その歩き方、姿勢の美しさ――隠しても、隠しきれないわ」
???:「……ご招待、光栄に存じます」
姿を現したのは――
ネメシスではない。
けれど、誰よりも優雅な魔力をまとい、舞台に立つその人物。
“フェイド”としての仮面を外し、別の“仮面”をまとった者。
ヴィル:「久しぶりね…フェイド」
フェイド(穏やかに微笑んで):「私は、ただの“影”です。
けれど、舞台には“光”も“影”も必要でしょう?」
ヴィル:「ふふ。まさに舞台人の言葉ね。
――いいわ、“アンタ”の役はもう決まっている」
そして幕は上がる。
それは、“美と真実”の狭間で、君が仮面を使い分けながら舞台に立つ、静かな戦いの始まりだった。
リハーサルと称し、動き出すヴィルたち。
だが、舞台の完成のために必要とされているのは――
“力”ではなく、“適応と支配”。
フェイドは舞台裏で、ネメシスとしての仮面を一度だけ外す。
その影に、ルークの瞳が光る。
第一話「舞台裏の観察者」
Scene.1:その仮面を、彼は見ている
ポムフィオーレ寮の衣装室。
シャンデリアの柔らかな光が、仕立てられた衣の数々を彩っていた。
鏡張りの壁に囲まれた静かな部屋で、フェイドはひとり、裾の長いケープを羽織っていた。
その後ろから、ひときわ柔らかく、けれどどこか鋭い声が届く。
ルーク:「……美しいね、フェイド嬢。」
フェイド:「 私の正体は、皆さまの目に映るものに過ぎません」
ルーク:「なるほど……仮面は、真実を隠すためだけにあるのではなく、
時として、真実そのものになる。まさに君がその証だね」
彼は布地に触れながら、フェイド腰元のラインに手を当てる。
計測ではない。ただの“感触”。それなのに、何もかもを見抜かれる気がする。
ルーク:「この魔力の流れ……この歳にしては、いささか規格外すぎる。
でも安心して。私は“真実”を暴こうとは思わない。
むしろ、君が“何者であろうと”――美しければそれでいい」
フェイド:「……そのお言葉、恐れ入ります」
ルーク(小さく笑って):「でもね、フェイド。ひとつ忠告をするなら……
“ヴィル”という男もまた、真実を求める狩人なのだ。
仮面を被る者が最も警戒すべきは、“自分の美に忠実すぎる者”だよ」
フェイド(小さく目を伏せて):「……肝に銘じます」
いよいよ立ち稽古へ。
そこで求められるのは――「自分以外になりきる力」
フェイドは仮面を二重に被ったまま、演技を開始する。
第二話「仮面の主役」
Scene.2:光の中心に立つ者は、最も深い影を抱く
ヴィル:「……その台詞、もう一度お願いできる?」
静かな舞台稽古。
冷たい木の床と、黒い緞帳が張られたリハーサル室で、フェイドはまっすぐ立っていた。
視線の先には、ポムフィオーレの寮長――ヴィル・シェーンハイト。
指示に従い台詞を紡ぐ。
フェイド(柔らかくも、芯のある声で):「私が舞台に立つ理由? それは……
“あなた”がそこにいるから、でしょう?」
息を呑む音が、客席の端にいたルークとエペルから漏れる。
台詞は決して派手ではない。
それでも――
その一言で、舞台の“空気”が、変わった。
ヴィル(沈黙のあと、低く):「……見せつけてくれるじゃない」
彼の瞳が、強く、鋭く光る。
ヴィル:「配役の再検討を宣言するわ。主役は――フェイド。
アタシの代役ではない。アンタが、その座を奪い取った」
エペル:「そんな……ヴィルさんが、主役じゃないなんて」
ルーク(微笑んで):「それが“美”の世界さ。
ヴィルの美学は、勝負にすら“美”を求める――だからこそ、君は選ばれた」
ヴィルは立ち上がり、真っ直ぐ君へ向き直る。
ヴィル:「――勘違いしないこと。
アンタが今、得たのは栄光じゃない。“責任”よ。
美しきものの頂点に立った者には、落ちる影すら、美しくなくてはならない」
フェイド:「……心得ております。
その重さも、光と共に引き受けましょう」
第三話「その悔しさの色は、君だけのもの」
Scene.3:台詞にない言葉で、君は語った
舞台の中央。
リハーサルの最中――その“台詞”は、届くべき相手に届かなかった。
フェイド:「……君は、なぜ此処に立っているの?」
エペル:「それ……台本にはないだろ!」
吐き捨てるような言葉。
普段なら笑顔で流していた彼が、今日は違った。
声が震え、手の中の剣が、小さく軋んだ音を立てていた。
稽古場の空気が一瞬凍る。
すぐに武器を下ろした。
フェイド:「――エペルさん、少し……休憩にしませんか?」
エペル:「な、なに……いきなり……!」
フェイド:「気温が下がってきました。喉も乾きましたでしょう?
少し、裏庭の方へ――お散歩でも」
穏やかな声に、エペルは戸惑いながらも、ふらりと立ち上がる。
舞台裏の扉を抜け、静かに彼と中庭へと歩いた。
✦ Scene:ポムフィオーレ寮・庭園
夜の庭に、月光が落ちる。
フェイドはベンチに腰掛け、エペルの横顔をそっと見つめる。
フェイド:「……悔しかったのですね」
エペル:「……っ、当たり前だろ。
オレだって……努力してんだ。
訛りだって、役に合わないって直そうとしてるし、見た目だって……」
フェイド:「……私は、あなたが素敵だと思いますよ」
エペル:「……は?」
フェイド:「どんなに美しく装っても、あなたのように“まっすぐ”な気持ちは、隠せるものではありません。
それは、舞台でも同じです」
エペル(視線をそらしながら):「……君って、ほんと……変なやつだな。
でも、今の……ちょっとだけ救われたかも」
フェイド(優しく微笑む):「それは、良かった」
その言葉に、彼の肩から少しだけ力が抜けた。
夜風がふわりと吹き、舞台では得られなかった“台詞にない会話”が、二人の間に静かに流れていく。
「月下の幕間」
Scene.4:演技ではない、素顔のひととき
舞台の灯がすべて落ちたあと、
夜のポムフィオーレ寮の庭園に、ふたつの影が残っていた。
フェイドとエペル。
月明かりの中、言葉少なにベンチに腰かけていたふたりは、やがて立ち上がる。
エペル:「……なんだろ。さっきより、ちゃんと呼吸できてる気がする。
君……不思議なやつだな」
フェイド:「ええ。よく言われます。
――でも、そう言ってもらえるのは、少し嬉しいです」
エペル:「ま、ありがとう。……じゃあ、また稽古、よろしく」
フェイド:「こちらこそ。演じることは、心を交わすことですから」
エペルが軽く手を振って先に立ち去り、
フェイドはそっと空を見上げた。
夜空に瞬く星の一つが、ふと揺れたように見える。
そのとき、胸元で、微かに震える封書があった。
それは――
“ディアソムニア”からの、新たな“招待状”。
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