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報われる影もないこの想い吐き出されるため息で溺れてしまいそう
手を取って 掬い上げてよ 君がいないと苦しくて
恋しさに身を震わせながら瞼を閉じて
頬が冷たいと泣き出すの
これは俺と貴方の恋のうた。
いつも通りの毎日。起きてシャワーを浴びる。昨日投稿したSNSの反響をチェックして、ゼリー飲料を片手に現場へと向かう。
タクシーに乗り込み、またコメントに目を通す。肯定的なコメントに感謝しながらゼリーを口に流し込んだ。
いつからか始めたこの投稿、初めは誰も気にも留めなかったが、いつからか色々な人が見てくれて、好きになってくれた。俺の生業はアイドルというものだが、アップしているのはアイドルとしての俺ではない。
片想いしている人へ抱いた届かない想いを詩にして、顔も名前も知らない全世界の人に発信しているのだ。落ち着いて説明するとなかなかに痛々しい状況だが、叶わない想いなら、いっそ綺麗に昇華したいと、この試みを始めた。
俺はそんなに勉強もできなかったけど、歌詞の意味を理解して歌いたいと思ってから国語辞書を買ったこともあり、自分の気持ちを外に出す方法を知った。意外にも性に合っていたのか、浮かんだ詩を何度も投稿しているうちに、いつの間にかネット上では結構有名になってしまった。みんな浮かばれない想いを抱えているのかな、なんて柄にもなく感傷に浸る。
好きになったのはいつからだっただろうか。
よく思い出せないほど前からずっと好きだった。きっと、子供のころから好きだった。何歳の時でも、俺の中では彼だけが輝いていて、眩しくて、そんな憧れにも似た気持ちは、年を取るにつれていつの間にか劣情も混じるようになってしまった。
そんな濁った気持ちはなおさら伝えられなくて、友達のまま何年も経ち、完全に拗らせてしまった。もはやいつになったら諦めたと思える日が来るのかを待っているような状態でもある。
昨日も好きだったし、一昨日も好きだったのだから、明日も好きだろうし、どうせ今日も未練がましく好きなんだろうと、自嘲しながらタクシーを降りた。
「おっちーーーー!!!!!おはよーピーマンでありまぁぁぁぁぁぁぁッす!!!!」
「佐久間うるさい!!!」
遅刻常習者である俺は、いつでも一番最後に楽屋に入る。
朝は低血圧気味の翔太にいなされながらも、いつも通りのテンションでみんなの元へ行く。
「国王っ!おはようピーマンであります!!」
「うん、佐久間。おはよう。」
同じメンバーの涼太にも挨拶をする。これは俺の日課。涼太へのおはようを欠かさないのは、彼が俺の好きな人だから。いつも落ち着いた声のトーンでおはようと返してくれるのが心地良い。優しい瞳が大好きだ。包み込まれているような安心感を覚える。
いつもと何も変わらない挨拶のはずなのに、毎日新鮮で、毎日うれしい気持ちになる。
おはようだけじゃなくて、おやすみもいつか言える日が来たらいいのにな、なんて思う。
「佐久間、今日も頑張ろうな」
「! もちろんであります!!ずっと国王について行きます!」
「ふははっ、なんだそれ」
俺の言葉に楽しそうに笑う顔も、仕事に対する熱い気持ちも、プロ意識も、全てが憧れで、全てが大好きだ。
今日の仕事を全て終え、そろそろ解散になるというその時、事件は起こった。
ーー涼太がいないのだ。
いつからいない?
さっきまで一緒にいたのに。
どこに行ったんだ?
得体の知れない恐怖が体を駆け巡る。居ても立っても居られなくて、近くにいた深澤に探してくるとだけ伝えて、走り出した。
スタジオの中、倉庫、ビルの地下駐車場、色々なところを探しても彼の気配すらなくて、怖くなった。このまま涼太がどこかへ行ってしまうのではないか、一度よぎった不安は消えなくて、無我夢中でまた駆け出した。
あぁ、こんな時、足が早ければもっと早くお姫様を助け出せるのに、なんて考えながらあまり早く走れない足を目一杯高く上げ続けた。
どれくらい走っただろう、ふと、綺麗な声が聞こえた。
声のする方へ足を向けると、そこには涼太がいた。
何をしているのだろうと、空きスタジオの扉の前で様子を伺う。
セットの椅子に座りながら、ぼーっと歌を歌っていた。
恋の歌。俺たちの歌。
“あなたに愛されたいのさ”
息が詰まった。涼太にも愛されたい人がいる。涼太の顔はとても寂しそうで、悲しそうで。誰のことを想ってそんな顔をしているのか気になったが、今はただそんな顔をさせたくなくて、守りたくて、気づけば涼太の元へ駆け寄っていた。
「っりょうたッ!!」
「!? さくま!?!? ど、どうしたの」
「どうしたのって、みんなで楽屋帰ってきたら涼太がいないから心配で」
「探してくれてたの?」
「ぁ、、ぅん。。」
「、、息切れてる…走って探して…っぅ、、」
涼太の目から涙が溢れる。きれい。
って、泣いてる!?!?
「ぅぇ!?!?どうしたでやんすか!? どこか痛い!?怪我した!?」
「っちが、、ちがうの…、ごめっ……」
「な、なかないでよ…、なんでも聞くから、、どうしたの、っ」
「さくまがやさしいから…っく、、ッ」
「そりゃ大事だもん!泣いてるなら助けたいよ」
「ちがうの、ごめん……おれ、ね」
「うん、ゆっくりでいいから…」
涼太の背中をさすりながら、次の言葉を待つ。
「さくまのことすきなの」
「………んにゃ???」
気持ちを教えて お姫様
どうか泣かないでよ 守るから
俺の心と裏腹に 貴方の涙は俺のせい
なんでもするから 今だけは
その頬の雫を 拭わせて
悲しませたつぐないに 俺のキスは見合うかな