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八雲瑠月
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エロス部長がマンケンと勝負する事になった事情を教子先生に話した。すると、教子先生が青ざめた表情になったかと思うと、頭が痒くなったかのように両手で髪を掻き、苦虫を噛み潰したような表情でエロスを見た。
「マンケンと勝負だぁ!? お前達はいったい何をやっているんだ!? 部長のお前がいながら、なぜ止められなかった!?」
「ですが!? マンケンいえ、画竜点睛という考古学科の一年はラノベを侮辱したのですよ! 愛さんが勝負すると言うのであれば、私達も引き下がれませんわ!」
「エロス、気持ちは分かるが、部長ならそこは抑えろ! マンケンの顧問の先生とは仲が良かっただけに残念な事件に発展した。合同企画でマンケンに挿絵や描いて貰ったり、お前達にマンケンの漫画原作を書いてもらう内容を企画していたんだぞ! だいたいスケジュール的にお前達は新人賞の応募作に挑んでもらう予定もあった! それを全て無駄にする気か!」
「ご、ごめんなさい教子先生!? わたしが画竜君の勝負を了承してしまったから!?」
愛が申し訳なさそうに教子先生に向け、小さく頭を下げる。
「……分かった。新聞部が盛り上げてしまってはもう中止にはできないだろうしな。既に新聞部がラノケンとマンケンの対決を学校関係のブログで掲載してしまっている。勝つしか方法はないだろう」
教子先生は溜息をつくように言った。
「マンケンに勝つ方法はあるんですか? さすがに漫画とラノベじゃ認知度は違いますし、読者層もだいぶ違いますよね?」
書也が言うと、教子先生が今度は本当の溜息をつく。
「そこだ。絵が好きな人間と文字で物語を読むのが好きな人間とでは読者層がそもそも違う。そして一番の問題はラノベの認知度だ。ラノベはアニメ化によって、認知度は高くなってきてはいるが、漫画ほどではないし、文字を読むのが嫌いな人間は未だに多い。文字より絵の方がインパクトがあるし、動きの表現があるぶん、分かりやすいからな。これは確実に分が悪い賭けと言える」
「それでも勝てますわ! 私達は純文学を書いている訳ではありませんわ! よりエンターテイメントを求めるラノベです! 漫画には引けを取りませんわ!」
エロスにしては珍しく熱く言い続ける。そして同調するように友美も立ち上がった。
「そうです先生! ラノベを馬鹿にされたまま、引き下がれません!」
狂犬のように吠え始めるエロスと友美の二人に教子先生は再び溜息をつく。
「ふう……お前達が作家になった時にSNSでお前達の小説作品が馬鹿にされていたら、いつもそんな反応をとるのか? 身が持たないぞ。じゃあ、エロス。純文学とラノベの違いは何だ?」
エロスは少し考えてから答える。
「そうですわね……中高生向けである事と表紙絵と挿絵が付いているぐらいの違いでしょうか?」
「そうだ。ライトノベルの対象年齢は十代の少年少女で、表紙絵や挿絵でキャラや世界観をイメージしやすいようにしてある。その他にも文章も読みやすいように配慮がなされていたりする。マンケンに対して文字だけで勝負するのは難しい。そこでラノケンの作品にはラノベらしく、文章に表紙絵と挿絵を付けて勝負する……どうした怪奇? 不満そうだな」
教子先生はむすっとした表情で見る幽美をチベットスナギツネの眼で視線を返した。
「勝負するのは良い……でも、ラノケンがマンケンに対して絵で勝負するのはちょっと納得できない」
「怪奇、お前はいずれラノベのプロ作家になるんだろう? そうしたら嫌でも表紙絵や挿絵が付く。そのへんは納得してもらわないと困るぞ。お前が表紙絵や挿絵を頼むときの練習だと思えばいいだろ」
「ゴーストライターやってた時にプロの絵師に表紙絵なら何度も頼んだ事ある。どの絵師も真摯な態度で接して、イメージ通りに描いてくれた……けど、あの絵師? あの漫画家死亡野郎は別!」
幽美は思わず長机に置いてあったノートをペーパーナイフで切り裂き始めていた。その声も途中で裏返り、イントネーション的に恐らくは「漫画家志望」が「漫画家死亡」になっていたのがはっきりと分かってしまうぐらいである。
「ペーパーナイフだろうが、その物騒な物をしまえ怪奇」
「は……はい」
幽美が梟のように首を横に曲げ、威嚇したかのように教子先生を睨むと、ゆっくりと座った。
「いちいちお前の行動は怖いな……ところでお前達にマンケン以外のイラストが上手い知り合い、もしくはイラストが描ける奴はいるか?」
ゆっくりと手を上げる愛に対し、エロスはウキウキとした目で手を上げていた。
「私の知り合いにたくさんいますわよ。レッドムーンの屈強なイラストレーター達が! 彼ら彼女達なら……」
「駄目だ。さすがにプロを使うのはフェアじゃないだろ。できれば年代が近い生徒、学校内での絵の上手い友人か知り合いにしてくれ」
「それは残念ですわ。皆様の小説の表紙絵や挿絵が高クオリティーになる機会でしたのに」
エロスは本気か冗談か、本当に残念そうであった。
「愛は自分の表紙絵や挿絵を描くぶんには問題ないと思うが、執筆に影響はなさそうか?」
教子先生が本当に心配そうに視線を向けると、愛は笑顔を見せる。
「教子先生、わたしにみんなの表紙絵と挿絵を描かせてください!」
「それは構わないが……誤植、お前の執筆時間はイラストに裂かれる事になる。間に合わせられるのか? 私が考えているルールでは一ヶ月ぐらいしかとれないぞ」
「なら、私も手伝いますわよ愛さん。これでもレッドムーンのイラストレーターを手伝っていましたわ」
「どの程度のクオリティーを出せる?」
教子先生が聞くと、エロスがノートPCを開き、USBメモリを挿入する。エロスは素早いマウス操作ですぐさま画像フォルダを表示させた。
「頭身が高い人物は中学生程度の画力ですが、レッドムーンでデフォルメ絵や背景絵を手伝った事がありますので、こちらならプロに負けないレベルです。その他にもタイトルロゴなどの表現もサポートできますわよ」
エロスの画像フォルダに表示されているイラストはまるで、子供向けシールのような天使や悪魔、グリフォン、ゴーレムなどのファンタジー的な二頭身イラストばかりであったが、背景は絵画のようなクオリティーで、タイトルロゴもゲームのような凝った作りの表現が多かった。
「助かるよエロスちゃん」
「これでも部長ですわ! 任せなさいな!」
エロスは胸を叩くような仕草で言った。