テラーノベル
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「スタン……ガン?」
「御名答よ」
女が手に持つのは護身用に使われる、黒くコンパクトなスタンガンだった。
馬鹿な!? スタンガンごときでこの俺が?
スタンガンは所詮、相手を怯ませる程度の電圧しか無い。
俺の全属性耐性体の前では無効のはずだ。
「只のスタンガンじゃないわよ。ちょっと危ないルートから仕入れた特別製よ」
女は誇らしげに、手に持つスタンガンのスイッチを入れる。
“バチッ”という音と共に、蒼白い電光が煌めいたのが見えた。
「20万ボルトですって。不安だったけど、いくら貴方でも耐えきれなくて良かったわぁ」
20万ボルト……だと?
下手すりゃ死ぬぞ。俺の耐性だからこの程度で済んだものの……。
「私はどんな事をしてでも、必ず貴方をものにしてみせるわ」
逝かれてやがる。
女のそれは決意だった。冗談ではない事は、目を見れば分かる。
「貴方の身体だけじゃない……。心も……魂までもね」
女の目には俺以外を映してないのだ。
それ以外は透明な虚無が広がっているだけ。
「俺は誰にも縛られない……屈しない!」
俺は至高の存在、二階堂玲人だ。
これは高らかな宣言だった。
「こんな状況で尚、強がれるなんて……本当に素敵だわ」
強がりじゃない。これは確信だ。
確かに状況は不利。凡人ならあっさり屈するだろう。
だが俺は神だ。
神は絶対不可侵の存在。何人もその上に立つ事は出来ない。
最後には必ず正義が勝つと相場は決まっている。
「よく覚えとけよ……お前には真の神の姿を見せてやる。そして後悔し恐れおののくがいい。神の逆鱗に触れた事をな!」
俺は高らかに吼えていたのとは裏腹に、すっかり冷静を取り戻していた。
戦況は冷静さを欠いた者から先に死ぬ。
そんな馬鹿は99%の凡人だけだ。
俺は神の写し身、二階堂玲人だ。
無敵――最強――最高の存在。
これも神の試練の一つに過ぎなかったのだ。
「うふふ……それは楽しみね。そんな姿で説得力は無いけど、貴方には期待しちゃうわぁ」
女は囚われた一糸纏わぬ姿の俺を舐め回す様に視姦し、腐った笑みを浮かべながら舌舐めずりする。
せいぜい笑っていろ。
こいつは正に、その愚かさゆえ神に反逆し、地獄に堕とされたルシファーのパチもんだ。
その事実を認識した瞬間、俺は勝利を確信した。
ルシファーは神に三度挑み、敗北するのはバイーブルにも記されているからだ。
「くくく……ははははは」
俺は可笑しくて堪らなかった。この女のピエロっぷりに。
「大丈夫かしらジョン? 気が触れるにはまだ早いわよ?」
少なくともお前よりはマトモだ。
俺は既にこの状況を抜けた後の事を考えていた。
その暁には殺す? 冗談じゃない。
死は贖罪にはならないし、俺に汚点が付いてはならない。
こいつの財産は全部俺に奉納され、その上こいつは床下15センチに閉じ込めてやる。
そして朝昼晩には懺悔の糞尿を喰らわせ、一生奴隷として飼ってやるぞ。
神に反逆した自分が如何に矮小だったかを、その地獄の苦しみの中で四度思い知るのだ。
「それじゃあ今日はここまでね。明日から本格的にいくわよ」
女は踵を返し、立ち去ろうとする。
体のいい言い訳だ。
俺に恐れをなしたに違いないが、もう遅い。
「そうそう、言い忘れたけど、食事は一日一回よ」
女は思い出したかの様に立ち止まり、重要な事を口にしたがちょっと待て。
「なら今日の分は!?」
そうだ。一日一回なら今日もカウントされる筈だ。
「今日はお、あ、ず、け。明日からよ。それにお腹空かせた方が食べ物の有り難さが分かるでしょ?」
俺の存在その者が有り難いというのに、食べ物の有り難みだと?
「ふっ……ざけんな! ルール違反だ!」
俺は女の理不尽さに、すっかり落ち着いた冷静さを取り乱していた。
いくら俺でも食物エネルギーと水分が充分でないと、その本来の力は発揮出来ない。
「何言ってるのかしら? 此処では私がルールよ」
言い分はもっともだ。
「ぐっ……」
理不尽の極みだが、この状況で抗うのは得策では無い。
チャンスは必ず来る。
「それじゃあおやすみジョン。明日から楽しみにしといてね」
女はルンルン気分で再び踵を返す。
待て。こんな状態で寝ろというのか?
羽毛布団を用意するのが当然だろうに。
「待ってくれぇっ!!」
せめて毛布を――
だが女は俺の魂の叫び等聞く耳持たず、地下室から出ていった。
「暗いのはいやだあぁぁぁ!!」
そして訪れる深淵の闇。
俺は暗闇が苦手だ。神なる俺は常に光で照らされていなければならない。
「あぁぁぁぁぁ――」
だが闇は容赦無く俺の叫びを、無に掻き消していったーーー。
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