TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

二階堂君を堕落させる方法

一覧ページ

「二階堂君を堕落させる方法」のメインビジュアル

二階堂君を堕落させる方法

6 - 第6話 二日目① 食事と水分補給

♥

3

2025年06月26日

シェアするシェアする
報告する


――暑い暑い暑い!



こんな状況で寝れるか!!



俺は身体の痛みもそこそこに、空腹と、何より喉の渇きに喘いでいた。



此処が地下とはいえ夏場だ。湿度が容赦無く細胞の水分を奪っていく。



あれから何時間経った?



もう朝じゃないのか?



あの女はまだ来ないのか?



矛盾の狭間。俺をこんな風にしたあのルシファーな女を、認めたくなくとも心待ちにしていた。



悠久にも感じられた刻。そしてようやく――



“ガチャリ ギィィィ”



重苦しい鉄格子が開く様な音が聞こえた。



待ってました、と同時に遅いんだよ屑。



全く気が利かない。



「おはようジョン。よく眠れたかしら?」



女が両手に何やら抱えて降りてくる。



クロスに掛けられている為、全貌は確認出来ないが、食事である事に間違い無いだろう。



「顔色が優れないわねぇ……。ちゃんと休まないと駄目よ」



女は俺の前まで来て顔を覗き込み、ごもっともだが理不尽に諭す。



寝れる訳ねぇだろ!?



しかもこの俺に隈が出来てるはずだ。



余りの腹ただしさに、その美しいが醜い面に唾を吐き掛けたくなるが、それは得策では無いし、俺の貴重な寿液を無駄に浪費出来ない。



ここは我慢だ。それより――



「み……水を!」



それが最重要課題。まずは本来の力を取り戻さねばならない。



「ちゃんと持ってきたわよ。うふふ、あわてんぼうさんね」



いいからさっさとしろ。



女はゆっくりと手に持つクロスを剥ぎ取り、其処には丸い銀テーブルの上に手作りと思わしきサンドイッチと、500㎜ペットボトルのお茶が置かれていた。



神の食事には程遠いが、俺は飢餓からか“ゴクリ”と固唾を呑み込んでいた。



「おほほ。欲しいかしら?」



ここまできて、尚も女は焦らす。



当たり前だ。ふざけた事抜かしてないで、さっさとよこせ。



「まだ、お、あ、ず、け、よ」



何寝惚けた事を。こいつは真性のサドだ。



「欲しければ“ワン”と言ってごらんなさい」



……は?



俺がそんな事言うと思ったのか?



「ざっ……けんな! いいからさっさとよこせ!!」



勿論答えはNOだ。



俺は乾いた喉を振り絞って罵倒した。無駄な体力使わせやがって。



こいつにとっては餌付け感覚なのだろう。



犬は餌で飼える。人も金で飼える。



だが二階堂玲人を飼う事は何人にも出来ん!



何処かの誇り高き偉人が残した格言だ。



これは正に俺の為にあると思った。



「あらあら、それは残念ね……。それじゃ今日はおあずけね」



ちょっ……ちょっと!?



女は残念そうに、だが恐ろしい事をさらりと言いのける。



「まっ……待ってくれ!」



昨日から飲まず食わずで、今日も……だと?



これには流石に焦った。



「さあ今日の躾を始めるわよ」



女は本気だ。嬉しそうな熱の無い瞳の奥には、本気で俺の腹具合等、知った事では無いのだ。



まずい! いくら俺といえど、エネルギー摂取を施さないと、これから耐えられるかどうか?



凡人なら即発狂だ。



「わ、分かった!」



「うん? 何がかしら?」



惚けやがって。決心が鈍る。



「……ン」



「聞こえないわよ」



不毛なやり取り。聞こえてる癖にわざとらしい。



ええい、ままよ!



この屈辱を力に変えて――



「ワォォォォン!!」



俺は有らん限りの憎悪を吐き出していた。



「まあ! そこまで吠える必要は無かったけど……」



女は途端に目を輝かせる。



これは俺の憎悪の開放だ。決してお前の為じゃない。



それにこの屈辱の代償は、これだけで億に達する。



積み重なった負債は、開放後には国家予算も超えてるだろう。馬鹿な女だ。



「本当にジョンは私の期待を上回ってくれるわぁ。良くできました、いいコね」



お前に誉められても嬉しくないし、自分の首を締めてる事に、こいつは気付いてない。



女は御機嫌にペットボトルの蓋を開ける。



「頑張って作った甲斐があったわ」



お前の努力等どうでもいい。余計な事喋ってないでさっさとしろ。



女は飲み口にストローを差し込み、俺の口元に持ってきた。



正に命の泉、母なる恵み!



俺は即座にくわえ込み、渇きからか一気に吸収しようとするが、慌ててはいけない。



まずはゆっくりと喉を潤し、隅々にまで浸透させる。



「美味しいでしょ?」



フルーツブレンド風味のお茶だった。



林檎に近い、甘酸っぱい果実の風味と、緑茶のハーモニーが味覚神経を駆け巡っていく。



悔しいが生き返る気分だ。これ程美味なるお茶は飲んだ事が無いと思える程。



だが勘違いするなよ。



これは極限までの渇きに裏打ちされた、単なる二重効果だ。水分は水分でしかない。



ペットボトルの半分程までの水分を飲み込んだ俺は、口を離し今度は食物を求める。



俺のパクパクした口の動きを見て、女はサンドイッチに手をやり、そして――



「はいジョン、あ~ん」



そう、男なら誰でも憧れるシチュエーションだ。



だが状況によっては屈辱でしかないが、昨日から何も摂取してない状態では、筋繊維が衰えていくのが当然の摂理。



まずは最高の状態を保つ事だ。



失ったプライドは、その後まとめて返せばいい。



俺は断腸の思いで女の手から、具沢山のサンドイッチに食らいついた。



――旨い。素直にそう思ってしまった。空腹付加価値といったアドバンテージを差し置いてもだ。



卵、ハム、チーズ、レタスの普通の組合せが、絶妙のハーモニーを紡ぎ出していた。



こいつの手作りという点を除けば、非の打ち所は無い。



「そんなに美味しそうに食べるなんて……。私の愛情を受け入れてくれたのね」



図に乗るなよ。



これは生きる為の、単なるエネルギー摂取だ。



女は上機嫌だが、俺は不機嫌だ。



こんなもので誤魔化せない。フランス料理位持ってくるのが当たり前だ。



それでも生きる為に完食した俺は、残りの水分補給を促す。



「はいはい。ゆっくり味わってね」



気が利かないな。行動は一秒以内だノロマ。



俺は再度、ゆっくりと水分を身体中に浸透させていく。



それにしても旨い茶だ。



少々生温いが、染み渡る果実の香りが堪らない。



はて……これは何の果物とのブレンドだろう?



「うふふ……ジョンの為に、私の朝一番搾りを持ってきた甲斐があったわ」



口内に水分を含んでいる最中、不意に女が漏らした言葉の意味。



……は?



“ワタシノアサイチバンシボリ”



まさか……?



じゃあこの甘酸っぱいのは――



「ブハァッ!!」



俺はその事実を理解した瞬間、口に含んでいた“モノ”を噴き出していた。



「きゃあ! いきなり何するの!?」



それは女の顔面にも掛かり、突然の事に怒声を上げる。



それはこっちの台詞だ!



とんでもないものを飲ませやがって!!



「オベェッ! ゲボッ!」



俺は口に残るとんでもない“もの”を、全て浄化しようと咳き込んだ。

loading

この作品はいかがでしたか?

3

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚